解析事例
成形履歴を考慮したエンジンカバーの振動解析事例
概要
近年、自動車の環境対策の一環として、金属製の部品を樹脂に置き換える「樹脂化」が注目されています。樹脂化によって車両の軽量化が進み、燃費向上やCO2排出量の削減につながることが期待されます。
その一方で、樹脂は金属に比べて強度が低いため、耐久性や安全性の面で懸念があります。そこで、樹脂にガラス繊維や炭素繊維などを配合した複合材料(繊維強化プラスチック)の使用が進められています。
繊維強化プラスチックを使用するにあたって以下のような課題が挙げられます。
- 繊維配向により材料物性の異方性が生じる
- 密度分布がばらつくため、振動特性が場所によって変化する
これらを把握するために、設計段階から射出成形の成形履歴を考慮したシミュレーションを活用することが重要であると考えられます。
本事例では自動車のエンジンカバーを例に、射出成形の成形履歴が振動特性に及ぼす影響を比較します。
解析のフロー
成形履歴を求めた後、Ansys Workbenchのモーダル解析、周波数応答解析、ランダム振動解析によって、振動特性を評価します。(本ページでは、モーダル解析とランダム振動解析の結果をご紹介します。周波数応答解析の結果についてはダウンロード資料に記載しております。)

図1 解析のフロー
解析対象・成形条件

図2 解析モデル
成形条件を表1に示します。この条件は全ケースで共通とします。ケース2(2点ゲート)の場合には、それぞれの注入点で設定する充填量は、総充填量の1/2とします。同様に、ケース3(3点ゲート)の場合には、それぞれの注入点で設定する充填量は、総充填量の1/3とします。

樹脂流動解析
繊維配向解析の結果を示します。図中に矢印で示したように、1点ゲートでは繊維が放射状に配向するのに対して、2点、3点ゲートでは流動の合流部(ウェルドになりうる部分)の付近で繊維が配向することが確認できます。

図3 繊維配向率
モーダル解析
各ケースにおける1次モードから8次モードまでの固有振動数を図4に示します。成形履歴を考慮しない場合(ケース0)に比べて、成形履歴を考慮した場合(ケース1~3)には、いずれのモードでも固有振動数が低くなっています。
以上から、成形履歴を考慮しない場合の解析結果を設計に利用してしまうと、固有振動数を高く見積もることになるため、危険側の設計になる恐れがあります。そのため、成形履歴を考慮することによって、より安全側の設計ができると考えられます。

図4 固有振動数一覧(単位:Hz)
ランダム振動解析

図5 ランダム振動解析条件

図6 ランダム振動解析結果
まとめ
本事例では、自動車のエンジンカバーを対象に、成形履歴を考慮する場合の振動特性の評価を行いました。成形履歴を考慮する場合の方が、考慮しない場合に比べて固有振動数が低くなり、ランダム振動の応答が大きくなりました。
結果の詳細につきましてはダウンロード資料をご参照ください。ダウンロード資料では、振動解析のほかにそり変形解析も行い、どの充填ケースが最も適しているか総合的に検討しています。
※この事例では、Ansysに加えて以下のライセンスが必要です。
Ansys Workbench Premium
Ansys Workbench版 射出成形CAEシステム PlanetsX
PlanetsX 粒子/繊維配向解析オプション
PlanetsX 光学性能評価解析オプション

