解析事例
LCDバックライトのモデリング ~エッジライト方式をモデリングおよび解析する手法~
こんな方におすすめ
- 液晶ディスプレイの設計開発に携わっている方
- 光の利用効率の向上についてご興味がある方
光学設計ソフトウェア Ansys Zemax OpticStudio のノンシーケンシャルモードを用いて、LCDバックライトのエッジライト方式をモデリングおよび解析する手法をご紹介します。CADモデルの事前準備は不要で、OpticStudio に標準搭載されているジオメトリ機能を活用してモデリングが可能です。また、LCDには画面全体での均一な輝度が求められるため、光線追跡により輝度分布を評価し、均一性向上に向けた最適化を実施します。
OpticStudio を用いることで、LCDバックライトの設計・解析をシンプルかつ直感的に行えることをご確認いただけます。
LCD ( 液晶ディスプレイ )

今日、LCD ( 液晶ディスプレイ ) はディスプレイ技術として広く普及している
- コンピュータのモニター
- スマートフォンの画面
- テレビの画面
LCDのバックライト
- LCD自体は発光しないので光源が必要
- その光源として採用されているのがバックライト
- LCDの後方から光を照射して視認性を確保
- バックライトには2つの照明方式があり、本事例ではエッジライト型を採用

エッジライト型バックライトの構成

①光源
CCFL(冷陰極管蛍光ランプ)またはLEDが主流
光の供給効率アップのため光源の後方にリフレクターを配置
②くさび形ライトガイド
全反射を活用することでディスプレイ全体にわたって光を供給
③ESR
ライトガイドを囲むように配置して、外に出る光を反射させて再利用するミラー
④BEF(輝度向上フィルム)
周期的に配列され、輝度や指向性を向上させる
事例 : バックライトの設計
本事例では液晶層は無視して携帯電話の液晶画面のバックライトのみをAnsysZemaxOpticStudioノンシーケンシャルモードで設計
- ディスプレイサイズ :75[mm]×75[mm]
- エッジの厚み :始点4[mm],終点1[mm]
- BEF : VikuitiTM T-BEF90/24
モデルが再現するエネルギー効率と均一性を下記の流れで確認
初期モデルが実現する性能を確認
散乱を適用して性能の変化を検討
散乱を実現するための微細構造として球のアレイ形状を最適化から検討
初期モデルが実現する性能を確認
初期形状のモデリング ~光源

- CCFL ( 励起された電子が管表面のコーティング材に衝突して光を放出 ) をモデリング
- 本事例では光源 ( チューブ ) オブジェクトで再現
光源 ( ダイオード ) オブジェクトを一列に並べることでLED光源を再現することも可能 - 下図のようにCCFLから出た光が、光源背後の反射板で反射してくさび形ライトガイドへ入射
- ライトガイド内では全反射で伝搬
初期形状のモデリング ~くさび形ライトガイドとBEF
- 材質
・くさび形ライトガイド : ACRYLIC ( アクリル )
・BE : PMMA ( アクリル樹脂 )
・どちらも内部透過率が ”25mmで93%” のものを使用(参考サイトより専用のカタログデータを取得可能) - くさび形ライトガイドの周りをミラーで囲み、光の利用効率を向上
- BEFは矩形体積オブジェクトで微細形状 ( 親オブジェクト ) を作成し、さらにアレイオブジェクトで全体を再現
・親オブジェクトを変更するだけでアレイオブジェクト全域に変更が反映されるので高い計算効率を実現

バックライトシステム全体と光線の伝搬の様子

BEFを構成する微細形状
性能の評価指標
- 光線追跡からエネルギー効率と均一性で性能を評価
- エネルギー効率
ディスプレイから照射されるエネルギー
光源から照射されるエネルギー - 位置空間の均一性
・ディスプレイ全体に渡って均一な出力が必要
・つまり、ピクセルごとの光束の偏差が最小であることが目標 - 角度空間の均一性
・円錐半角30度以下で均一な出力が必要
・なお、テレビやコンピュータのモニターであれば円錐半角90度以下で均一性が必要
光線追跡
- 閾値 : この値より小さい光線の追跡はしない
- 閾値により実際に追跡を終了したエネルギー
- ディテクタに到達した光線の総エネルギー

