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解析事例

熱流体解析

スプレーイングシステムスジャパン合同会社 様

極めて短い時間スケールの流体解析が可能にする、超高精度の産業用スプレーノズル開発

スプレーイングシステムスジャパン合同会社 様

概要

スプレーイングシステムスジャパン合同会社は、1937 年の創業以来、スプレー技術のパイオニアとして世界をリードするグローバル企業の日本法人です。同社は工業用、農業用、精密噴霧技術におけるグローバルリーダーで10 万種類以上のノズルを設計・製造しています。スプレー流の解析には、極めて短い時間スケールで進行する粒子生成や、複雑な乱流挙動を正確に捉える必要があり、高度な計算技術が求められます。同社では2006年にAnsys Fluentを導入し、自社の実測データと組み合わせた独自の解析手法を確立。試作品製作の削減や開発期間の短縮に加え、肉眼や実測では捉えきれない微細な現象の可視化に成功するなど、製品開発に大きな成果をもたらしています。

導入前の課題

  • スプレーノズルの解析は、粒子生成と強い乱流の影響を正確に計算する必要があり、難易度が極めて高い
  • さまざまな性質を持つ液体や、特殊な環境での使用など、実験での検証には限界があった

 

導入効果

  • 自社の実測データとの組み合わせにより、高精度な解析を実現
  • 試作前にCFD解析で方向性を確認し、開発の手戻りを削減
  • 定量的なデータを顧客に提示することで、提案力が向上

(左から)丸山様、濱浦様、柏様

今回お話をお伺いした方

スプレーイングシステムスジャパン合同会社

八日市場工場 技術部

マネージャー 丸山 剛史 様

リーダー 濱浦 俊一 様

柏 智大 様

企画課 海外業務グループ

マネージャー 荒木 稔 様

ご利用中の製品・サービス

1.背景と課題

スプレーノズル解析の難しさ、「極めて短い時間スケールで生じる現象」の正確な把握が求められる

スプレーイングシステムスジャパンは、スプレーノズルの世界的リーディングカンパニーであるSprayingSystems Co.の日本法人です。標準品だけで10万点を超える製品ラインナップを展開し、世界製造拠点12 、販売拠点100以上を持つグローバル企業として、自社製品の開発と「SARS(Spray Analysis and Research Services)」と呼ばれる受託解析サービスを提供しています。この取り組みを担ってきたのが、技術部のCFD(数値流体力学)解析チームです。

「私たちの役割は、自社製品の開発支援と、お客様からの受託解析の2つです。ノズルから出た液体がどのような挙動を示すのか、ノズル内部でどのような流れが起きているのか。こうした"見えない現象"を可視化することで、製品の性能向上やお客様への提案力強化につなげています。」と、技術部マネージャーの丸山様は話します。

しかし、スプレーノズルの解析には特有の難しさがあります。噴射された液体は、極めて短い時間スケールで微細な粒子へと分裂していきます。この現象を正確に捉えるには、非常に細かな時間解像度での解析が求められ、計算の難易度は非常に高くなります。さらに、ノズル内部では意図的に乱流を発生させてスプレーパターンを制御しているため、流れの挙動は複雑で予測が困難です。

また、同社のもう一つの強みは、シミュレーションと実験を組み合わせた検証体制です。世界各地の拠点にテスト設備を持ち、噴霧試験を実施できる環境が整っています。実験結果とCFD解析結果を照らし合わせることで、解析モデルの精度を継続的に高めています。

2.選定理由

20年以上使い続ける「代替できない」信頼性

丸山 剛史様

同社がAnsys Fluentを導入したのは2006年。米国本社が2002年に先行して導入しており、日本法人もグローバル企業として同じ技術基盤を採用する形で導入が決まりました。20年以上使い続けている理由について、丸山様は「流体解析において安定的に計算できるソフトウェアとして、今でも抜きん出ている」と評価します。
「Ansys FluentはSARS(Spray Analysis and ResearchServices)サービスの一環として導入されました。SARSは、スプレーの粒子径、速度、衝撃力、スプレーパターンなどを計測・分析するための包括的なサービスです。CFD解析は、このSARSサービスにおいて、より高度で付加価値の高い解析を提供するためのツールと位置づけられています。ノズルは乱流を有効に利用することで、扇形に広がったり、円錐形に広がったりというスプレーパターンの変化を実現しています。しかし乱流は自由に動くため、計算上は非常に複雑になります。さらに、実際にノズルを使いたい場面は、高価な液体を効率よく噴霧したいケースが多い。 節約したい、無駄なく吹きたい。しかし、そういった特殊な液体や高温環境での実験は簡単にはできません。実験だけでは限界がある中で、いかに精度の高いシミュレーションを実現するかが、私たちの課題でした。」(丸山様・濱浦様)

 

濱浦 俊一様

「私たちが実験で見ることができるのは基本的には水だけです。しかし、実際に使用される液体のなかには、実験では扱いづらい特殊な液体もあります。シミュレーションであれば、水以外の液体や、人が入れないような環境(非常に高温の場所など)でも解析が可能になります。これは非常に大きなメリットです。Ansys Fluentを適切に使えば、大体のものは計算できます。難しい案件や、他社でうまくいかなかったものを弊社に解析依頼されることもあります。」(濱浦様)

 

3.解析例と工夫

新製品開発でCFD解析をフル活用—予想外の発見が設計改善につながる

CFD解析をどのように活用しているのか。丸山様は新製品「ミストツイスターC」の開発を例に説明してくださいました。これは小型ファンの回転流にミストを乗せて飛ばす加湿用ノズルで、オフィスや工場の天井に設置して使用します。実環境でのテストは、湿度や人の動き、ドアの開閉といった外的要因に左右され、再現性のある評価が困難でした。

