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システムシミュレーションのすすめとつなぐ技術(2)
第二部:応用編
2021年1月
目次
- はじめに
- 自動車への応用例-平均値インバータ-
- 2.1 平均値インバータとモータのモデリング
- 2.2 システムシミュレーションによる結果検証
- 電動航空機への応用例ーシステムシミュレーションの構築ー
- まとめ
はじめに
前回の基礎編ではシステムシミュレーションの有効性について述べました。少し振り返ってみますと、前回の要点は(1)対象をシステムとして捉えましょう。(2)それによって、電気や制御あるいは熱などの機械システムを同時に考慮することができます。(3)さらに、各サブシステム、モデルの精度を意識しましょう。に対しそれぞれの要素技術について説明しました。今回は、個別からいよいよ実際の自動車や航空機を対象にしたシステムシミュレーションの適用例について説明することとします。
自動車への応用例
-平均値インバータ-
今さら、の感はありますが、近年、様々な産業分野で、シミュレーション技術を利用して製品開発・技術開発を行うことが当たり前になってきました。制御系設計においてはモデルベース開発(MBD:Model Based Development)を行うことが主流となり、制御器や制御対象をモデリングし、シミュレーションによる制御パラメータの調整等を行っています。また、最近では企画や構想段階で用い、システムの実現性や仕様を検討するために用いるシステムシミュレーションの重要性も唱えられています。MBDは従来の制御系の設計に留まらず、機器設計等、他の設計領域との連携も盛んに行われるようになってきました。これに伴い、モデルの精度・抽象度を、使う目的に合わせて自由に選択できる環境/技術が必要となってきています。
応用事例としてまず、パワーエレクトロニクスシステムにおける重要な要素の一つである三相インバータに着目し、PWM(Pulse Width Modulation)によるスイッチングを平均値として扱い計算コストを抑えた平均値インバータのモデリングと活用を紹介します。
2.1 平均値インバータとモータのモデリング
一般的にインバータのモデリングは、IGBTなどのパワーデバイス、ダイオードの非線形特性を理想的なスイッチとみなす方法が広く用いられています。三相モータ駆動、バッテリへの回生といったシステムレベル解析から、デッドタイムの影響、スイッチングに伴う高調波成分の影響の解析等の用途で適切な計算刻みを用いれば十分な精度が得られるため、パワエレ系ツールの多くはこの方法を採用しています。しかし、PWMによるスイッチングを行うため、ソルバの計算刻みは、キャリアパルス周期やデットタイムより十分に小さくする必要があるのも現実です。一般に、インバータのPWMパルスの周波数は数百から数十kHzが利用されますがこのような高周波信号の過渡応答をシミュレーションで再現するには、数値計算ソルバにおいて数秒以下の小さな計算刻みが要求されるため、今日のプロセッサの性能では計算に時間がかかってしまい、現実的な時間で数分間といった長い計算時間を必要とする実現象シミュレーション等への適用は困難となります。
一方、それを解決するために導入する平均値インバータモデルでは、モータ駆動時のPWMによるスイッチングを平均電圧として扱うことにより、十分な計算速度を確保しつつ、三相モータ駆動、回生といったシステムレベルの結果について、理想スイッチモデルとほぼ同等の精度を得ることが可能です。さらに今回紹介するモデリング手法は、インバータを一つの独立したコンポーネントとしてモデル化し、PWMスイッチングと同様の仕様とすることで詳細度に応じ、モデルの抜き差しが可能となるよう、極力I/Oを共通化しました。 図1 に従来のPWMインバータ及び平均値インバータのI/Oを比較したものを示しますが、このようにインターフェイスを統一することは、モデルによる影響を比較検討するときに非常に重要な要件の一つとなります。
図1 インバータ理想スイッチモデルと平均値モデル
ここで少し、数学的なモデリングについて考えてみます。