CAEを学ぶ
比べてみる、線形構造解析と非線形構造解析
〜特徴、適用範囲、Ansysのモデル化方法など〜
比べてみる、線形構造解析と非線形構造解析の概要
1 はじめに
製品設計の現場でCAEを使用する際、非線形解析に比べ計算コストが小さく、収束安定性の良い線形解析でモデル化する機会が多いかと思います。それではなぜ非線形解析が必要なのでしょうか?線形解析よりも精度の良い結果が得られるだけではなく、評価したい事象によっては非線形解析でしか解けない事象があるからです。
本稿では、線形解析と非線形解析の違いや使い分けについて、事例を交えてご紹介します。
本稿では、線形解析と非線形解析の違いや使い分けについて、事例を交えてご紹介します。
2 構造解析における線形・非線形解析の違い
構造解析における線形解析と非線形解析の違いを式で説明します。
荷重F、変位量U、構造物の剛性Kで表される力の釣り合い式は、線形解析の場合、式(1)になります。
荷重F、変位量U、構造物の剛性Kで表される力の釣り合い式は、線形解析の場合、式(1)になります。
これは構造物の剛性Kが一定であり、荷重と変位量は比例関係にあります。即ち、荷重が2倍になれば変位量も2倍になる関係です。
一方、非線形解析の場合は式(2)で表されます。
一方、非線形解析の場合は式(2)で表されます。
構造物の剛性Kが変位量によって変化するため、荷重と変位量は比例関係にありません。即ち、荷重が2倍になっても変位量が必ずしも2倍にならない関係を意味します。
実現象では、何かしらの要因によって構造物の剛性が変化します。この変化を考慮した解析をするには非線形構造解析が必要となります。
実現象では、何かしらの要因によって構造物の剛性が変化します。この変化を考慮した解析をするには非線形構造解析が必要となります。
3 非線形性の要因
剛性の変化をもたらす代表的な要因として以下の3つが挙げられます。
- 大変形
- 非線形材料
- 非線形接触
大変形は、構造物の変形によって剛性が変化する幾何学的非線形を指します。
非線形材料は、応力とひずみが比例関係にない材料特性です。非線形接触は接触面積の変化によってアセンブリモデル全体の剛性が変化します。
図1にラバーブーツの変形解析を示します。シャフトとラバーブーツの接触およびラバーブーツの自己接触を考慮しています。ラバーブーツには超弾性材料を定義し、大きく変形する様子を解析しています。このモデルは、大変形、非線形材料、非線形接触の3つの非線形性すべてを含みます。
非線形材料は、応力とひずみが比例関係にない材料特性です。非線形接触は接触面積の変化によってアセンブリモデル全体の剛性が変化します。
図1にラバーブーツの変形解析を示します。シャフトとラバーブーツの接触およびラバーブーツの自己接触を考慮しています。ラバーブーツには超弾性材料を定義し、大きく変形する様子を解析しています。このモデルは、大変形、非線形材料、非線形接触の3つの非線形性すべてを含みます。
4 大変形
大変形を考慮する目安として、目視で確認できるほど大きく歪むことが挙げられます。また大きく歪むことで、材質の変化や接触状態の変化をもたらすことが多いため、大変形は非線形材料や非線形接触と組み合わせてよく使用されます。
4-1 大変形の設定
Ansysの構造・伝熱解析ツール「Ansys Workbench Mechanical」では、解析設定画面でON、OFFを切り替えるだけで、大変形の設定が可能です(図2に示すように、解析設定の詳細ビュー:「ソルバーコントロール」>「大変形」をONにします)。
4-2 大変形ON、OFFの比較
ここでは、大変形ON、OFFの違いを比較するため、円柱のねじりを検証してみましょう(図3-a参照)。
回転量が6[°]の変形結果では、大変形ONとOFFでほとんど差は見られません。
回転量が90[°]になると、その差が顕著に現れます(図3-b)。
回転量が6[°]の変形結果では、大変形ONとOFFでほとんど差は見られません。
回転量が90[°]になると、その差が顕著に現れます(図3-b)。
これは、大変形ONにすると回転に伴い変化する要素剛性の方向を考慮して計算が行われるため、実現象に即した解が得られます。一方、大変形OFFは変化する要素剛性の方向を考慮できず、回転量が大きくなると径方向に膨脹する異常な変形を示します。
