「可視化」でサポート!人工関節術前計画支援システムの開発 〜医療現場での明確な“見える化”の実現に向けて〜
岩手県立大学 ソフトウェア情報学部 教授 土井 章男様

教育目的の内診トレーニングシステムの開発

他に、産科医、助産婦さん用の内診のトレーニングシステムを開発しています。

実際の妊婦さんを使ってトレーニングすることはできないので、内部に骨とか赤ちゃんが入っているモデル(人工的に作った人体)を作成し、そのモデルを用いて、内診の練習をします。しかし、外側からは指が内部のどこを触っているとか、どこまで入っているか見えません。そのため、先生と生徒は、どこまで指が入っているとか、どこを触っているとか、話をしながらトレーニングを進めるのですが、本当のところ、どこを触っているかはお互いにわかりません。
そこで、生徒の指にセンサーをつけて、その位置を計測してコンピュータグラフィックスで内部の状況を“表示”(モニタリング)します。それにより、先生は生徒がどこを触っているかを正確に把握しながら指導することができます。生徒も、モニタリングを見ることで、“ここは骨盤だから堅い、ここで子宮口に届いている”という感覚を自分で確認することができます。

今、産婦人科医さんが減少していますね。産科医や看護師さんが何年も経験して学ぶことを、このシステムを使うことで、少しでも時間を短縮できればと思います。

このシステムでは、逆子とか、顔の鼻が子宮口のところに来ている顔面位のような異常分娩のモデルも用意しています。これらの実体モデルは、あらかじめ人間が手で入れ替えます。実際、異常分娩は、なかなか経験できないため、そのような状況の遭遇した時の感覚を教育で習っておくと、実際起こった時にあわてずに対処できると思います。展示会でも、好評で、使わせてほしいとか、購入したいとかの声が多っかたですね。この方式(指にセンサーをつける)は、真似されないように、日本、アメリカ、ヨーロッパで特許を取っています。

将来的な研究目標は?

岩手医科大学は、磁力の強いMRIをもっておられ、その装置を使わせて頂きながら、共同で脳の研究もしています。脳は複雑です。例えば、癌とか腫瘍の手術では、どこまで切っていいかという問題がありまして、あんまり切りすぎると、場合によっては、手に麻痺が起こったり、失明したりする可能性があります。逆に少なく切った場合、腫瘍が再度、発生する可能性も生じます。MRIとCTで、その範囲の決定を支援する研究です。

また、脳の神経線維の分布や方向を調べることも重要です。腫瘍ができると神経線維は、腫瘍のまわりを囲むように出来上がるので、それを可視化することで腫瘍を特定することができます。これには、特殊なMRIを使って、複数方向に磁場をかけたMRI画像を6〜7種類とって、神経線維方向を推定します。「MicroAVS」で流線表示するとこんな風になります。(図1)


図1「MicroAVS」を使った脳神経線維の可視化

脳の病気は、くも膜下出血など、発見が遅れると手遅れになる場合が多いです。小さい出血などは、見落としやすくなります。そのため、熟練したお医者さんや専門の脳神経外科医が対応できない場合、判断ミスや見落としが少なくなるような支援システムが重要です。また、血管とか入り組んだものは、立体視した方がはるかによくわかります。

そのため、今後の医療分野では立体視の活用も考えられます。手術前には、担当医、助手、看護師などの方が、術前計画の打ち合わせをされています。現状では、画面にレントゲン写真や複数枚のMR画像を貼って、打合せをされていますが、今後、3次元的な表現に変わっていくと思いますね。立体視をすれば、血管とか入り組んだものでも、全員に共通した理解が得られると思います。

私が医療分野の仕事を始めたきっかけは、特に涙的な物語はありません(笑)。IBMにいたときから3次元の医療画像とかCGのレンダリングを研究していたこと、それから、医療分野でコンピュータが十分に活かされてないと思うことが理由です。もっとコンピュータの操作が簡単になって、より医者と患者の負荷は減るはずですね。その点で、医療(工学)の分野にはやるべき事はまだいっぱいあるんじゃないかな、と思います。

私が、開発技術の製品化にこだわる理由ですが、実際に考えたものとか研究したものを活かしていくためには、やはり論文書いているだけでなかなか活かされないと思います。世の中に役立ててもらった方がいいな、という感じでやっているんですが、いかんせん、お金がかかります。特にソフトウェア開発の場合、人に蓄積されるノウハウが多く、開発者がいなくなると痛手が大きいです。そこで会社を作って、継続的な開発ができるようにと思っているのですが、なかなか簡単ではありません。
プログラミングについては、基本部分のみの研究開発を行い、時間のかかるユーザインターフェースなどの部分は、他のメーカと共同開発すると言った形でやらないと、なかなか太刀打ちできないですね。開発や販売で、産学官が上手く連携できれば、もっと良くなると思いますが。

参照:岩手県立大学発ベンチャー(株)i-Plants Systems URL
http://www.i-plants.jp/hp/products/

編集後記

岩手県や今後の医療現場の改善にも大きく貢献されている、土井先生。
今後も斬新な発想を用いて、未来の改善につながるであろう有効な技術で医療現場をサポートされることと思われます。
ますますのご活躍に期待しております。