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電磁界解析(でんじかいかいせき)
英訳:electromagnetic field analysis】
電磁界解析とは
定義や概要
電磁界(電磁場)解析では、マクスウェル方程式を用いて、対象物と電磁界(電磁場)との相互作用について計算します。英語では、Electromagnetic Field Analysis(EFA)と書きます。電磁界(電磁場)解析には、静電界(静電場)解析、静磁界(静磁場)解析、電磁波解析、電磁誘導解析などがあります。
電磁界解析の種類
・時間領域での解析法
有限差分時間領域法(FDTD)
有限差分時間領域法は、時間領域差分法とも呼ばれます。FDTDはFinite-difference time-domainの略です。マクスウェル方程式における「ファラデーの電磁誘導の法則」、「アンペールの法則」、Yeeアルゴリズムによる差分法を用いて離散化し、時系列で電界と磁界を交互に計算します。
伝送線路法(TLM)
TLMはTransmission Line Methodの略で、日本語では伝送線路法と書きます。空間中にある離散点における電界と磁界の結合を表した1次元伝送線路のモデルの電磁界伝播を時系列で逐次計算します。
・周波数領域での解析法
モーメント法(MoM)
MoMはMethod of Momentsの略です。境界要素法(BEM:Boundary Element Method)を電磁界解析に用いる際の呼称です。解析対象の表面や境界を要素分割し、方程式を用いて計算して近似解を求めます。
有限要素法(FEM)
有限要素法は解析対象となる物体や空間を要素分割し、方程式を用いて計算して近似解を求めます。構造解析でもよく使われる手法です。
・その他
等価集中定数回路網法(rPEEC)
PEECは「Partial Element Equivalent Circuit」の略で、日本語では部分要素等価回路と呼びます。rPEECの「r」は、「Retarded」であり「遅延」を意味します。PEEKをベースとし、電流の時間変化に遅延を考慮して電磁界について計算する手法です。
電磁界解析ソフトでのシミュレーション
「何が」解析できるか
電磁界解析ソフトでは、電界と磁界に関わる現象や作用を解析します。電磁界解析によって、例えば機器の故障や誤動作の原因となる電磁ノイズを分析し、その結果を生かしてEMI対策(ノイズを封じ込める)やEMS対策(ノイズ耐性を向上させる)が可能になります。電波暗室などの設備を手配しなければならない実験を代替する、あるいはシミュレーションである程度結果の見当が付いてから実験を行うといったことができ、実験回数削減によるコストダウンや設計期間の短縮、設計の質向上など、設計開発におけるQCD改善が期待できます。また、実験だけでは困難な条件や構造にまつわる現象を可視化することも可能です。
電磁界解析ソフトでは、Sパラメータ(Scattering parameters)、抵抗・インダクタンス・キャパシタンス、トルクの抽出、電界・磁界・電流分布の可視化、近傍・遠方界の計算などが行えます。
具体的な対象物
家電や自動車、産業機械、通信機器など、通電する機能が実装されているあらゆるものが対象です。具体的には、アンテナ、レーダー、導波管、マイクロ波フィルタ、高周波デバイス、高周波モジュール、コネクタ、メタマテリアル、プローブカード、モーター、インダクタ、キャパシタ、デジタル基板、アナログ基板、バスバー、マイクロ波加熱、電源、給電システムなどがあります。
電磁界解析のプロセス
モデル形成
計算を実行する前に、形状のモデルや回路のモデルを用意します。形状モデルは2Dの場合と3Dの場合があります。CADのデータを用いるか、シミュレーションソフトに付属するツールでモデリングします。形状モデルに対しては要素分割(メッシュ作成)を行います。
計算設定
対称境界、周期境界、絶縁境界、インピーダンス境界など境界条件、周波数、タイムステップなど、必要な解析に応じて設定します。
計算結果の解釈
計算結果は、数値と共に見やすいよう色分けしたコンター図やグラフ(スペクトル)で表現されます。電磁気という目視できず難解な現象を視覚的に表示するため、電磁界に詳しくない人や、非エンジニアに対して分かりやすく現象を説明するための手助けになります。
電磁界解析ツールAnsys
Ansysの特長
Ansysは、1983年に「Ansys/EMAG3D」をリリースして以来、約40年にわたり電磁場解析ソフトウェアを開発・提供し続けています。現在は、電磁界解析を支援するさまざまなシミュレーションソフトウェアを備えており、統合された使いやすいユーザーインタフェースも提供しています。
Ansysの電磁界解析例