閾値1.0E-03で追跡を終了した分のエネルギーは
ディテクタに到達した総パワーに比べて十分に小さいので妥当な解析と判断
初期性能
- エネルギー効率
・光源1[Lumens]に対してディテクタに到達したのは約0.43[Lumens]→ エネルギー効率 約43% - 位置空間の均一性
・ディテクタビューアより、光源と反対側(-Y方向)の照度が高いことが見て取れる
・これは光源近くの入射角が大きくなり全反射が発生したことが原因 - 角度空間の均一性
・角度方向への均一性は見られず、ところどころにピークが発生
・これはくさび形ライトガイドとBEFの特性

照度

光度
散乱を適用して性能の変化を検討
散乱の活用を検討
- ここまでで得られた結果を向上するために変更できるパラメータは本モデルでは無いと仮定
- そこでライトガイドの入射面にランバーシアン散乱を設定

ライトガイドの入射面

入射した光線のすべてがランバーシアン散乱
散乱による性能の変化

- エネルギー効率
約43%→ 約46% - 位置空間の均一性
部分的ではなく全体的に照度が高いことが見て取れる - 角度空間の均一性
相変わらずピークが発生

照度の変化

光度の変化
散乱用の矩形体積を追加

- ライトガイドの入射面の散乱設定を削除
- 次はライトガイドの上面での散乱を検討
- 当初準備したこのモデルではライトガイドの矩形体積の上面”のみ”に散乱設定ができないため、散乱発生用の矩形体積オブジェクトを追加
・ライトガイドに面しているフェイスにのみランバーシアン散乱を設定
散乱の適用からの考察
位置空間の均一性
角度空間の均一性
ピークが抑えられて均一性が現れる
位置空間と角度空間それぞれの均一性は トレードオフの関係が見られる
ここまでの検証から予測できる最適なモデル
- ライトガイドの上面で散乱特性
- 光源付近では散乱が少なく、離れるにつれて多い


散乱を実現するための微細構造として球のアレイ形状を最適化から検討
ライトガイド表面の微細構造

イメージ図
- ライトガイド内で発生する散乱の量の部分的な違いを再現するため、[コーティング/散乱]ではなくアレイオブジェクトで散乱面の微細構造を再現
- 現在くさび形ライトガイドでは、成形した凹凸な微細構造が広く使用される
・ライトガイド上に散乱ドットの印刷という加工の手間が省ける - 本モデルでは小さな球オブジェクトをアレイオブジェクトでたくさん敷き詰めたもので再現
アレイオブジェクト

- [親オブジェクト]で指定したオブジェクトを並べた集合体
- 各要素は親オブジェクトの特性に従う
- 下記式に従って非等間隔の配列も作成可能

親オブジェクトが#1なので球オブジェクトのアレイを形成
アレイのパラメータを最適化
- 球のアレイをパラメータにして最適な散乱を得られるアレイを探索
- 最適化変数
・球の曲率半径
・X’,Y’の数
・デルタ1X’:本モデルではX方向は等間隔にするのでデルタ1X’のみ利用
・デルタ1Y’,デルタ2Y’:デルタ2Y’で非等間隔を生成

メリットファンクション

最適化の結果
- エネルギー効率の向上を確認
・約43%→ 約58% - 均一性の確保を確認
・広範囲にわたって光線が到達しており、ピークも無い

まとめ
- AnsysZemaxOpticStudioノンシーケンシャルモードでLCDバックライトの設計解析をシンプルな構成でわかりやすく実行できることがわかった
- ライトガイド内の全反射を再現したモデリングにおける性能の確認をして、簡易的な散乱を加えることで性能向上の見通しを立て、実際に散乱を発生させる球状の凸凹構造を最適化から求め、性能が向上したことを確認
- ライトガイド内の散乱をさらに詳細に検討することで、より高性能なバックライト設計も可能と考えられる
補足 : Ansys Speosでの設計
- LCDやOLEDのようなバックライト設計はAnsysSpeosでも可能
- OpticStudioで実行したような部品単位の設計解析のみではなく、モジュール単位でも設計が可能

LCD/OLEDの設計対象

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