流体構造連成解析 旗のはためき現象の高度非線形シミュレーション
独立行政法人 産業技術総合研究所 先進製造プロセス研究部門
製造プロセス数理解析研究グループ 博士(科学) 澤田有弘 様

ここで紹介する可視化事例は、日常的にも良く見かける「風の中で旗がたはめく現象」を計算力学でシミュレートしたものである。この現象はシミュレーションの分野では現在もチャレンジングな課題と位置付けられており、空気の流れと布製素材の旗の変形を同時に解くことが難しい。 開発者はモデリングの自由度が高い非線形有限要素法の技術をベースに、旗と一緒に変形する移動型の局所メッシュを固定型の全体メッシュに重ねることで流体領域をモデリングし、旗そのものは斜めと横に引っ張ったときとで挙動が異なる異方性材料特性を与えたシェルと呼ばれる構造要素でモデリングした。これにより、このようなダイナミックな形状変化を伴う連成問題に対しても、空気と旗の運動方程式を一緒に解く強連成型の解析手法を適用することに成功した。現象の面白さのみならず、数値シミュレーションのポテンシャルを示す例としても貢献する。

図1は旗の変形と密接に影響を及ぼし合う空気の流れ場の解析結果の可視化であり、MicroAVSの三次元可視化機能を最大限に活用して表示した。旗のダイナミックな変形の可視化と共に、空気の中央断面の圧力の等高線、そこから上下にずらした位置の二つの断面の流線、更に、前方から旗を斜めに横切る断面の流速ベクトル等の情報を、一枚のJPEG画像として可視化した。 このような複雑な可視化処理や可視化要求に対しても、専門的知識を全く必要とせずに行える。生じている現象の観察や挙動把握のみならず、解析結果のデモンストレーションやアピールにも、専門、専門外問わずに役立つ。


図1 旗のはためきの非線形シミュレーションの高度三次元ビジュアリゼーション

更に、少し工夫が必要だがMicroAVSの可視化機能を使いこなせば、図2ようなコンピュータ・グラフィックス的な可視化も行える。私はいつも、これのアニメーション動画を国際学会での研究発表のトップバッターに使用し、日本、更には日本の素晴らしい技術を世界にアピールしている。実はこのシミュレーション、日の丸のほうの旗にのみ重力を与え、もう一方の旗には与えていない。条件の違いによる挙動の違いをダイナミックに観測することができ、非常に面白い。これらのシミュレーションに適用した計算手法は、筆者の筆頭文献である日本計算工学会論文集No.20070029やNo.20080005などを、参照頂きたい。 旗のはためきのダイナミクスに関する研究の報告も、日本機械学会論文集A編71巻701号p.1〜p.8などで行っている。旗のはためきには秩序が有るのか無いのか、ダイナミクスの探求を行った。


図2 可視化応用例:節点データに色を乗せることで日の丸を再現