解析事例
3相インバータIGBTの伝熱解析
こんな方におすすめ
- より詳細なシステムシミュレーションを効率よく実施したい
- 簡単に低次元モデルを作成したい
- スイッチング周波数による温度変化を確認したい
インバータのパワー半導体として絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)が利用されます。IGBTは熱効率がよいことで知られていますが、トータルの電力が大きければ、損失も大きくなります。また、IGBTの電気的特性は温度に依存し、温度が高すぎると、信頼性と耐久性が低下します。そのため、電気的特性と熱的特性を連成させた詳細な解析が必要となります。
本事例では、IGBTのチップ近傍のより詳細なシステムシミュレーションを効率よく実施する方法をご紹介します。
解析の目的・背景
パワー半導体デバイスの詳細設計ではシミュレーションおよび並列処理の飛躍的な向上を背景に複数場の連成解析なども幅広く利用されています。ただし、システム全体を3次元で扱おうとすると大量のデータが発生するため、近年では3次元モデルを低次元化してデータ量および計算時間を削減し、且つより精度のよいシステム全体の解析を実施する方法がとられています。その手法をReduced
Order Model(ROM)といいます。
本解析では、ROM技術を利用し、インバータモデルのシステムシミュレーションの事例を紹介します。
解析手法
ここでは熱解析のROM化手法として、クリロフ部分空間法を利用した低次元モデル作成ツールである CADFEM Ansys Extensions Model Reduction inside Ansys を利用します。このソフトウェアはドイツのCADFEM社が作成したツールで、Ansys Mechanicalにアドオンした形で利用することができます。様々なROM化手法がありますが、クリロフ部分空間法の第一の特徴はROMモデルを作成するために解析が必要ないことです。線形解析用ですが、通常の解析のように材料設定・メッシュ作成・熱伝達/発熱設定などの定常線形熱解析とほぼ同等の設定のみで全体質量マトリクス・全体熱伝導マトリクスを自動で作成し、低次元化したマトリクスから、Ansys Twin Builder、Matlab/Simulink、VHDL-AMS、Modelicaなどの形式モデルを出力します。それらのデータを利用してシステムシミュレーションを実施することができます。
解析モデル1
解析モデルと条件
(図1)解析モデルの形状
今回は、図1のように6組のダイオードとIGBTが並び、ヒートシンクがついた半導体デバイスが解析対象となります。周期的な位相差をもった発熱設定による解析を実施しました。
解析結果
図2はそれぞれ1つの素子に着目してAnsys MechanicalとROMモデルのIGBTおよびダイオードの中心温度を比較したものです。ほぼ同じ結果を出力していることがわかります。表1ではROM化にかかった時間および1Dモデルでの計算時間を示しています。
(表1)ROMモデルの計算時間
解析モデル2
熱流体解析から熱伝達係数の取り込み
解析モデル2では熱流体解析の計算結果から熱伝達係数を算出し、取り込んでみました。Ansys
Workbench環境ではAnsys製品以外の熱流体解析からでも座標値および熱伝達係数のデータファイルがあれば簡単に取り込み、モデルにマッピングすることができます。
図3は熱流体解析の結果図、およびMechanicalに取り込んだ熱伝達係数分布を示しています。この解析では位相を考えず、一定の発熱を設定して計算しました。
(図3)流体解析から算出した熱伝達係数分布
解析結果
熱流体解析より取り込んだ熱伝達を利用しAnsys Mechanicalで計算した結果とModel Reduction inside Ansysで出力したROMを利用した結果を比較します(図4)。こちらもほぼ一致していることが確認できます。
(図4)Ansys MechanicalとROMモデルの温度結果比較
解析モデル3
モータシステムシミュレーションとの連携
解析モデル2までの解析は、システムシミュレーションとの連成ではなく、発熱量が既知としてチップの中心温度を求める解析でした。システムシミュレーションにおいてIGBTコンポーネントと連携すると、コンポーネント内部に設定した熱抵抗からIGBTやダイオードのジャンクション温度を算出・温度依存のIV特性から電流の変化なども確認することができます。図5はTwin Builderの回路図となります。スイッチング周波数が変化すれば、発生する熱量・温度も変化します。
(図5)Ansys Twin Builderの回路図
解析結果
図6ではスイッチング周波数をと変化させた場合のIGBTジャンクション温度を比較したグラフを表示します。スイッチング周波数が高くなるにつれて温度が大きく上昇しているのがわかります。