製品
CAEとは?
CAE(Computer Aided Engineering)とは、コンピュータを利用した工学支援システムのことです。
簡単に言うと、実際に試作や実験をしなくてもコンピュータ上でさまざまなシミュレーションをして、工学的問題を解決できるシステムを指します。CAEを活用すると実際に試作や実験をしなくてもコンピュータ上でさまざまなシミュレーションを実施することができます。また、真空状態や温度1000℃での構造物の変化など、現実的には実験が難しいシミュレーションも行えます。
CAEを活用して事前に性能や機能のシミュレーションをすると、試作や実験の回数を減らせるため、コストダウンや納期短縮にもつながります。CAEは自動車やエレクトロニクスなどの分野だけでなく、通信や医療、エネルギーなど多様な分野で導入が進んでいます。この記事では、CAEの概要や導入メリット、実際に活用されている解析分野などCAEの基礎知識をまとめて解説していきます。
この記事を読むと分かること
動画でわかるCAE
1.CAEとは
冒頭でも述べたようにCAE(Computer Aided Engineering)とは、コンピュータを利用した工学支援システムのことです。構造力学、流体工学、音響工学、精密工学などあらゆる工学で説明できる現象をコンピュータの計算能力などを活用し、わかりやすく可視化します。
もっと簡単に言うと、実際に試作や実験をしなくてもコンピュータ上でさまざまなシミュレーションによって、工学的問題を解決できるシステムだと言えます。
例えば、扇風機を製造する場合、条件により風の流れや涼しさが異なります。最適な条件を見つけるために、試作や実験を重ねるとコストと時間がかかります。
そこでCAEを活用すると、すぐにコンピュータ上でシミュレーションをすることが可能です。さまざまな条件ごとに風の流れや温度変化を可視化でき、実際に試作をしなくても検証を重ねることができます。
自動車を設計する場合は、重要な評価指標の一つとして衝突安全性があります。とは言え、非常に速い速度で自動車を衝突させる実験を行うのは、危険を伴うため限界があります。衝突実験の度に自動車を大破させることも、開発コストの増加や環境負荷につながります。
CAEを活用すれば高速の衝突実験のシミュレーションができ、リスクの予測や最適な部品設計の検討などに役立てられます。
このように、実際に実験や検証を重ねなくても新たな発見や予測ができることがCAEの最大の価値です。CAEは機械や自動車分野だけでなく、食品や医薬品など解析分野が拡大しています。次の章では、CAEが活用されている業界について詳しく解説していきます。
2.CAEが活用されている業界
CAEは構造力学や音響工学、精密工学をはじめとするあらゆる工学問題の解消をサポートする解析ができるため、多種多様な分野で導入されています。
ここでは、CAEが活用されている分野の中でも特に注目したい「自動車業界・エレクトロニクス業界・ヘルスケア業界」の3つの業界について、どのように導入されているのか解説していきます。
2-1.自動車業界
自動車業界では、CAEが盛んに活用されています。その背景として、次の3つが挙げられます。
1. 試作や実験による負荷が大きい
自動車1台には、3万個程度の部品が使用されています。新たな自動車を設計するときに、全ての部品の試作と実験、改善を繰り返していると多大な時間とコストがかかります。
自動車1台の試作には10億円以上かかると言われているほど、実際に試作をすると負担が大きいのです。CAEを活用すれば自動車の設計段階からコンピュータ上でシミュレーションができるため、コストや時間を大幅に短縮できます。
CAEの検証結果はデータとして残るので設計や性能の裏付けや各部門摺り合わせがしやすく、スムーズな開発にも一役買ってくれます。
2. 一連の工程でCAEを活用できる
自動車業界では、企画/設計から保守点検まで一連の過程でCAEを活用できます。下記はインバーターの製造過程ですが、設計や検証、製造段階でCAEを使い性能や形状をシミュレーションしています。
一部分のみでCAEを導入するのではなく、各工程の課題に応じたCAEを有効活用できるのです。その結果、コストや時間を削減しながらも、精度の高い自動車の製造が実現します。
