[株式会社アドバンテスト研究所]最先端の半導体試験技術に、Ansysの流体解析が貢献 「シミュレーションは再現性もよく、何より傾向がつかめる点にメリットを感じています。」
「解析がなければ、この精度の結果は得られなかったはず」Ansysの流体解析で、未知の領域であった現象の可視化に成功
どのような点を工夫されましたか?
田中 | : | 最初は全体モデルを作成したのですが、難しいことがわかったので、一つ一つ分解して計算するようにしました。例えば、まず着弾時の挙動だけを見て、その次に障害物として配線を模した構造物を置いてみて、という風に。これを何度も繰り返していきました。 |
柿沼 | : | 分割しておけば、問題が発生しても、比較的簡単に原因を見つけることができます。逆に分割しておかないと、原因がなかなか追究できず、ともすると最初からやり直しになりかねません。 |
田中 | : |
実験のほうも、温度条件や着弾時の飛翔速度、接触角などの条件を詳しく測定しておき、シミュレーションに近い条件のときの挙動を確認しながら進めました。 その結果、シミュレーションと実験結果の相関もよく、未知の領域であった現象を可視化することができました。Ansysの流体解析がなければ、この精度の結果は得られなかったはずです。 |
現在はどのようなテーマに取り組まれているのですか?
柿沼 | : | 流体解析のプロジェクトはいったん終了して、デバイスと配線基板との接触解析やシリコンゴムなどの弾性体のシミュレーションに取り組んでいます |
Ansysについてご意見があればお聞かせください。
田中 | : | 私が使いはじめた当時はAnsys Workbenchでは圧電解析ができなかったので、Ansys Mechanical APDLを使っていました。APDLの言語体系は慣れるととても便利ですね。IF文など、ごく一般的なプログラムで使える機能が多いですし、バッチ処理も楽です。APDLのコマンドリストをテキストファイル形式で残しておくだけで再現ができるのでデータも軽いのが良いです。 |
今はAnsys Workbenchでも圧電解析ができるようになりましたが、Ansys Mechanical APDLの自由度の高さにメリットを感じている方も多いです。Ansys WorkbenchからAnsys Mechanical APDLのコマンドを呼び出すことも可能ですので、それぞれの良いところを活用いただければ幸いです。最後に、当社に対するご意見やご要望はありますか。
田中 | : | 当社が扱っているような、微細なモデルの解析事例をもっと提供してもらえるといいですね。また立ち上げの際は、きめ細かくサポートしていただき大変助かりました。今後も前例のないようなテーマでAnsysを使うことになると思いますので、色々と相談させてください。 |
ありがとうございます。我々のサポートがお役に立てたのでしたら、これほど嬉しいことはありません。今後もより良いサポートをご提供できるよう、努力を重ねてまいります。こちらこそ末永く宜しくお願いいたします。
アドバンテスト研究所 柿沼様、田中様には、お忙しいところインタビューにご協力いただき誠にありがとうございました。この場をお借りして御礼申し上げます。
[メカニカルCAE事業部 マーケティング部]
微小液滴内に生じる表面張力差対流の解析
はじめに
<従来のインクジェットでの配線描画>
・ 基板に対するインクの濡れ性が良いため、液滴が着弾後に大きく広がり、微細で厚みのある配線パターンを形成することが困難
⇒表面張力差対流を利用して微細化が出来ないのか
解析概要と現象の模式図
描画時の現象を把握するため、液滴飛翔状態から配線形成に至る一連の描画モデルを考案し、有限要素法による熱流体解析を行うことによって、実際の描画状態に近い条件下での微小液滴の挙動を調べることとした。
<想定している全体の流れ>
あらかじめ、部分加熱した場合
1) 液滴が落下してくる。
2) 基材に着弾する。
3) 着弾した際の慣性力で広がる。
4) 温度差により液滴に温度差が発生。
5) 表面張力差対流が発生し、配線方向に液滴が引き上がる。
⇒液滴の移動方向が途中で変化するので、そのまま解析するのは難しそう。
現象の分解
液滴の振る舞いを、2つの挙動に分けて考える。
@飛翔→衝突後、液滴の慣性広がり
@慣性広がりの解析
1) 液滴が落下してくる。
2) 基材に着弾する。
3) 着弾した際の慣性力で広がる。
A静止した状態からの表面張力差対流
A表面張力差対流の解析
1) 温度差により液滴に温度差が発生。
2) 表面張力差対流が発生し、配線方向に液滴が引き上がる。
⇒@、Aの解析を元に、一連のモデルを作成し解析することとした。
解析モデル
慣性広がり、及び表面張力差対流の解析は以下のようなモデルで解析を行った。
@飛翔→衝突後、液滴の慣性広がり
A静止した状態からの表面張力差対流
合成モデルについて
液滴の運動方向が2方向(落下方向と配線方向)
界面に沿う形状のメッシングは最も複雑な動きをする着弾点近傍において、運動方向の切り替わりがあるため困難であるため、立方体メッシュを細かく配置することとした。
<解析方法>
時刻歴応答解析
<条件>
・ 配線部分の先端エリアに温度を設定
・ 空気、インク共に初期温度は20℃
・ 空気外周部は開放条件
実際の描画状態との比較
解析結果の分析
⇒ 表面張力差対流の効果をコントロールすることで、慣性広がりの抑制と配線方向への効率の良い引き上げが可能!
再現実験結果
温度差「中」の温度条件で複数本の描画実験を実施した。
⇒ 解析で得られた条件を使用することで、配線線幅10μm 、配線ピッチ20μm 、アスペクト比1の配線描画ができた。
まとめ
描画時の現象を把握するため、独自に液滴飛翔状態から配線形成に至る一連の合成モデルを考案し、有限要素法による熱流体解析を行うことによって以下のことが分かった。
- 本モデルにおいて、温度条件による表面張力差対流の効果がどのように働くのかが明らかとなり、解析結果が実験結果とよく一致することが確認できた。
- 解析結果から得られた数値的条件だけでなく、現象を可視化できることにより、今回対象とした系のような実際に見ることが困難な現象の理解に役立つことが分かった。