解析事例
アンモニアの燃焼解析
-ラボスケール旋回燃焼器におけるアンモニア燃焼実験の解析-
アンモニアの燃焼解析の概要
こんな方におすすめ
- 燃焼器や燃焼炉、バーナーなどにおいてアンモニアの燃焼状態を把握したい設計者 / 解析者
解析概要
使用ソフトウェア
Ansys Fluent 2021R2
Ansys Fluent 2022R2
Ansys SpaceClaim 2022R2
背景/課題
しかしながら、アンモニアは天然ガスや重油などの炭化水素燃料とは燃焼速度やエミッションの排出様態が異なるため、燃焼器やバーナーなどを設計する際には従来とは異なった扱いが必要となります。
製品開発に必要な新たな知見を得るためには、実験的手法による検証が有効なのは言及するまでもありません。
しかし、コストの問題や、特に燃焼実験において内部の詳細な状態を把握することが難しいといった課題も存在します。
数値解析はより低コストでより詳細な対象の状態を把握でき、このような課題を補完するために大きな役割を果たすと考えられます。
解析対象および解析手法
解析対象
焼器の概形図を図(1)に、実験条件を表(1)に示します。燃料と酸化剤は予混合状態で供給され、スワラーにより旋回成分を与えられます。
文献(1):Akihiro Hayakawa, Yoshiyuki Arakawa, Rentaro Mimoto, K.D.Kunkuma A.Somarathne, TakuKudo and Hideaki Kobayashi, “Experimental investigation of stabilization and emission characteristics of ammonia/air premixed flames in a swirl combustor”, International Journal of Hydrogen Energy, Volume 42, Issue 19, 2017
解析手法
Ansys Fluentにより定常解析を行い平均場の温度、速度、化学種の分布を確認します。同様に非定常解析を行い、保炎性や乱流構造を確認します。
・定常解析
乱流平均場を想定した解析を行うため、レイノルズ平均ナヴィエ・ストークス方程式に乱流モデルとしてk-ω Share Stress Transport(SST)モデルを組み合わせ、燃焼モデルとしてFlamelet Generated Manifold(FGM)モデルを適用しました。この時、化学反応参照テーブル作成には文献(2)のアンモニア燃焼に対応した38化学種232反応の素反応モデルを用いました。
・非定常解析
瞬時の乱流場を想定した解析を行うため、空間フィルターを適用したナヴィエ・ストークス方程式にサブグリッドスケール乱流モデルとしてWALEモデルを組み合わせた解析を行いました。燃焼モデルは定常解析と同一です。また、渦や火炎面を効率的に解像するためAdaptive Mesh Refinement(AMR)機能を適用し、メッシュを自動的に細密化しております。
文献(2):HisashiNakamura, MitsumasaShindo, Effects of radiation heat loss on laminar premixed ammonia/air flames, Proceedings of the Combustion Institute, Vol. 37, 2019
解析の仕様
解析メッシュ
非定常解析には定常解析のメッシュにAdaptive Mesh Refinement(AMR)機能を適用し、メッシュを自動的に細密化しております。
ところどころ色が濃くなっている部分がAMRで細分化されています。
・定常解析
・非定常解析
境界条件と解析設定
燃焼室内にバルク速度3.14 m/s、温度 300 K、当量比1のアンモニア・空気予混合気を流入させ、出口を大気圧開放とします。
壁は全て断熱壁を仮定します。表(2)に定常解析と非定常解析の解析設定をそれぞれ示します。
解析結果
解析を行うと、燃焼器内部の流れの様相や高温部分の位置、燃料であるアンモニアの燃焼具合、アンモニアの火炎帯で生じる燃焼中間生成物であるHNOの発生位置などが把握できます。
解析・実験の定性的な傾向は一致し、定量的にも当量比=1付近を除き大きく外れてはいない結果となっております。
このように、制限はありますが、解析を用いてNOX発生量を定性的に予測することもある程度は可能です。
また、図(7)dに実験における火炎写真を示します。
図(7)aに示すように、スワラー下流に逆流領域が存在しており、この流れにより保炎されていることがわかります。
また、同図cより,定常解析では燃焼室内はほとんど同色で同温度でしたが、瞬間的にはムラがあることが見て取れます。
同図bとdを比較すると、HNOの分布と火炎の写真は定性的に似ています。
これはこの解析がある程度妥当性を持った結果を示していることを示唆しています。
図(8) 燃焼器内の乱流渦(動画)
解析結果の評価
本解析の効果
非定常解析において、同燃料に対しLESとFGMによる非定常予混合燃焼解析を実施し、保炎して燃焼が継続すること、火炎の様子が実験写真と定性的に一致することを確認しました。
これらの解析結果から、Ansys Fluentを用いることにより、他の解析対象におけるアンモニア燃焼に対しても実用上有用な精度での解析を実施可能ということがわかりました。