3. 電動自転車やハイブリッド自動車にも活用
昨今は、環境に配慮した自動車を推進する動きが活発化しています。国内でも次世代モビリティとして、電気自動車やハイブリッド自動車などの製造が後押しされるようになりました。
CAEを活用すれば新たな技術の開発や検討の幅が広がり、時代に沿った自動車を開発しやすくなります。
- モーター駆動による熱や振動騒音のシミュレーション
- 自動車に搭載するバッテリーの性能シミュレーション
- インバーターの熱や振動による疲労寿命シミュレーション
など、高度な技術にも対応でき、他社に差をつける開発が可能です。
自動車業界の活用事例:足回り部品の解析
自動車の足廻りは重量負荷がかかるため、強度の検討や高負荷領域の把握が欠かせません。
実際に実験をすると足廻りを組み立て自動車を走行させる必要があるため、コストと時間がかかります。 CAEを活用すれば高負荷領域や強度が短時間で可視化でき、適切な配置により不要な部材の削減が検討できます。
2-2.エレクトロニクス業界
エレクトロニクスとは日本語で「電子工学」を指します。エレクトロニクス業界とは、電子工学を用いて半導体や電子部品、電化製品を設計、製造する業界のことです。
エレクトロニクス業界も自動車業界と同様に試作や実験を繰り返し、設計を検討する必要があるため、CAEが広く活用されています。また、エレクトロニクス業界は熱や光の移動、電磁波など目に見えないものや現実的に実験が難しいものを検討する必要もあります。例えば、電子機器に対してCAEを活用することで、指定した条件下での電磁波の分布や変化を、容易に可視化して分析することができます。
また、電磁波は一定基準を超えると人体に悪影響を及ぼすため、実物での実験が難しい場合があります。そのようなケースでもCAEを活用すればどのような変化が起きるのかシミュレーションができ、安全性に配慮した製品や部品の製造に活用できます。
エレクトロニクス業界の活用事例:タッチパネルの接触解析
スマートフォンやタブレットなどのタッチパネルは、指の圧力により部品に歪みや変形が起こる可能性があります。
CAEを活用すれば指が通過した軌跡を可視化し、部材の変化を検証できます。
右記は指を模したモデルが、タッチパネルに指を押しつけながらスライドをしたときの解析結果です。
最終的に指がふれている箇所よりも、指の軌道上で歪みが起きていることが分かります。この解析を基に、タッチパネルのレスポンス改善や部材の検討ができるようになります。
2-3.ヘルスケア業界
CAEは、医療機器や医薬品、病院などのヘルスケア業界でも活用が進んでいます。
例えば、インプラントをはじめとする個別対応が必要な装置は、個々の属性に合わせて設計する必要があります。
CAEを活用すれば画像診断などのデータからシミュレーションを行って、個別最適設計の実現に役立てることができます。
ヘルスケア業界では衛生管理や安全性から、使用できる素材に限りがあります。強度や柔軟性のシミュレーションを行えば、限られた素材でも目的に合う器具を提案できるでしょう。
他にも、手術の事前検証や錠剤の溶出シミュレーションなど、活用シーンが広がっています。コロナ禍では、飛沫拡散のシミュレーションや殺菌のシミュレーションにもCAEが活用されるようになりました。
ヘルスケア業界も手術や飛沫拡散など、現実的に検証を重ねることが困難なケースが多いですが、CAEを活用すれば、短期間での開発や低コストでの個別対応が可能になります。
ヘルスケア業界の事例:航空機による移動中の感染リスクの解析
航空機による安全な移動を実現するためには、密閉環境である機内における飛沫拡散を最小限に抑えることが重要です。
そこで、CAEを用いて咳をしている乗客の粒子を可視化し、シミュレーションをしました。2列目と4列目の乗客が咳をしていると仮定し、空気孔の位置や気流により飛沫がどのように広がるのか2つのケースを分析しています。
1つ目のケースは、2列目と4列目の乗客ともにフェイスマスクをしていないケースです。2つ目のケースは2列目の乗客のみフェイスマスクを着用します。
2つのケースにおける客室内の粒子拡散をシミュレーションすると、下記のようにフェイスマスクを着用すると粒子の広がりが防げることが明らかになりました。