このように、大変形OFFでも計算結果は得られますが、適切な結果でない可能性があるので注意が必要です。
このように、大変形OFFでも計算結果は得られますが、適切な結果でない可能性があるので注意が必要です。
5 非線形材料
線形材料は応力とひずみが比例関係になり、比例定数がヤング率で表されます。一方、非線形材料は応力とひずみの関係が比例関係になりません。
非線形材料は、塑性加工をモデル化したい場合やゴム、プラスチックの材料を扱いたい場合に必要です。非線形材料の種類は多岐にわたり、塑性材料、超弾性材料、粘弾性材料などが挙げられます。ここでは、塑性と超弾性のモデル化について解説します。
非線形材料は、塑性加工をモデル化したい場合やゴム、プラスチックの材料を扱いたい場合に必要です。非線形材料の種類は多岐にわたり、塑性材料、超弾性材料、粘弾性材料などが挙げられます。ここでは、塑性と超弾性のモデル化について解説します。
5-1 塑性のモデル化
降伏点を超えた後の応力と歪みが非線形関係になる塑性領域を取り扱えます。
金属加工(圧延、絞り加工、金属によるプレス成型)でよく用います。
Ansys Workbench Mechanicalでは、「エンジニアリングデータ」と呼ばれる設定ツールで(図4-a)、応力とひずみの塑性領域を二直線近似(図4-b)、または多直線近似(図4-c)で定義できます。
※手順の詳細はANSYS Workbench Mechanical 材料非線形セミナーテキスト [5.弾塑性材料]をご参照ください。
金属加工(圧延、絞り加工、金属によるプレス成型)でよく用います。
Ansys Workbench Mechanicalでは、「エンジニアリングデータ」と呼ばれる設定ツールで(図4-a)、応力とひずみの塑性領域を二直線近似(図4-b)、または多直線近似(図4-c)で定義できます。
※手順の詳細はANSYS Workbench Mechanical 材料非線形セミナーテキスト [5.弾塑性材料]をご参照ください。
V字プレス加工モデルで、塑性材料と線形材料の定義で比較した相当塑性ひずみ結果を図5に示します。
塑性材料の場合(図5-a)、プレスを徐荷しても被加工材は変形したままです。つまり、残留ひずみが計算されています。線形材料の場合(図5-b)、プレスを徐荷すると被加工材は変形前の形状に戻ります。これは残留ひずみが計算されず、荷重の徐荷で応力が0の状態(ひずみが0)になる線形材料の特性です。
塑性材料の場合(図5-a)、プレスを徐荷しても被加工材は変形したままです。つまり、残留ひずみが計算されています。線形材料の場合(図5-b)、プレスを徐荷すると被加工材は変形前の形状に戻ります。これは残留ひずみが計算されず、荷重の徐荷で応力が0の状態(ひずみが0)になる線形材料の特性です。
5-2 超弾性のモデル化
超弾性材料の定義で、ゴム状材料(エラストマー)のように大きな弾性変形を表現出来ます。その特性は、弾性ひずみでありながら応力 ‐ ひずみの曲線は強い非線形性を示します(図6)。
Ansys Workbench Mechanicalで扱える代表的な超弾性材料モデルとして、Mooner-RivlinやOgdenがあります。これら超弾性モデルの材料定数は、Ansys Workbench Mechanicalに搭載されたカーブフィッティング機能(図7)を用いて材料試験データから算出することができます。
※手順の詳細はAnsys Workbench Mechanical 材料非線形セミナーテキスト[6.超弾性]をご参照ください。
※手順の詳細はAnsys Workbench Mechanical 材料非線形セミナーテキスト[6.超弾性]をご参照ください。
材料試験データがない場合は、Neo-Hookeanなど入力パラメータの少ない簡易的な超弾性モデルの使用を検討します。Neo-Hookeanモデルで必要となるパラメータは、初期せん断弾性係数と非圧縮性パラメータ(完全非圧縮性
の場合は0)のみで、簡単に超弾性挙動をモデル化できます。
の場合は0)のみで、簡単に超弾性挙動をモデル化できます。