「ミストは質量をもった液体です。気流にいかに確実に乗せて飛ばせるかが開発のポイントでした。ファンから出る気流の解析、ノズル内の空気の流れ、スプレーパターン解析など、多くの解析をかけて最適化しました。CFD解析であれば、実験場所に依存せず、環境条件を一定に保つことができます。空間の広さやノズルの取り付け位置も自由に変更でき、何より目に見えない気流やミストの挙動を数値化・可視化できる点が非常に有用でした。」(柏様)

加湿器用ノズル「ミストツイスターC」

パーツの組み合わせによりスプレー方向などを変えられる

予想外の発見もあったといいます。この製品では、4つの先端パーツを組み合わせることで31通りのスプレーパターンを実現しています。当初設計の「直進タイプ」を解析したところ、ミストが天井付近の気流に引き寄せられ(コアンダ効果)、意図せず天井を濡らしてしまう現象が判明。
これは設計者も解析を行うまで予想していなかった事象です。この発見を受け、天井を濡らさないための「下広がりタイプ」の先端パーツを開発・提案するなど、お客様の設置環境に合わせた柔軟な提案が可能になりました。

「形状によってなかなか広がらないといった、意図した動きをしないことがあります。その場合には実際に試作品を作って状況を確認し、CFD解析にフィードバックします。
この繰り返しによってモデルの信頼性を高めていきました。」(柏様)

直進タイプ 風の流れ

広角タイプ 風の流れ

直進タイプ スプレー分布

広角タイプ スプレー分布

混相流モデルの試行例

4.導入効果

試作品製作の費用や時間の削減に寄与

CFD解析の導入は、製品開発の効率化だけでなく技術者の意識や顧客への提案力にも大きな変化をもたらしました。

「お客様の、現行のスプレー条件や運用環境を同じ尺度で評価し、CFD解析結果に基づく改善の可能性をわかりやすく提示できることが大きいですね。定量的なデータを提示できることで、提案の説得力が格段に上がっています。
また、CFD解析上で試行錯誤を行うことで、開発にかかる時間は間違いなく短縮されます。CFD解析の結果が見えるので、実際に作る必要のあるもの、ないものの判断が可能になり、試作品製作の費用や時間の削減にも貢献しています。」(濱浦様)

さらに、「現象を包括的に捉えることができる」というCFD解析の強みを活かすことで、実験では「点」や「線」でしか把握できなかった情報を、立体的な三次元空間全体で可視化し、さらに時間変化に伴う粒子の動きまで追跡できるようになりました。
「スプレー挙動や流動現象など、実験では直接観察が難しい情報を可視化できます。設計者にこのデータを提示することで理想に近いノズル形状に辿りつくことができました。以前は年長者の経験だけに頼って作っていたものが、CFD解析データという客観的な根拠に基づいて行えるようになりました。どこを改善するのが効果的か、直接的に可視化されるので、若い技術者にノウハウを共有しやすくなるメリットもあります。」(濱浦様)

シミュレーションと試作・試験を繰り返し、品質を高めていったと話す濱浦様

5.今後の展望

解析の新領域へ。AIも視野に知見を積み重ね、最適なソリューションを届け続ける

同社では、CFD解析による開発効率と技術力の向上をより多くの領域に適用するため、CFD解析適用範囲の拡大を目指しています。

「現在取り組んでいるのは、ノズルから出た液体が分裂していく過程を“直接” 計算することです。Ansys Fluentのメッシュアダプション機能を活用し、液膜の表面を細かくメッシュ化することで、分裂の様子をシミュレーションできるようになってきました。まだ計算時間の課題はありますが、将来的には、この解析結果を蓄積してAI活用につなげたいと考えています。設計データとCFD解析結果、実験データを組み合わせたサロゲートモデルを構築できれば、設計者が3D CADを作成した段階でスプレー性能を予測できるようになるかもしれません。」(濱浦様)

さらに、混相流液膜モデル(噴射された液体が膜状に広がり、ちぎれて液滴になる過程をシミュレーションする手法)の活用も進めています。粘性の高い液体や非ニュートン流体(粘性が一定でない流体)などの特殊な流体を扱うノズル開発において重要な技術となります。

「例えば食品でいえばマヨネーズや蜂蜜のような、動きが遅く途切れないものを扱うノズルへの適用も検討しています。特殊な流体モデルをCFD解析の中に取り入れ、どのような挙動を示すかを積極的に解析していきたいと考えています。」(濱浦様)

「スプレーノズルのアプリケーションは、冷却、洗浄、加湿、コーティングなど多岐にわたります。CFD解析の実績を積み重ね、お客様への提案力をさらに高めていきたいと考えています。」(丸山様)

お客様プロフィール

スプレーイングシステムスジャパン合同会社
スプレーノズルの世界的リーディングカンパニーであるSpraying Systems Co.の日本法人。標準品だけで10万点以上のラインナップを持ち、冷却、洗浄、加湿、コーティングなど幅広い産業分野にスプレーソリューションを提供している。世界製造拠点12、販売拠点100以上を持ち、グローバル事業を展開。受託解析サービス(SARS:Spray Analysis and Research Services)も提供し、お客様の課題解決を技術面からサポートしている。


事業内容
産業用スプレーノズルおよび関連システムの設計、製造、組立、輸出入、販売を手がける産業用スプレーノズルの世界的メーカー
本社所在地
東京都品川区東五反田5-10-25
設立
1976年12月1日(日本法人)
Webサイト
https://www.spray.co.jp/

2025年11月取材
※記載の会社名、製品名は、各社の商標または登録商標です。
※自治体・企業・人物名は、取材制作時点のものです。

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