今回のシミュレーションからフェイスマスクを着用すると、咳飛沫でウイルスが広がる可能性が大幅に削減できることが確認できました。このように、CAEは実際の試作や実験が難しいヘルスケア業界で活躍をしています。
3.CAEを使用する5つのメリット
CAEを導入することで、下記の5つのメリットが得られます。
- コストを削減できる
- 価値のあるシミュレーションができる
- 開発期間を短縮できる
- 環境負荷が減らせる
- DX推進に一役買ってくれる
どのようなことがメリットとなるのか、1つずつ見ていきましょう。
3-1.コストの削減
1つ目は、製品の開発にかかるコストを大幅に削減できるところです。CAEがないと製品の製造に至るまでに、実験と試作を何度も繰り返さなければなりません。
自動車の場合は、1台の試作費用は10億円以上だと言われています。試作品を設計し問題を見つけ再度試作を作り直すとなると、莫大な費用がかかります。
1つ目のケースは、2列目と4列目の乗客ともにフェイスマスクをしていないケースです。2つ目のケースは2列目の乗客のみフェイスマスクを着用します。
- 何通りもの形状や機能をシミュレーションできる
- コンピュータ上で耐衝撃性や耐熱性などの実験ができる
ため、早い段階で問題を発見し改良することが可能です。その結果、工程や試作品を最低限に抑えることができ、大幅なコストダウンにつながります。製品開発にかかる費用が削減できるのはもちろんのこと、利益率の向上も叶います。
3-2.価値のあるシミュレーションができる
2つ目は、CAEがないと実現できない価値のあるシミュレーションができることです。CAEがないとシミュレーションができない、難しいケースとしては下記が挙げられます。
CAEでないとシミュレーションができない・難しいケース
- 電磁波の伝わりや広がりを確認する
- 材料内部の磁束の流れを確認する
- 材料内部の応力を確認する
- 極限環境での実験(1000℃の場合にどうなるかなど)
- 原子レベルや宇宙レベルの実験
- 核分裂の実験など規制や制限があり実施できないもの
- 真空状態や無重力状態など再現が困難な環境
- 危険を伴う実験(衝突実験や高温実験など)
極限環境や再現が困難な環境での実験は、CAEがないと検証が難しい場合があります。対象物が1000℃の場合にどうなるか、高速で衝突するとどうなるかなど危険を伴う検証もCAEだからこそ可能です。
現実的にできないシミュレーションを重ねることで、従来の検証では把握できなかった気づきやアイデアが生まれます。それだけでなくリスクを適切に理解し、今までの経験や事例に依存しない設計や製造ができるようになるでしょう。
製品や設計の可能性を広げる解析ができるのは、CAEならではの強みです。
3-3.開発期間を短縮できる
3つ目は、製品の開発にかかる日数や納期を短縮できるところです。CAEを使用しない場合は、実験と試作を繰り返して精度を高める必要があるので、どうしても時間がかかります。
洋上風力発電のための風力タービン設計では、アクセスの難しい洋上に複雑な回転機械を設置するため、設備の信頼性や耐久性を検証することも重要な開発ファクタとなります。しかし、実物での耐久性検証には数十年の歳月を要します。
CAEを活用するとコンピュータ上ですぐにシミュレーションができるため、検証期間を大幅に短縮できます。
検証期間の短縮により開発期間を短縮できるため、効率のいい製品開発が可能です。市場へも早期投入ができ、競合他社との差別化やいち早い収益化が実現します。
3-4.環境負荷が減らせる
4つ目は、CAEを導入することで環境負荷が減らせることです。その背景には、2つの理由があります。
1.実験による大量廃棄を防げる
分野や製品によっては、実際に実験を行うことで大量の廃棄物が発生する可能性があります。例えば、自動車や自転車の衝突実験を実際に行うと、大破した自動車や自転車が生じます。
CAEなら実際に自動車や自転車が大破する必要がないので、廃棄物を発生させることなく環境に配慮をしながら検証や実験を進められます。
2.環境負荷を考慮した製品が作りやすい
CAEが導入されていないと実験と検証に時間やコストを要するので、環境に配慮した製品設計まで到達しにくい側面があります。CAEを導入すると、下記のように環境に配慮したシミュレーションが手軽にできます。
