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解析事例

株式会社キョウデン

部品の3次元形状まで考慮した、プリント基板の性能評価にAnsysを活用

「我々が行っているような複雑で難易度の高い設計は、シミュレーションなしには成り立たないと思います」


左から上原様、村田様

今回のインタビューでは、株式会社キョウデン様にご協力いただきました。
「イメージをカタチに」「可能性を製品に」掲げ、プリント配線板の製造を通じ、日々新しい価値の創出に挑戦しておられるキョウデン様。製品の企画から設計、製造、実装までの完全一貫支援体制を確立した「総合プリント配線板メーカー」様という、他にはない独自の地位を確立されています。大手のメーカー様からの信頼もあつく、そのご活躍に国内外からの視線が集まっています。
また2015年7月からは、新たにキョウデンプレシジョン様がグループに加わり、筐体まで含めたワンストップソリューションが可能になりました。

ここでは製造本部 設計部をご訪問し、Ansys SpaceClaimやAnsys HFSS、Ansys Designerのご利用状況についてお伺いしました。

今回お話いただいた方々
製造本部 設計部
次長 上原 正彦 様
主任 村田 健彦 様

(以下、お客様の名前の敬称は省略させていただきます。)

設計・開発から実装まで。プリント基板製造におけるワンストップソリューションを提供

皆様の業務内容についてお聞かせください。

上原

当社は主に電子機器の設計・開発、基板の設計、製造、部品調達及び実装を手掛けています。「プリント基板製造のトータルソリューション」として、「開発から量産」「国内から海外」「民生品から産業機器」「片面からビルドアップまで」、お客様のご要望にあわせて様々なソリューションをご提供しています。
基板設計を専門とした企業は数多くあると思いますが、当社の場合は上流から下流まで、全ての設備を所有しています。設計から実装までの工程を、一つの工場内で完結できる会社はかなり珍しいのではないかと思います。もともとは基板メーカーだったのですが、お客様のご要望にお応えしていくうちに事業範囲が広がっていきました。
スピードなど、工場にすべての設備があることのメリットは色々ありますが、そのうちの一つは設計部門と製造部門の連携の良さです。製造現場のことをよく知っているエンジニアが、基板の設計をしているというのは優位点だと思います。

さらに先日、筐体関係の会社を買収させていただき、今年(2015年)7月1日からはキョウデンプレシジョンという形で新たに筐体の製造、設計製造も手掛けることになりました。
これにより、従来からの電子事業に加えて、意匠・機構部品の加工まで可能なインハウス(完全一貫生産)型のワンストップソリューションが可能になります。

皆様のご担当業務についてお聞かせください。

村田

当部門では主にプリント基板の設計を行っています。私は主にシミュレーションや、アートワークの設計をしております。

上原

現在はプリント基板の設計が中心ですが、将来的には熱問題など、筐体を組み込んだときの影響を考慮した設計も視野に入れています。

ローコストで付加価値の高いものづくりのためにシミュレーションは無くてはならない存在

現在、業務で課題になっていることは?

上原

最近は海外に基板設計を委託するケースも増えましたので、海外とのコスト競争がさらに激しくなっています。その一方で、技術面では海外の競合を凌駕するような、高度なものが求められますので、「いかにローコストで付加価値の高い製品を提供するか」が課題です。シミュレーションは、そうした課題解決に欠かせないツールになっています。

村田

お客様の指示があまり具体的でなく、どこから手を付けたら良いかわからない場合などは、シミュレーションは特に必要ですね。

上原

お客様の開発課題も、前例のない最先端のものばかりなので、具体的な指示を出したくても出しようがないのだと思います。しかしモノは作らなくてはいけませんから、お客様が希望されるような性能を出すにはどうしたらいいか、色々な設計案でシミュレーションをしてみて、結果をもとに検討していきます。
シミュレーションの結果は視覚的でわかりやすいので、お客様にご覧いただき、お客様のイメージと合っているか確認したり、ご要望とのすり合わせを行うのにも便利です。何より、試作に入る前にトラブルを予測し対策をたてることができるので、コストと工数の削減にも役立ちます。
我々が行っているような複雑で難易度の高い設計は、シミュレーションなしには成り立たないと思います。

