解析事例
澁谷工業株式会社様: 設備メーカーの成長はお客さまの成長とともに
Ansys製品を活用し、ボトリング技術の省エネ化・環境負荷低減を実現
概要
澁谷工業株式会社様は、清涼飲料や食品・調味料・酒類、トイレタリー製品などを生産するためのボトリングシステムの製造を主力とする産業機械メーカーです。創業100年が近い老舗メーカーでもあり、国内のボトリングシステムにおいてはトップシェアを誇ります。
同社には、過去にも何度かインタビューにご協力いただいています。前回お伺いした際は、公差設計や3次元公差解析ツール「CETOL 6σ」のご活用についてお話をお聞きしました。今回は、プラント生産統轄本部の西納様、宮崎様、嘉屋様、稲本様に、同社におけるSDGsへの取り組みや、Ansys製品を活用したアセプティック(無菌)充填設備設計関連の事例などについてお話をお伺いしました。
今回お話をお伺いした方々(左から)
専務執行役員 プラント生産統轄本部 本部長 プラント技術本部 本部長
西納 幸伸 様
上席執行役員 プラント生産統轄本部 製薬設備技術本部 本部長
宮崎 隆 様
プラント生産統轄本部 プラント技術本部 技術開発推進部 課長
嘉屋 考時 様
プラント生産統轄本部 プラント技術本部 技術開発推進部 課長代理
稲本 孝之 様
(以下、お客様の敬称は省略させていただきます。)
設備産業のこれから:バーチャルエンジニアリングの推進
澁谷工業(株)の近況を教えてください。
西納
ありがたいことに、お客さまからは新しいご要望やご相談をたくさんいただいています。
例えば、少子高齢化による労働人口の減少を背景に、設備の省人化や無人化への問い合わせが増えています。また、コロナ禍や大きな自然災害などを契機に、BCP対応を考慮して生産設備のあり方を見直したいといった動きもあります。
また、最近ようやく世界がコロナ後といえる状況になり、海外のお客さまでは米国や中国、東南アジアで再び引き合いが増加しています。
現在、注力している取り組みについて教えてください。
西納
われわれ設備産業は、よく「微分産業」と呼ばれてきました。お客さまの生産量が伸びなければ設備投資をしていただけないので、私どもの成長はゼロのままになってしまうためです。お客さまの成長を実現することこそが当社の最重要課題と言えます。近年、製造業全体においては、「DX」「RX」「GX」が進行しており、当社もそれに対応するために「技術改革」「ものづくり改革」「意識改革」を推進しています。なかでも特に重要視しているのがバーチャルエンジニアリング(VE)※1 の推進です。
現在当社では、3DデータとCAEを活用したVEでフロントローディングを実践し、後工程での手戻りをできる限り減らすよう取り組んでいます。また、最近ではモジュラーデザインを推進することで、設計そのものを減らす「設計レス」にも挑戦しているところです。
お客さまへ提供する設備やサービスを通じて、社会課題の解決に貢献
環境やSDGsに関するお取り組みを積極的に進めていらっしゃると伺っています。
西納
澁谷工業(株)は、社内に「サステナビリティ委員会」を組織し、気候変動対応やウェルビーイング※2といった社会課題に積極的に取り組んでいます。ただ、当社は設備メーカーですので、お客さまに提供する設備やサービスを通じて、そうした課題解決に貢献していくことに主眼を置いています。
例えば、PETボトルリサイクル推進協議会の調査によれば、ペットボトル飲料の生産が過去10年間に1.5倍に増えているにも関わらず、CO2排出量は5%削減されています※3。これはボトルの薄肉化や、キャップ、ラベルの軽量化、リサイクル原料の利用といったお客さまの開発努力の賜物ですが、われわれ設備メーカーの最新のボトリング技術も、少なからず貢献していると思います。
そのような取り組みにも、Ansys製品が利用されているのでしょうか。
宮崎
そうですね。Ansys製品は特別なものではなく、課題の解決方法として、ごく普通に利用されています。
西納
まずは充填バルブ設計において、強炭酸飲料をボトルに充填する設備のバルブ内のフィン形状を検討した事例を紹介します(図1)。
従来、強炭酸飲料は、いったん冷却してから充填しなければなりませんでした。常温では非常に発泡しやすくなり、うまく充填できないためです。一方、ボトルが冷たいと包装時に結露してしまうので温める必要があり、さらにエネルギーを消費します。そこで、この冷却の工程をなくすことで充填工程の生産性を高め、消費エネルギーを削減することを目指しました。
常温で強炭酸飲料を充填するためには、特殊なフィンを用いて流れを制御する必要があります。そこで最初に、このフィンの3D形状に、枚数や角度、厚み、長さといったパラメータを割り振ってAnsys Fluentの流体解析を実施し、優れた形状の案を絞り込みます。
その後、3Dプリンタで試作品を製作しテスト機に取り付け、流れの均質性や安定性など状態を評価します。最終的には実部品として採用する形状を決定し、最終評価のうえ実機搭載しました。
嘉屋
次は、容器搬送における液面挙動のシミュレーションです(図2)。
商品をキャップ締めの工程まで搬送するときに、ボトルに注がれた飲料の液面がどう揺れるかをAnsys Fluentの流体解析で予測しました。搬送途中に液ハネしたり、液こぼれしないためには、どういう形状のボトルで、どういうルートで動かせばいいのかを事前検証しています。
稲本
最後は、アセプティック充填設備に用いられる、EB滅菌(電子線滅菌)効率の評価です(図3、図4)。EB滅菌とは、電子線(Electron Beam)のエネルギーを利用してペットボトル滅菌する手法で、薬剤を使わないため薬剤の残留リスクがなく、ランニングコストも薬剤方式に比べ大幅に削減できるという利点があります。