照明機器を開発するときに、必要最低限のLED数で充分な光量を確保できる配置を検討できる
CAEを活用し適切な電子制御装置を設計することで、自動車の燃費を向上させる
環境問題に取り組む企業が増えている中、CAEを導入するといち早く環境に配慮した製品開発ができるようになります。
3-5.DX推進に一役買ってくれる
DX(Digital Transformation/デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を導入し顧客の視点で新たな価値を創造していくことを指します。
DXはコロナ禍をきっかけに、一気に加速しました。テレワークや業務改革による止まらないビジネスの実現に向けて、企業におけるDXの推進が急務となったのです。
下記の資料からも分かるように、DXを進める上でデジタル技術を活用できる人材の配置が特に求められているのは生産管理や製造部門となっています。これらの部門においては、DXの一環としてCAEの活用が求められています。
CAEを導入することでデジタル技術を使い
- 競合他社に差をつける
- 新たな価値の創造
というDXの根幹となる課題を解消できます。企業のDX向上を推進するデジタル技術としても、CAEは充分活用できます。
4.CAEの解析分野の一例
CAEの代表的な解析分野には、下記の4つがあります。
Additive Print | |
---|---|
構造解析 | 構造物に荷重がかかったときの変形や応力を分析するための解析 |
流体解析 | 気体や液体の流れ、圧力の影響を分析するための解析 |
電磁界解析 | 磁力や電気信号、電磁波を使用する製品や部品において、対象物との相互作用を分析するための解析 |
光学解析 | 光の反射や屈折、分散など光の振る舞いが対象物に与える影響を分析するための解析 |
それぞれどのような解析なのか、事例を踏まえてご紹介します。
4-1.構造解析
構造解析とは、構造物に荷重がかかったときの変形や応力を分析するための解析です。
もう少し簡単に言うと、構造物に負荷をかけたときの倒壊や破壊、変形の具合を可視化し、最適な部材や形状の検討、安全性の確認に活用します。CAEを使えば難しい構造計算や実際の実験をしなくても、複雑な形状や現象を解析することが可能です。
例えば
- 自動車が衝突したときの破損状況をシミュレーションし、最適な形状や材料を検討する
- 地震が発生したときの建物の変形をシミュレーションし、耐震構造を検討する
- 荷物を運ぶ台車の強度をシミュレーションし、安全性を確保した部材を選定する
など、部材や建造物、製品の設計やシミュレーションに活用されています。
プラスチック容器の強度評価シミュレーション
ペットボトル容器の開発では、輸送・運送時の耐久性を検討するために圧縮実験を行います。実際にペットボトル容器を試作し圧縮実験を行うと、試作と実験の繰り返しが必要となり時間とコストがかかります。
CAEを導入すると、1ケース数十分程度でシミュレーションが完了。容器内が空のケースや容器内が水で充填されているケースなど解析条件を細かく指定し、さまざまシチュエーションを想定した評価ができます。
解析結果:変形アニメーション(ペットボトルが水で充填されている場合)
CAEを活用すれば、短期間で最適な形状を見出すことが可能です。
4-2.流体解析
流体解析は、気体や液体の流れ、圧力の影響を分析するための解析です。空気の流れによる熱の移動といった、流体力学を応用した分野を対象としています。
CAEを導入するとベクトル図やコンター図、流線を用いて、目に見えない流体の動きを可視化できます。
例えば
- 電子機器を開発するときに温度を可視化し、効率のいい冷却方法を検討する
- 車両を設計するときに空気の流れを可視化し、最適な車両形状を検討する
- 空間をデザインするときに空気の流れを可視化し、空調設備の設置位置を検討する
など、多彩な分野で活用できます。
事例:UV-LED流水殺菌装置の殺菌効率性能シミュレーション
浄水場で紫外線光源(UV-LED)による殺菌効果を調べることになりました。浄水場は面積が広いだけでなく大型の殺菌装置を使用しているので、実際に水を流して実験をすると莫大なコストがかかります。