GHz帯の高速伝送基板への対応のため精度の良い3次元電磁界解析ツールを導入することに。知名度と実績に優れたAnsys製品を採用

Ansys HFSSとAnsys Designer、Ansys SpaceClaimを導入された経緯をお聞かせください。

上原

以前より2次元のシミュレーションツールは利用していました。しかし近年、高速系と呼ばれる周波数の非常に高いシステム、例えば最近だと4Kテレビやスーパーハイビジョンと呼ばれる8K映像などに使われるシステムの場合、2次元の解析では精度に限界があります。そこで精度の良い3次元の電磁界解析ソフトの導入を考えました。いくつかのツールを検討した結果、知名度や実績のあるAnsysHFSSを選択しました。
Ansys DesignerはAnsys HFSSと同時に導入しています。用途は回路シミュレーションで、Ansys HFSSの電磁界解析で求めたSパラメータを読み込み、ドライバICからレシーバICまでの一連の伝送経路における波形を求めています。

村田

Ansys SpaceClaimは最近導入しました。目的はAnsys HFSSで解析する際に、コネクタ等の部品の影響を考慮するためです。部品メーカーから入手した形状データを、解析用に加工するのに活用しています。

上原

一般的には、プリント基板用のCADで設計したデータをそのまま、特に編集せずにAnsys HFSSで読み込んで解析をするケースが多いかもしれません。しかし、先ほどお話ししたように、非常に高周波の領域では、コネクタ1つ、ピン1本の影響も無視できなくなります。プリント基板用のCADでは、そうした3次元形状は作成できませんので、AnsysSpaceClaimのような形状作成ツールが必要になります。

今後、キョウデン様のように、部品の3次元形状を含めたプリント基板の特性を、電磁界解析で求めたいというニーズは増えていくと思われます。今回、キョウデン様の事例を本誌でご紹介することができ嬉しく思っております。

Ansys SpaceClaimは、3次元CADの専門知識がなくても直観的に使えるところが魅力

製品を使いこなすまでに時間はかかりましたか?

上原

たまたま社内にAnsys HFSSの経験者がおり、彼が担当したため立ち上げは非常にスムーズでした。サイバネットのトレーニングを何度か受講しただけで、想定していた解析が問題なく実施できるようになりました。現在は、Ansys HFSSライセンスをフル稼働で活用しています。

村田

一方3次元CADの経験者は一人もいませんでしたが、Ansys SpaceClaimは非常に使いやすく、半日コースの無料セミナーを一度受講しただけで、すぐに使えるようになりました。
基本的な操作体系がとても良くできていますね。直観的に操作できるので、まったく利用経験のない人でもモデルを作成することができます。例えば、穴のサイズを変えたければ、穴をマウスでドラッグするだけでいい。CADというより、マイクロソフトのPowerPointのようなツールで形状作成している感覚です。

ありがとうございます。一般的な3次元CADの場合、穴の寸法を変えるためには寸法データに戻って編集する必要があります。形状を直接編集するというより、寸法を編集していくイメージなので、ある程度3次元CADの知識がないと慣れるまで難しいかもしれません。

村田

3次元CADの下地がなかったので、かえって入りやすかったのかもしれませんね。

外部から入手された形状データをAnsys SpaceClaimで編集されているとのことでしたが、一般的な3次元CADだと結構難しいと思います。というのは、従来の3次元CADは「履歴」という考え方がベースにあり、設計変更をする際には過去の履歴にさかのぼって修正する必要があります。そのため履歴がないデータは基本的に編集できません。
解析モデル作成用でしたら、どんなモデルでも簡単に編集できるAnsys SpaceClaimが合っていると思います。

では、具体的な事例をご紹介いただけますか。

村田

こちらはコネクタのモデルです。部品メーカーがWebサイトで公開している3次元の形状データをダウンロードしてきました。
このコネクタは、樹脂と信号を通すためのピン(金属)から構成されています。しかし 図1 のように、提供されるモデルは一つの塊でしかありません。もともとこうした形状データは、筐体に入れたときの干渉チェック用などに作られたものなので、形状さえあれば内部構造は必要ないのです。
しかし、我々の目的はAnsys HFSSで部品の特性(Sパラメータ)を得ることですから、これでは意味がありません。そこでAnsys SpaceClaimのプル機能などを使ってモデルを分割し、ピンなど電磁界解析に必要な形状を追加し、AnsysHFSSと互換性のあるACIS形式で保存しました。