従来は、実容器と照射装置を用いて実験をしていたのですが、ここではボトル形状の3Dデータに対してAnsysでメッシュを切り、電磁場解析やモンテカルロシミュレーションで滅菌効率を評価しました。この解析は金沢大学と共同で取り組みました。
宮崎
以上の事例のように、実機がない段階からAnsys製品でバーチャルに検討を進めると、手戻りコストが減らせるだけでなく、さまざまなアイデアを試せるという利点があります。このコロナ禍でユニークな形状のボトルやキャップの新製品がいろいろ登場しましたが、それらの設備を設計する際にもAnsys製品は欠かせない存在でした。
Ansys製品とサイバネットは、VE推進に欠かせない存在
澁谷工業(株)では、いつからCAEを利用されているのでしょうか。
西納
当社のCAEへの取り組みは、約40年前(1980代半ば)に始まっています。
当時は、FEM(有限要素法)解析が、研究機関から民間企業の設計開発現場に降りてきた時期でした。当社では、後に金沢大学 第11代学長を務めることになる山崎光悦先生をお呼びして、私を含めた技術陣がFEMの基礎について学ばせていただきました。あの頃はまだ、セクションペーパーに鉛筆でメッシュを描きながら行列式を解くという基本的なところからスタートして、その後、10年くらいでAnsys製品など商用FEMソフトウェアが増えてきて、社内に導入されるようになりました。
Ansys製品を30年以上使ってくださっていますが、その理由をお聞かせください。
西納
Ansys製品の機能拡張とサイバネットさんのサポートですね。われわれが望むことはほぼ実装されてきましたし、サポート対応も丁寧だったので、ほかのシステムやベンダーさんを探しにいく必要がそもそもなかったのです。
Ansysの導入により開発費が減少。経営的なメリットが顕著に
Ansysの導入効果についてお聞かせください。
西納
開発案件も製品も増えている一方、開発費は膨らんでいくことはなく、一定の水準を維持できています。
特に最近では開発コストの削減とスピードアップの両立が実現できる傾向にあり、経営的にもメリットが顕著に出ています。
「モノを作らないで検証・判断できる」ため、高効率かつスピーディーな開発が実現できていて、まさしくVEの目指すところが叶いつつあると実感しています。
宮崎
もしAnsys製品がなくなったとしたら、今の仕事はこなせなくなるでしょう。かつて、手描きからCADに置き換わった時もそうだったのですが、製品開発にとって、このインパクトは非常に大きいと思います。
進化するCAEを活かし、VEに取り組むために
今後、澁谷工業(株)ではどのようにCAEやVEを活用していくご計画でしょうか?
西納
EB滅菌設備については省エネ化も進めており、この1年の間でも従来比の10%ほどの省エネを実現しました。また、設備の部品にかかる熱応力や疲労の解析を行い、稼働の安定化や長寿命化などを図ることで、設備保守の負担を減らせるように取り組んでいます。
このほか、最近では食品加工システム設備の軽量化のためにAnsys製品を活用しています。また、食品加工でのスーパースチーム工程では、Ansys Fluentを用いた相変化を考慮する流体シミュレーションにもチャレンジしています。ここでは、エネルギー効率の改善と「おいしさ」の両立を目指しています。
宮崎
これからも最新のシミュレーション技術を生かしてVEに取り組んでいくため、将来を担う社内の技術者のスキル向上にも、引き続き力を入れて取り組んでいきます。
解析件数はますます増えていますので、もっとCAEを扱える人材を育成していきたいですね。当社としては、そこでもサイバネットさんのサポートに大変期待しています。「CAEユニバーシティ」など教育コンテンツの利用も検討できればと思っています。
重要なのは、「原理原則」をしっかり結びつけること
西納
Ansys製品をはじめとするCAEは年々急速に進化していて、10年前には考えられなかったような解析が可能になっていますね。これからも期待しています。
VEを推進してフロントローディングを実現するために、私たちが重要視しているのは、単に「現実とバーチャルの間で整合性を持たせる」ことだけでなく、そこへ「原理原則(理論)をしっかりと結びつける」ことです。そうすることで、VEは現実以上に、事象の本質を解明・検証できるようになると考えています。
この先も製品が進化し、いろいろなシミュレーションができるようになると思いますが、理論を疎かにすることなく、今後も取り組んでいきたいと考えています。
澁谷工業(株)の皆様には、お忙しいところインタビューにご協力いただき、誠にありがとうございました。
お客さまへ提供する設備やサービスを通じて、社会課題の解決に貢献していく取り組みのなかで、Ansys製品が大いに活用されているとのこと、大変嬉しく感じました。今後も、VEによるフロントローディングの推進に、Ansys製品や当社サービスをお役立ていただければ幸いです。今後とも末永く宜しくお願いいたします。
注釈
※1 3Dデータを核として、設計・製造・解析の各データを同期させて一体に検討し、フロントローディングを推進していく開発概念。
※2 ウェルビーイング(well-being):幸福で肉体的、精神的、社会的すべてにおいて満たされた状態を示す概念。企業活動におけるESGやSDGsの取り組み(ビジョン)のひとつ。
※3 PETボトルリサイクル推進協議会「PETボトルリサイクル年次報告書2021年度版」より
https://www.petbottle-rec.gr.jp/nenji/2021/bk_pdf/pet21_2021.pdf