そこで、CAEの光学解析(照度や輝度、明暗度など光の振る舞いを分析)と流体解析を活用。照明解析で紫外線光源の伝搬を調査し、殺菌装置内の照度分布を解析します。このデータを基に、流路で水中の微粒子が受け取る紫外線のエネルギー量を算出します。
その結果、浄水場の殺菌効率を可視化することが可能です。CAEでのシミュレーションを基に大規模な実験をしなくても、UV-LED流水殺菌装置の活用が検討できた事例です。
4-3.電磁界解析
電磁界解析とは、磁力や電気信号、電磁波を使用する製品や部品において、対象物との相互作用を分析するための解析です。今や生活に欠かせない電子機器や電化製品、スマートフォンですが、これらからは電磁波が発生しています。
人体への影響や他の製品との干渉を把握するために、設計時や検討時には適切な評価が欠かせません。CAEを導入すると、目に見えない電磁波や磁力が可視化でき、設計や安全性の検討に活用できます。
電磁界解析は
- 自動車や飛行機のアンテナを設計する際にシミュレーションし、通信精度を保ちながらサイズや位置を検討する
- 医療機器や電子機器など電磁波が発生する製品が人体に与える影響をシミュレーションし、使用方法を検討する
- 電子基板の電流密度や電界分布を可視化し、性能や部材を検討する
など、さまざまな分野で活用されています。
事例:人体近傍におけるスマートフォン内蔵アンテナの解析
現在主流となっているスマートフォンは、アンテナが内蔵されています。スマートフォンを耳にあてて通話をする際に、アンテナがどのような影響を及ぼすのか把握しておくことは非常に重要です。
しかし、試作段階でこのシミュレーションをすると多くの検証データと試作品が必要となり、時間とコストがかかります。CAEを活用すれば、スマートフォンを耳にあてたときの放射パターンや放射率、磁界分布などが簡単に可視できます。
その結果、スマートフォンが人体に近接したときのアンテナ特性が把握でき、設計に活用できました。
4-4.光学解析
光学解析とは光の反射や屈折、分散など光の振る舞いが対象物に与える影響を分析するための解析です。
CAEを導入することで光の明るさや色、照射範囲、光線などを可視化してレンズ設計や空間設計、センサーの設計などに活用できるようになります。
光学解析は
- カメラレンズの設計において、レンズ枚数や性能の最適化し、フレアやゴーストの要因解析により発生の抑制を検討する
- 省エネルギーを視野に入れた空間設計において、照度分布をシミュレートし、照明機器の数や形状を検討する
- 紫外線を利用した殺菌システムにおいて、照射の領域や強度をシミュレーションすることで、光源の配置や殺菌の効果を検討する
などで活用されています。
事例:自動車のレンズ設計と画質評価の解析
バックモニターが搭載されている自動車の設計では、解像度や歪みを含めた光学設計を検討する必要があります。実際に設計をして実験を繰り返すとなると、バックモニターの試作だけでも時間とコストを要することが想像できるでしょう。
CAEを導入するとレンズの解像度や画角をシミュレーションできるのはもちろんのこと、時間帯や環境別の入射光を考慮し視認性の分析ができます。
また、水滴や霧、赤外光のような非可視光の考慮など、日常のさまざまなシーンを想定したシミュレーションも可能です。
その結果、コストや手間を抑えながらも現実に沿った評価ができ、設計に活用できます。
CAEは今回ご紹介した分野以外にも、多彩な分野で導入されています。他の分野の事例は、下記より確認してみてください。
5.CAEの活用方法
CAEの概要が把握できたところで、実際にどのようにCAEを活用しているのか気になる方も多いのではないでしょうか。
今回は、自動車が完成するまでの流れに沿って、CAEの活用方法をご紹介します。
CAEの活用
どのようなときにCAEを活用するのか把握できるので、ぜひ参考にしてみてください。
5-1.企画・コンセプトの決定
新しい自動車の開発は、3〜4年をかけて行います。流行や生活スタイルを踏まえて、求められている自動車を企画します。
5-2.仕様の決定
自動車の仕様を細かく決めていきます。理想の仕様を実現するために
- 自動車の燃費のシミュレーション
- 自動車に使用する部品の歪みや強度のシミュレーション
