解析事例
逆解析による非線形静解析
未知の初期形状を求める
こんな方におすすめ
- 逆解析で得られた、初期形状(圧力により変形する前の形状)を求めたい
- 逆解析で変形後(荷重が負荷された状態)に生じた応力やひずみを求めたい
構造解析では通常、何らかの初期形状に荷重を負荷して、未知の変形後形状や応力・ひずみなどを求めます。これを順解析と呼びます。
一方、逆解析とは変形後の形状が既知であり、変形させる要因となった荷重を逆向きに負荷して未知の初期形状を求める解析です(図1)。
AnsysではVer19.2より逆解析に対応しています。本稿では逆解析を使った解析例をご紹介します。
(図1)順解析と逆解析
解析の目的・背景
初期形状が不明なケースとしては、たとえば血管などが考えられます。
血管には血液が流れていますので、CTスキャンなどで形状を取得したとすると、血圧が負荷された状態の“変形後の形状”ということになります。
では血圧がかかっていない状態での血管の形状を知りたいときにはどうすればよいのでしょうか?
当然ながら血液の流れを止めてCTスキャンするわけにはいきません。
このような場面で逆解析が役立ちます。血圧がかかった状態の血管形状を“既知の変形後形状”としてモデル化し、血圧を逆負荷して逆解析することで、血圧がかかっていない状態の初期形状を求めることができます。
解析手法
逆解析では、既知である変形後の形状(CTスキャンなどで取得した血管のモデル)を用意します。
また、負荷(ここでは血圧)を逆負荷します。
解析が終了すると、負荷(血圧)がゼロの状態での初期形状が得られます。また、変形後に発生する応力・ひずみも求められます。(後述)
なお、逆解析では使える要素や解析機能に制限があります。ご使用になられる前に、ご利用のAnsysのヘルプをご確認ください。
解析モデルと解析条件
逆解析では通常の順解析とは異なる設定がいくつかありますのでご注意ください。
解析モデル
解析モデルを(図2)に示します。これは既知の変形後形状です。STLデータをもとにソリッドを作成したため表面は三角形パッチになっています。
(図2)解析モデル
材料
この解析では超弾性材料の一種であるMooney-Rivlinの5パラメータモデルを使用しています。応力-ひずみ線図を(図3)に示します。
(図3)材料物性
このように逆解析では、超弾性材料も用いることができます。この場合、超弾性のひずみに応じた剛性変化が生じ、その挙動は順解析と逆になります(図4)。
(図4)逆解析における超弾性材料の挙動
解析条件
拘束方程式で両端が断面内で変形できるように設定し、血管の内側に血圧に相当する圧力(ここでは0.016MPa)を負荷します。このとき、圧力の向きは血管を押し広げる方向に向いていますが、解析では圧力が徐々にゼロになるように計算されます。
(図5)境界条件
逆解析では荷重の作用方向に注意が必要です。荷重は定義方向と逆方向に変形するイメージで、変位は定義方向と同方向に変形するイメージとなります。少々ややこしいのですが、荷重と変位では定義する方向が異なりますので注意してください。
(図6)逆解析における境界条件の設定
ソルバーの設定は、基本的には大変形をONにして、アドバンストオプションの[反転オプション]をYesに設定するだけです。逆解析では非対称ソルバーを利用する必要がありますが自動的に有効化されます。
(図7)逆解析のソルバー設定