この作業にはどのくらいの時間がかりましたか。

村田

この程度なら半日もかからないと思います。プル機能はとても便利ですね。

ピンの間隔など、部品の寸法情報はどうやって調べているのですか。

村田

部品メーカーから提供いただいたカタログやデータシートを利用しています。

上原

形状データを保存したあとは、 図2 のような流れでAnsys HFSSでインポートして解析を行い、Sパラメータを求めています。

Ansys Convergence発表資料ダウンロード

解析の精度はいかがですか?外部から入手したモデルを模擬して解析しているので気になりますが。

村田

現在、部品メーカーより提供いただいたSパラメータと、Ansys SpaceClaimやAnsys HFSSを使って求めたSパラメータとの比較を進めています。なかなか良い相関が取れそうです。

Ansys HFSSについてのご意見をお聞かせください。

上原

16.0でインターフェースが統合されたことで、操作性が非常によくなりましたね( 図3 )。 従来は、AnsysHFSSとAnsys Designerは別々に立ち上げて操作していたので、都度、ツールを切り替えなくてはならず煩雑に感じていました。しかし16.0からは2つのツールを同じ環境内で使えるので、作業効率がかなり良くなったと思います。そのせいか、解析時間も短くなったような気がします。

ありがとうございます。解析スピードの向上はバージョンアップの度にはかられています。リリースの際に大々的にお伝えしていなくても、環境によってはその効果を実感いただける場合もあるようです。今後もぜひご期待ください。

3次元電磁界解析を導入したことでさらに幅広いサービスの提案が可能に。今後は筐体の影響の考慮や、熱対策が仮題

ツールの導入効果についてお聞かせください。

上原

詳細な3次元電磁界解析ができるようになったため、お客様に提案するサービスの幅が広がりました。Ansys HFSSの解析結果をプリントして、販促ツールとしても使うこともありますよ。ちょうど高速シリアル伝送を扱う案件が出はじめたころだったので、タイミングも良かったです。
また想定外の効果としては、今まで納品していた完成品に加えて、設計したプリント基板の3次元データが欲しいというご要望が増えました。以前は出力できるデータ形式が限られており、なかなかお応えできませんでしたが、今ならすべて出すことができます。当社サービスの新しい付加価値としてご好評いただいています。

今後取り組まれたいテーマについてお聞かせください。

上原

先ほどお話ししたように、今後は筐体を含めた最終製品の開発を進めていきたいです。具体的には熱解析や連成解析になると思います。全く新しい分野への取り組みになりますので、サイバネットシステムのサポートに期待します。 また、将来的には未来のエンジニア育成というか、学生にプリント基板の設計やシミュレーションを教える活動にかかわれると良いですね。基板を使った製品は身の回りにあふれているのですが、自動車などに比べると注目されにくい分野です。
実際、当社にも基板設計がどのような仕事かイメージを持てないまま入社し、そのまま辞めてしまうケースがあり残念に思っています。ベンダーや学校などいろいろな組織と協力して、もっと裾野を広げていけると良いですね。

サイバネットは長年にわたり、Ansysの熱解析や連成解析のサポートを行ってきました。セミナーやWebサポートなども充実していますので、お役にたてることがあればぜひお声掛けください。今後ともどうぞ宜しくお願いいたします。

キョウデン(株)上原様、村田様にはお忙しいところインタビューにご協力いただき誠にありがとうございました。この場をお借りして御礼申し上げます。

【メカニカルCAE事業部マーケティング室】

図1 Ansys SpaceClaimを用いたモデル修正
図2  Ansys SpaceClaimとAnsys HFSS、Ansys Designerを使った解析の流れ
図3  Ansys HFSS、Designer共通の操作環境(Ansys Electronics Desktop)

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