など、性能のシミュレーションを行います。自動車や部品の実物がない状態でCAEを活用し性能や機能の事前評価をする方法は「モデルベース開発(Model Based Development)」や「1D-CAE」と呼ばれています。
DXの推進や環境負荷の軽減という側面から見てもモデルベース開発は重要視されており、各サプライヤがモデルベース開発で設計の摺り合わせをする流れにシフトしています。
初期段階でCAEを活用すると、問題や課題を早期発見できるところがメリットです。また、過去の事例や考えに縛られずシミュレーションを行うことで、新たな発見や可能性を見出すこともできます。
5-3.自動車や部品のデザインをする
自動車の機能や性能が担保できる仕様ができたところで、自動車本体や部品の形を決めていきます。自動車は部品だけでも3万点程度あるので、全てを試作し実験をするのは非常に大変です。
そこで、CAEを用いてデザインを検討していきます。自動車本体や部品は少し形が異なるだけでも、強度や耐熱性が異なります。性能とコスト、デザイン性のバランスが取れるようにCAEを活用して、デザインを決定していきます。
試作に進むときにはCAEの活用が性能やデザインの裏付けとなり、他業者との摺り合わせがしやすくなる一面もあります。
5-4.試作・実験をする
自動車本体と部品のデザインができたら、実際に試作品を製造し実験をします。ここまでシミュレーションを重ねてきているため狙い通りの自動車を作りやすく、試作や実験の回数を減らせます。
シミュレーションと実験結果に差がある場合は、原因を突き止めて次回の製品づくりやトラブル時の原因究明に活かします。
5-5.生産・販売をする
実験を終えたら、いよいよ自動車を生産して販売をします。自動車の販売時には、CAEの活用が品質保証の裏付けとして役立つこともあります。
例えば、自動車の足回りにおける強度シミュレーションの解析結果がある場合、どれくらいの負荷に耐えられるのかの裏付けとして提示でき、顧客が納得できる説明ができます。
5-6.保守点検・品質保証
自動車にトラブルが発生した場合は、原因究明や対策にCAEを活用します。例えば、同じ部品ばかりが故障する事例が起きたときには、部品の強度や振動への耐久性などのシミュレーションをして、どこに問題があるのか見極めていきます。
このように、自動車の生産においてCAEは一部分で使用するのではなく、さまざまな過程で活用されているのです。もちろん業界によって活用方法は異なるので、一例として参考にしてみてください。
6.CAEを導入するときの注意点
具体的にCAEの導入を検討するときに知っておきたい注意点として
- 自社の目的に合うツールを導入する
- CAEを活用できる技術者の育成が必要
という2つがあります。CAEをスムーズに導入するためにも、あらかじめ把握しておきましょう。
6-1.自社の目的に合うツールを導入する
CAEを導入するときは、CAEを活用する目的に合わせてツールを選択することが大切です。チェックしたいポイントは、次の5つです。
CAEツールを導入するときのチェックポイント | |
---|---|
解析の分野 | 構造解析や流体解析など必要な解析に対応しているか |
用途 | 解析専任者が使用:高度な性能が備わっているツール 設計者が使用:使いやすさを重視したツール |
使用環境 | 自社のコンピュータ環境もしくはクラウド環境で使用できるか |
コスト | 導入コストやランニングコストは適切か |
汎用・専用 | 汎用:さまざまな解析をしたい場合 専用:1つの解析のみできれば問題ない場合 |
1つの分野だけに特化した解析をする場合は、専門性の高い専用ツールが向いています。社内の技術者が補助的なツールとして活用する場合は、使いやすさを重視した汎用ツールが向いているでしょう。
このように、CAEを導入する用途やコスト、使用者に合わせて適切なツールを選択することは非常に重要です。どのようなツールが自社に向いているかがわからないという場合は、お気軽に弊社までお問い合わせください。
6-2.CAEを活用できる技術者の育成が必要
CAEを導入するには、CAEが適切に活用できる技術者の育成が必要です。「2021年版ものづくり白書」からも分かるように、新たなデジタル技術の導入時にはノウハウ不足や人材不足が大きな課題となっています。