5-3 線形材料と非線形材料の使い分け
線形材料と非線形材料は、評価したい目的や結果に応じて使い分けます。
例えば、次の2つの目的があるとします。
例えば、次の2つの目的があるとします。
- ある荷重条件に対して、どの程度の残留変形や残留応力が発生するか知りたい
- 塑性に至るかどうか、発生応力と降伏点を比較したい
1.の場合、残留ひずみを計算するために塑性材料の定義が必要です。
2.の場合、弾性材料を定義した線形解析を実施し、応力結果と降伏応力の比較で判断出来ます。つまり、塑性材料の定義は不要です。
非線形材料特性を不必要に定義するのではなく、目的と評価したい結果を明確にして使い分けることが重要です。
2.の場合、弾性材料を定義した線形解析を実施し、応力結果と降伏応力の比較で判断出来ます。つまり、塑性材料の定義は不要です。
非線形材料特性を不必要に定義するのではなく、目的と評価したい結果を明確にして使い分けることが重要です。
6 非線形接触
アセンブリモデルの場合、パーツとパーツの間に接触設定を定義することで不連続メッシュ間における力の伝達を考慮します。この時、接触設定の変更で様々な接触面の状態を表現できます。
接触面の状態は、線形接触と非線形接触に分類されます。線形接触は、変形過程で接触面積が変化しない(接触面間の剛性が変化しない)状態を表します。接触面間が結合されているケースなどが考えられます。
非線形接触は、接触面が衝突・分離・滑りによって接触面積が変化する(接触面間の剛性が変化する)状態を表します。非線形接触解析の例として、マットの圧力分布解析を示します。腰部を模した人体モデルとマットが接し、重
力によって人体がマットに沈み込みます(図8-a)。その際、接触面積の変化に伴い圧力分布も変化します(図8-b)。
接触面の状態は、線形接触と非線形接触に分類されます。線形接触は、変形過程で接触面積が変化しない(接触面間の剛性が変化しない)状態を表します。接触面間が結合されているケースなどが考えられます。
非線形接触は、接触面が衝突・分離・滑りによって接触面積が変化する(接触面間の剛性が変化する)状態を表します。非線形接触解析の例として、マットの圧力分布解析を示します。腰部を模した人体モデルとマットが接し、重
力によって人体がマットに沈み込みます(図8-a)。その際、接触面積の変化に伴い圧力分布も変化します(図8-b)。
【参考】 河内まき子,持丸正明,岩澤洋,三谷誠二(2000):日本人人体寸法データベース1997-98,通商産業省工業技術院くらしとJISセンター.
6-1 接触の設定
Ansys Workbench Mechanicalは、表1に示すように、接触面の接線・法線方向の挙動および摩擦の有無によって5種類の接触状態を表現できます。「ボンド」「分離しない」は接触面間が分離することなく接触面積が変化しないため線形接触タイプに分類されます。「ラフ」「摩擦なし」「摩擦あり」は接触面間の分離によって接触面積が変化するため非線形接触タイプになります。同じ解析条件(図9-a)でも接触タイプによって接触部の変形が異なります(図9-b)。
※接触タイプ適用例
「ボンド」:溶着部
「分離しない」:軸とすべり軸受の接触部
「ラフ」:ゴムストッパーと床面の接触部
「摩擦なし」:潤滑剤のある接触部、氷と物体の接触部
「摩擦あり」:ブレーキパットとディスクの接触部
6-2 線形接触、非線形接触の使い分け
解析精度を求める場合は実機の接触状態に即して、滑りも分離も許容する非線形接触タイプを選定します。ただし、一般的に接触解析は、接触の仕方によっては不安定構造を招き、収束性が悪くなる点に注意が必要です。Ansys Workbench Mechanicalでは収束性向上のための機能があり、それらを活用することで改善可能です。それでも解決しない場合は、接触個所の挙動を分析し、許容できる範囲で線形接触タイプに置き換えます。これによって収束性の大幅な向上が期待されます。
7 おわりに
線形構造解析と非線形構造解析について、その違いや非線形性の要因、Ansys Workbenchを用いたモデル化の方法などについて事例を交えてご紹介しました。本稿が非線形構造解析を検討するための一助となれば幸いです。