EMC学習時の「なんで?」を解決
Zパラメータってインピーダンスとは違うの?
EMC学習時の「なんで?」を解決
第2回 「Zパラメータってインピーダンスとは違うの?」
EMCの勉強をしていると、「インプットインピーダンス」や「トランスファーインピーダンス」といった用語が出てきます。
当時の私は、
「インプットインピーダンス」は“ある場所に電流を流したときの交流的な抵抗成分”、
「トランスファーインピーダンス」は“ある経路間の交流的な抵抗成分”
…だと、なんとなく理解していたつもりになっていました。
また、勉強を進めていくうちに、これらの言葉が「Zパラメータ」という概念に関係していることを知りました。
しかし、参考書には「Zパラメータとは、電流に対する電圧の応答を表すもの」と書いてあり、私は次のような疑問を持ちました。
「Zパラメータってインピーダンスとは違うの?」
「Zパラメータ」というくらいなので、インピーダンスと関係していることは間違いなさそうですが・・・
この疑問をきっかけに、Zパラメータの定義をしっかりと学ぶことにしました。
Zパラメータの定義
Zパラメータは、2端子対回路において、以下のように定義されます。


しかし、このような定義を見たとき、当時の私は再び混乱しました。
「やっぱりZパラメータって“電圧”のこと? 結局インピーダンスとは違うもの?」
インピーダンスの定義
実際、入門書などでもそう説明されていることがあり、下記式を見ても、オームの法則と同じ形でインピーダンスZが抵抗Rの位置にあるため、「インピーダンスZ = 抵抗成分」という印象を受けます。


このように整理すると、インピーダンス Z は単なる「抵抗値」ではなく、「電圧と電流の比」そのものであることがわかります。つまり、インピーダンスZとは「電流と電圧の関係性」を示すものであると言えます。ここが非常に重要なポイントです。
直流回路では、抵抗値Rだけで電圧と電流の関係を示すことができます。
しかし、交流回路ではコンデンサやコイルの影響によって電圧と電流の間に「位相のずれ」が生じるため、交流回路においては単なる抵抗値Rのみでは電圧と電流の関係を表現できません。
したがって、インピーダンスは交流回路における電流と電圧の関係性を表現するための「大きさ(抵抗)」と「位相(時間的なずれ)」の両方の情報を含んだ複素数として表されます。
ちなみに、複素数とは「大きさ」や「向き(ずれ)」を同時に表現できる便利なツールのようなものです。
「複素数」と言葉だけ聞くと難しいイメージがあるかもしれませんが、複素数のおかげでコンデンサやコイルのように電流や電圧のタイミングがずれる部品の特性も数式でシンプルに表現ができるようになります。
ここで、インピーダンスの定義を改めてまとめておきます。
インピーダンスとは交流回路における電圧と電流の関係を表す複素数であり、電流に対する電圧の大きさ(抵抗成分)と位相(時間的なずれ)の両方を含むもの
私自身がかつて抱いていた「インピーダンス = 抵抗成分」という理解は不十分であることがわかります。
インピーダンスを「電流と電圧の関係性そのもの」であると捉えることで、Zパラメータとのつながりも自然と見えてくるようになります。
Zパラメータの定義


上記のように、Zパラメータの各要素はすべて「電圧÷電流」で定義されており、構造としてはインピーダンスそのものであることがわかります。ただし、Zパラメータは複数の端子間での電圧と電流の相互関係をまとめて行列(マトリクス)として表現できるといった特徴があります。
たとえば、
- Z11 は「端子1の電流が端子1の電圧に与える影響」
- Z21 は「端子1の電流が端子2の電圧に与える影響」
というように、Zパラメータを使えば、「どの端子の電流が、どの端子の電圧に影響するか」を定量的に示すことができます。
また、2端子対回路においては、Z11(あるいは Z22)が「インプットインピーダンス」、Z21(あるいはZ12)が「トランスファーインピーダンス」に対応します。
当時の私が考えていた「インプットインピーダンスは“ある場所に電流を流したときの交流的な抵抗成分”」という理解は、厳密には正確ではないものの間違いではありませんでした。
一方、「トランスファーインピーダンスは“ある経路間の交流的な抵抗成分”である」というのは間違った理解であったことがわかります。
EMCにおけるZパラメータの意義
- インプットインピーダンスの意義
インプットインピーダンスはICの安定動作を検証したり、入力端子でどの値のデカップリングコンデンサを配置すべきかを決める判断材料になります。
インプットインピーダンスが適切でないと、ICが誤動作する要因となります。
- トランスファーインピーダンスの意義
トランスファーインピーダンスは、ある端子の電流が別の端子にどれだけ電圧を生じさせるかを示します。
たとえば、ICの駆動電流がケーブル接続端子に電圧変動を生じさせるかどうかを評価することができ、ケーブルからの放射ノイズ対策の有効性を検証することが可能です。
このように、インプットインピーダンスとトランスファーインピーダンスは、EMC品質を設計段階で定量的に評価するための重要な指標となります。
Zパラメータを理解することは、EMC設計を行う上でも重要なことであると言えます。
結論
Zパラメータとは、「電圧÷電流」で表されるインピーダンスを、複数の端子間でも扱えるように行列形式で整理した”インピーダンスの拡張版”
であると言えます。
ということで、今回も「なんで?」を解決することができました。
前回のコラムでも記載しましたが、基礎的なことをなんとなく理解したつもりで終わらせてしまうと、色々な弊害が生まれてしまうことがよくわかります。
やはり、多少面倒くさくてもしっかりと定義に立ち返って学ぶことが大切ですね。

これからも学習時の「なんで?」を解決するコラムを記載していきますので、もし興味があればチェックしてみてください。
また、もしこのコラムをご覧の方の中に「なんで?」を抱えている方がいらっしゃれば、ぜひお気軽に以下のボタンからお問い合わせください。
関連記事
関連情報
関連する解析事例
MORE関連する資料ダウンロード
MORE-
はんだ濡れ上がり形状予測解析
~Ansys LS-DYNAで電子機器の信頼性向上に貢献~
-
Ansys ユーザーのための PyAnsys 完全ガイド
Pythonで加速するCAEワークフロー
-
共振回避だけで終わらせない実レベルの振動解析
~Ansys Mechanicalで実現する高度な製品開発~
-
吸入器内の粒子挙動を可視化する
~薬剤送達効率向上に向けた解析~
-
医薬品バイアルの温度挙動解析
~保管環境の影響把握と品質維持に向けた可視化アプローチ~
-
そのFDTD計算、もっと速くできる!Lumerical+GPUでフォトニクス解析に革命を
-
Ansys TwinAIを用いたFusionモデリングのご紹介
-
構想設計で解析を実行しフロントローディング
~Ansys Discovery Premiumへのアップグレードご提案~