CAEを導入しても適切に使用できなければ、意味がありません。技術者の自主的な学習だけでは限界があるので、企業が一丸となりCAEの導入を進めることが重要です。
- 知識のある企業の導入支援を受ける
- 社内でセミナーを開催し正しい知識を共有する
など、CAEが活用できる人材育成も視野に入れてみましょう。
7.サイバネットシステムではCAEの導入をサポートします
サイバネットシステムでは、CAEの導入サポートをしています。長年の販売、サポート経験を活かし、企業の悩みや問題に合わせてスムーズなCAEの導入を実現します。
サイバネットシステムは、CAEの汎用ソフトウェア「Ansys」の国内代理店です。最高レベルパートナーの証である「Ansys Apex Channel Partner」に認定されています。
これは国内代理店初の快挙で、厳格な認定要件を満たす顧客満足度の高いサービスが提供できていることになります。豊富な知識と経験を活かし、下記の5つのサポートを実施しているのでお気軽にお問い合わせください。
4つのステップとサポート体制
1.導入立ち上げ支援
「CAEの導入方法が分からない」とお悩みの企業さま向けに、現状の課題の把握やCAEの導入モデルの提案を行っています。
2.オペレーション教育
CAEを使うための技術的なトレーニングを開催しています。ツールや解析分野別のトレーニングや業務内容に沿ったトレーニングなど、課題や悩みに合わせた提案が可能です。
3.CAEユニバーシティによる理論教育
CAEエンジニアを育成するための、教育プログラムを提供しています。定期講座の他にも、要望に合わせた講座に対応できます。
4.カスタマイズによる解析の自動化
自社の業務内容に合わせてCAEを活用するためのツールの自動化やカスタマイズも行っています。自社でのカスタマイズ支援の他、弊社のオリジナルツールの提供も可能です。
8.まとめ
いかがでしたか?CAEの概要や活用方法が把握できたことと思います。最後にこの記事の内容をまとめてみると
CAE(Computer Aided Engineering)とは、コンピュータを利用した工学支援システムのこと
CAEは通信や医療、エネルギーなど多種多様な分野で活用されているが代表的な業界は次の3つ
- 自動車業界:時間やコストを大幅に削減できる・電気自動車などの最新技術に活用できる
- エレクトロニクス業界:現実的に試作できないシミュレーションができる
- ヘルスケア業界:医療器具の個別対応や手術前のシミュレーションなどに活用できる
CAEを導入するメリットは次の5つ
- 試作や実験にかかるコストを削減できる
- 極限環境や実際に再現が難しい環境などでの価値あるシミュレーションができる
- 納期までの時間を短縮できる
- 環境負荷が減らせる
- 企業のDXを推進する役割を担ってくれる
CAEの代表的な解析分野は下記のとおり
CAEの代表的な解析分野 | |
---|---|
構造解析 | 構造物に荷重がかかったときの変形や応力を分析するための解析 |
流体解析 | 体や液体の流れ、圧力の影響を分析するための解析 |
電磁界解析 | 磁力や電気信号、電磁波を使用する製品や部品において、対象物との相互作用を分析するための解析 |
光学解析 | 光の反射や屈折、分散など光の振る舞いが対象物に与える影響を分析するための解析 |
CAEを活用する方法は下記のとおり
【自動車を製造するときの一例】
- 自動車の企画やコンセプトを決定する
- 自動車の仕様を決定するときに自動車や部品の実物がない状態で、
CAEを活用し性能や機能の事前評価をする - 性能とコスト、デザイン性のバランスが取れるようにCAEでシミュレーションをして、
デザインを決定する - 自動車の試作を製造し実験をする。CAEを活用し事前にシミュレーションをすることで、
試作と実験の工程の手間が削減できる - 自動車を製造し販売をする。販売時にCAEのデータが性能の裏付けとなり、信頼性や安心感を得られる
- 保守点検でもCAEを活用し問題点を分析する
CAEを導入するときの注意点は次の2つ
- 解析の分野や使用環境、コストなどを踏まえて自社の目的に合うツールを導入する
- CAEを活用できる技術者の育成が必要
CAEの導入や活用でお困りのことがありましたら、お気軽にお問い合わせください。