・ミリ波レーダーの性能評価
ADASと自動運転に必要な代表的な車載デバイスであるミリ波レーダーの設計・開発においては、いかに効率よくレーダーの性能評価ができるかが重要となります。計算機シミュレーションによるレーダーの性能評価はその課題を解決するアプローチの1つですが、車載用レーダーには非常に高い周波数帯 (例:77GHz)が使用されるため、超大規模な電磁界解析を実施する必要があり、計算コストが膨大になります。本事例では、Ansys HFSS SBR+ソルバーを用いて、レイトレーシング法計算アルゴリズムにより、 波長の数十~数千倍のサイズを持つ電気的に大規模な構造物に対して設置されたアンテナの特性(アンテナパターン、近傍界、アンテナ間結合など)を高精度かつ高速に解析しています。
ミリ波レーダーの性能評価事例はこちら>>
・IPM(Interior Permanent Magnet)の電磁界解析
IPM(埋込磁石内蔵型)モーターは永久磁石を用いているため、磁気飽和や損失を考慮して設計をすることが重要です。また安全確保のためにモーターから生じる磁束密度の想定やモーター特性であるトルク値も重要となります。本事例では、電磁界解析ソフトAnsys Maxwellを用いてIPMモーターについてトルクやコアロス、磁束密度分布を算出しています。
IPM(Interior Permanent Magnet)の電磁界解析事例はこちら>>
・人体近傍におけるスマートフォン内蔵アンテナの解析
スマートフォンの使用環境においては、人体がアンテナ特性に与える影響が実際の通信特性に大きく関与します。そのため、人体に近接したときにアンテナ特性がどのようになるのか把握しておくことは大変重要です。本事例では、人体頭部近傍におけるスマートフォン搭載の変形逆Fアンテナについて解析し、人体に近接したときの入力インピーダンス特性、放射パターン、放射効率、電界分布、および人体頭部におけるSAR分布を明らかにしました。
人体近傍におけるスマートフォン内蔵アンテナの解析事例はこちら>>
電磁界解析のAnsys製品一覧
Ansys HFSS(高周波3次元電磁界解析ソフトウェア)
Ansys HFSSは高周波3次元電磁界ソフトウェアです。アンテナやRF/マイクロ波コンポーネント、シグナルインテグリティの解析や大規模電波伝搬環境などの解析が行えます。
Ansys HFSSの詳細はこちら>>
Ansys SIwave(プリント基板、BGA パッケージ向けSI・PI・EMI解析ソフトウェア)
Ansys SIwaveは、プリント基板およびBGAパッケージのシグナルインテグリティ、パワーインテグリティ、EMIを統合的に解析するための電磁界解析ソフトウェアです。電気CADからインポートしたデータを活用して、PDN(Power Delivery Network)および多ビットの信号を解析できます。3次元電磁界解析ソフトウェア用に3次元ソリッドモデルを生成する機能も備えています。
Ansys SIwaveの詳細はこちら>>
Ansys Q3D Extractor(電子部品向け寄生パラメータ抽出ソフトウェア)
Ansys Q3D Extractorは、電子部品の形状から寄生パラメータ(RLCG)を抽出し、SPICE/IBISモデルが生成できます。部品などの3次元形状、基板の配線パターンやケーブルなどの断面形状、それぞれに最適化された2D/3D解析エンジンを備え、表皮効果、損失、表面粗さなどを考慮した高精度な電磁界解析が行えます。
Ansys Q3D Extractorの詳細はこちら>>
Ansys Maxwell(2次元/3次元電磁界解析ソフトウェア)
Ansys Maxwellは汎用有限要素法電磁界解析ソフトウェアです。電界強度や磁束密度などの場の振る舞いを可視化し、吸引力や損失、インダクタンスなどの各種パラメータ計算により実測値との比較評価ができます。
Ansys Maxwellの詳細はこちら>>
Ansys Motor-CAD(マルチフィジックス解析によるモーター設計支援ツール)
Ansys Motor-CADは、電動モーターの設計段階で、電気と熱、機械特性を検討できるマルチフィジックス解析ソフトウェアです。
Ansys Motor-CADの詳細はこちら>>
Ansys EMA3D Cable(製品レベルのケーブルハーネス設計/検証ソリューション)
Ansys EMA3D Cableは自動車や航空機などの複雑な構造物に配置されたケーブルハーネスのための電磁界解析ソリューションです。ケーブルハーネス設計での電波障害(EMI)および電磁両立性(EMC)の検討などが行えます。
Ansys EMA3D Cableの詳細はこちら>>
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