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解析事例

電磁界解析

Ansys HFSSを用いた車載機器の伝導イミュニティ規格試験解析

Ansys Charge Plus による帯電リスクの可視化

解析概要

宇宙空間中のプラズマを構成する荷電粒子や光電効果をもたらす光子が人工衛星表面に入射し、衛星表面の帯電状態が形成されます。
帯電状態が形成されると衛星表面と周辺の空間電位との間で電位差が生じ、ESD の発生原因となります。
このESD は最悪の場合は電子回路の故障や材料劣化などにつながります。
帯電状態の形成過程は一般的に質量の小さい電子が高速で運動するので、表面への荷電粒子の流入は電子が支配的であり、その結果衛星表面は空間に対して負帯電(電子が帯電した状態)になる傾向があります。
一方、電子の衝突に起因する 2 次電子の発生や太陽光による光電効果により電子が放出されることで負帯電を緩和するため事象が複雑になり、机上での帯電状態の予測は難しいです。
本解析では、Ansys Charge Plus を用いて、静止軌道(GEO)におけるプラズマ環境および太陽光照射を模擬し、簡易衛星モデルの表面帯電をシミュレーションしております。
解析対象はシャーシ、太陽光パネル、支持体から構成される衛星モデルです。このモデルに対して、境界要素法(BEM)を用いて、ESD の原因となる表面電界や電子放出量、電位分布を定量的に評価しました。

こんな方におすすめ

  •  宇宙機の帯電対策を検討する方
  •  衛星設計に関わる方
  • 宇宙環境下での宇宙機の信頼性向上を目指す方

使用ソフトウェア

Ansys Charge Plus

背景/課題

宇宙空間では、太陽光やプラズマ粒子の影響により、衛星表面に電荷が蓄積されるためESD を引き起こす可能性があります。
このESD は機器損傷や誤動作、通信障害の原因となり衛星が機能不全となるリスクがあるため、設計段階での定量的な評価が求められます。
しかし、帯電は材料特性・環境条件・時間変化など複数の要因が絡む複雑な現象であり、従来の手法では十分な予測が困難でした。

解析対象および解析手法

解析対象

本解析では、図1 のような簡易衛星モデルを対象としております。
モデルは以下の3 つの要素で構成されており、表1 に代表的な材料特性を記載しております。
・シャーシ(アルミニウム)
・太陽光パネル(Solar)
・支持体(PTFE)

図 1 解析対象の衛星モデル

表2 解析対象の材料特性

部位 シャーシ 太陽光パネル 支持体
材料 アルミニウム Solar PTFE
原子質量[amu]  26.98 19.99 16.02
光電子放出特性[A/m^2] 4.0E-05 2.0E-05 2.0E-05
表面抵抗率 [Ohm/square] 完全導体 1.0E+19 1.0E+16
密度 [kg/m^3] 2700 2320 2200

解析モデル

今回の解析では衛星が静止軌道のプラズマ環境模擬しております。Ansys Charge Plus では静止軌道の陽子・電子の粒子温度[eV]、および密度[N/m^3]を設定できるプラズマ環境モデル (GEO Maxwellian) がライブラリとして搭載されており、こちらを使用します。

図 3 地球周回軌道

また、太陽光を衛星に照射する設定として照射時間、照射方向を設定します。
今回は-Z 軸方向へ500 秒間の照射後、太陽光が遮断される設定で解析を行います。

図 4 照射する太陽光の設定

解析結果

図4 に光電効果によって材料表面から電子が放出される量を示します。
静止軌道におけるプラズマ環境下で衛星表面に太陽光が照射されると、光電効果により各材料表面から電子が放出されます。この放出量は光電子放出特性や照射条件に依存します。シャーシの方が太陽光パネルより光電子放出特性が高いためより多くの電子を放出していることがわかります。また、太陽光パネルと支持体は光電子放出特性が同じですが、日光が直接照射されていない支持体では電子が放出されていないことを確認できます。

図 5 材料ごとの電子放出量の時間変化

図5 に太陽光が照射直後の電子放出の分布を示します。シャーシの天面で電子の放出量が高いことを示しております。

図 6 電子放出量の分布

図6 に材料ごとの表面電位を図示しており、支持体が最も負帯電しております。
シャーシと太陽光パネルは太陽光照射時、プラズマ中の電子の流入と光電効果による電子の流出が同時に発生しており、光電子放出特性が高いシャーシの方が多くの電子を放出しつつプラズマ環境から電子が流入されるため緩やかに負帯電しています。
一方、支持体は光電効果が発生していないため、電子の流入のみ起こり、他の材料より負帯電する速度が速いことがわかります。
また太陽光が遮断されると各部位では急激に負帯電が強くなります。
この様に光電効果や照射条件によって各材料に電位差が生じていることが確認できます。

図 7 材料ごとの表面電位の時間変化

図7 に太陽光が遮断された直後の電位分布を示しており、部位ごとの電位を確認することも可能です。

図 8 表面電位の分布

図8 に表面電界の結果を表示します。
衛星表面の電位差が生じると電位差に応じて電界が発生します。支持体が最も負帯電しているため、支持体からシャーシや太陽光パネルに入る方向の電界が生じていることが確認できます。太陽光遮断後は急激に高い電界が発生するためその結果ESD が発生しやすくなります。

図 9 材料ごとの表面電界の時間変化

本解析の効果

本解析では、衛星表面における電位・電界・電子放出量を定量的に可視化することで、帯電リスクの高い領域を明確に把握できます。これにより、ESD 対策の優先順位付けや材料選定の合理化が可能となり、設計の信頼性向上に貢献します。
また、照射条件や軌道環境に応じた構造配置の最適化にも活用でき、設計初期段階でのリスク予測と、検証工程の効率化に寄与します。

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