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解析事例

電磁界解析

マジック T 型導波管の電磁界解析

~理論との整合性を評価~

マジック T 型導波管の電磁界解析の概要

こんな方におすすめ

  • 導波管の設計を行っている方
  • 導波管を利用したマイクロ波/ミリ波のコンポーネント設計を行っている方
  • 導波管を利用したアプリケーション開発を行っている方

解析概要

導波管とは、マイクロ波及びミリ波を伝送する重要な構造体です。
本事例では、マジックT型導波管を例にその構成と理論を紹介し、Ansys HFSSによる解析を用いてその動作を理解することを目的としています。

使用ソフトウェア

背景・課題

マイクロ波及びミリ波のような高周波帯で良好な性能の導波管を設計するには、先ずその動作原理を理解し、次に理論に合った期待通りの性能が出ているかを確認することが必要です。

・マジック T 型導波管の動作原理

マジックT型導波管は、矩形導波管が 図1.に示すように4面開口のように接続されており、Port1、2、4からなるE面T分岐導波管とPort1、2、3からなるH面T分岐導波管が組み合わされた構造になっています。
この場合、各Portにおける散乱行列は次の式(1)のように4x4の行列式で表されます。
ここで、H面T分岐導波管の構造対称性から次の関係が成り立ちます。

S13 = S23 (2)

S11 = S22 (3)

次に、Port4から入力した電界(TE10モードの電界)は、E面T分岐導波管の考え方からPort1と2において位相が180°ずれ、Port1と2からは逆位相で出力されます。
即ち、次の式(4)の関係式が成り立ちます。

S14 = -S24 (4)

Port3から矩形導波管の接合部に入力する電磁界はPort4の導波管には伝搬しません。
つまり、Port3とPort4は互いに電磁界の結合が無いことになります。
よって、次の関係式が成り立ちます。

S34 = S43 = 0 (5)

Port3とPort4は互いに結合しておらず、互いに独立に整合をとった理想状態として考えると、次の式(6)の関係式で表されます。

S33 = S44 = 0 (6)

以上のような各Port間の関係を反映させ、さらに無損失であるとの条件で整理します。
上記のように仮定し、散乱行列の対称性とユニタリ行列の考え方([s]・[s]*=[I])を用いて整理すると、次の式(7)のように表すことが出来ます。
式(7)の散乱行列をもとに動作を整理すると、以下の条件1~4の動作を導くことが出来ます。
マジックT型導波管はこれらの特性を利用してマイクロ波やミリ波の合成や分配に利用されます。

条件1.Port3からTE10モードで入射した場合、Port1と2に同位相で出力されます。
条件2.Port4からTE10モードで入射した場合、Port1と2に逆位相で出力されます。
条件3.Port1と2からTE10モードの同位相を入射すると、Port3のみから出力されます。
条件4.Port1と2からTE10モードの逆位相を入射すると、Port4のみから出力されます。

解析手法

本事例では、下記の条件で解析を実施しました。

・入力最大周波数:10GHz
・入力電力:1W

矩形導波管では、開口部の長辺寸法から伝送可能な周波数、波長が決定されます。
即ち、導波管の長辺寸法が波長の半分以下では電磁波は進行しません。
この限界波長を「遮断波長:λc」といい図2のような矩形導波管では、式(8)で表されます。​
ここで、式(8)でm、nは、それぞれx軸方向、y軸方向の波の数を示しています。
今回は、最低次元のモードであるTE10モードで解析を行いますので、m=1、n=0で考えます。
従って、矩形導波管の長辺方向に波が1つ(即ち、a=λ/2)、短辺方向に波が0(即ち、b<λ/2)となります。
ここで、n=0として式(8)を整理すると

遮断波長:λ_c=2*a (9)

遮断周波数:f_c=C/(2*a) (10)
(C=3*10^8 m/s :光速)

をそれぞれ求めることが出来ます。
今回の解析に用いた矩形導波管の開口部の大きさは、解析する周波数帯域に対するEIA規格から、WR-90 (内径寸法 a=22.86mm x b=10.16mm、周波数帯域=8.20~12.5GHz)を採用しています (図2)。
この場合、式(9)、式(10)から、この内径寸法から計算される遮断波長と遮断周波数は、

遮断波長:λ_c=2*a = 45.72mm (11)

遮断周波数:f_c=C/(2*a) = 6.56GHz (12)

のように計算で求めることが出来ます。

解析モデル

図3に解析モデルを示します。

図3.解析モデル

導波管開口部にWave Portを用いてPort1~Port4を図3のように設定します。
導波管内部は真空として 材料物性としてVacuum を設定しています。
境界条件としては、導波管表面にPec (Perfect Conductor) が設定されます。

解析条件

Ansys HFSSによる解析を用いてマジックT型導波管を解析し、先に示した4つの理論動作と比較します。本解析では、8GHz~10GHzまでの周波数スイープでSパラメータを、10GHzで導波管内の電界の状態を評価して理論との整合性を検証しました。

解析結果

1.Sパラメータ

図4にSパラメータのゲインと位相特性の解析結果を示します。
このSパラメータの解析結果から、先のマジックT型導波管の動作原理での散乱行列の考え方が正しいことが分かります。

図4.Sパラメータ(ゲイン、位相)

2.電界強度分布と電界ベクトルの表示

条件1から条件4の場合の電界強度分布と電界ベクトルを表示して検証します。

・条件1:Port4にTE10モードを入射

図5に電界強度分布、電界ベクトルの解析結果をそれぞれ示します。
Port4の入射に対し、Port1とPort2に互いに逆位相で分配されている状態が確認できます。
またこの時、Port3には電磁波は伝播されていないことがわかります。

図6.電界強度分布と電界ベクトル

・条件3.Port1とPort2にTE10モードを入射(振幅が等しく同位相)

図7に電界強度分布、電界ベクトルの解析結果をそれぞれ示します。
Port1とPort2から同相の入射により、Port3にはそれらが合成されて出力されますが、Port4には出力されません。

図7.電界強度分布と電界ベクトル

・条件4.Port1とPort2にTE10モードを入射(振幅が等しく逆位相)

図8に電界強度分布、電界ベクトルの解析結果をそれぞれ示します。
Port1とPort2から互いに逆相を入力すると、Port4には合成されて出力されますが、Port3には出力されません。

図8.電界強度分布と電界ベクトル

本解析の効果

Ansys HFSSによるマジックT型導波管の解析についてご紹介いたしました。
こちらでご紹介したように、マイクロ波/ミリ波コンポーネントの重要な要素である導波管に対して、電磁界解析により理論との整合性や動作の詳細な検証を実施いただけることを期待しております。
このように、Ansys HFSSを効率的な設計検討にお役立ていただけると考えております。

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