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解析事例

横浜国立大学

実装部品におけるはんだ接合部の信頼性評価とAnsys

于強先生 ポートレート于 強 先生

今回は、大学における工学研究のひとつとしてCAEにも積極的に取り組まれている横浜国立大学大学院工学研究室助教授の于強先生にインタビューをさせていただきました。
同研究室では、材料および構造物の強度信頼性評価および複雑構造システムの信頼性設計支援手法に関する教育・研究を手掛けられています。基本的な研究手法は材料強度学と計算力学、実験的手法に関しては従来の材料試験法、疲労強度試験法などの他に、最近はマイクロ構造の強度試験法・評価法、マイクロ構造用強度試験機の開発などの研究にも力を入れられています。

于強先生は、特に実装部品のはんだ接合部の非線形解析に関する研究について日本で権威的な存在であり、7月に特別トピックセミナーとして「はんだ解析セミナー〜電子機器のはんだ接合部の非線形解析および信頼性評価・設計〜」をサイバネットシステム本社にて開催していただき、参加者からたいへん好評を博しました。このインタビューで于強先生には、特にシミュレーションのあり方やその将来についても触れてご意見をいただいています。(以後先生の敬称は略させていただきます。)

まず現在の研究内容、シミュレーションに対する考えなどをお聞かせください。

我々の研究室では、これまでシミュレーションをキーワードにいろいろな分野の研究を行なってきました。しかし最近ではシミュレーションを使った新たな手法の開発やメカニズムの解明に取り組んでいます。ものづくりは、出来たものをシミュレーションして結果がどうだというより、最初からどういったもの作りを行なえば付加価値の高い商品が作れるかを考えなければいけないと思うのです。つまり、シミュレーションする前に人間がどういった発想をするかが、これからより重視されるはずなのです。実はそもそもシミュレーションと人間の発想はあまりリンクしていません。発想からものが形になって、その後シミュレーションして、様々な現象を確認し再現するわけですが、その前の発想段階ではシミュレーションするターゲットすら出来ていないので、そこにシミュレーションをどう取り入れるかは従来非常に難しい話として捉えてきました。企業の中でも、ものの発想やコンセプトに関しては、どちらかというとベテランの技術者が考えるものだという風潮があります。しかし従来、ベテラン技術者が生み出してきた考え方やコンセプトは実はもう出し尽くされていて、今はもっと新しいアイデアが必要とされつつあるわけですから、今までの経験と比べさらにワンランク上のバックグラウンドから発想していかなければいけません。

そのワンランク上の発想がどこから来るかというと、これがシミュレーションに辿り着くわけです。一次元の線形問題の教育を受けている技術者たちは、その範囲であればシミュレーションに頼らなくても十分アイデアを出せますが、非線形や2次元、3次元になってダイナミックな新しいアイデアが必要とされると、教育での知識だけでは困難です。そこでシミュレーションを使うしかないわけです。シミュレーションは、線形であろうが、非線形であろうが、ダイナミックであろうが3次元であろうが関係なくとにかく解を出してくれますから。

整理しますと、従来シミュレーションはあるアイデアを確認し改善するときに使われてきましたが、今度は新しいアイデアがシミュレーションの技術をベースにして出していかなければいけないし、それがシミュレーションとして次に果たさなければならない大きな役割ではないかと思うのです。もちろん言うのは簡単ですが、実現するためにはそれなりの技術が必要です。そういったわけで我々の研究室が今そういう分野に関して非常に注目しているのです。

その中でAnsysとの出会いというのは?

実は企業と色々付き合って研究をしているのですが、企業はものづくりを一番重視しているので、ものづくりにきちんと役立つものかどうかは、我々以上に敏感に感じているんです。ですから企業の中でもソフトの使い分けがよく行なわれています。ベーシックなもの、設計に強くリンクされているものなど、特徴がはっきりしているソフトを使っています。ですので、共同研究をする上で結果的にうちの研究室でも、構造関連のソフトをほとんど使うことになってしまいました。

今扱っているシミュレーションソフトはいろいろあって、Ansys、ABAQUS、Marc、ADINAなどです。それぞれ特徴があるのですが、我々のイメージと同じ方向を目指しているのが、ある意味Ansysではないかなと感じています。ものづくり、設計開発のツールとして積極的に使って行くのもシミュレーションのツールの大きな役割だと思うのですが、おそらくAnsysの開発の基本的な思想もそこにあるようですし。ですからAnsysというソフトに関しては、今非常に注目しているわけです。

日本では大学と企業が今後如何に連携していくかがトレンドとなるでしょうし、その面で先生の研究室はリードされていると思います。そのあたりの先生のお考えを教えてください。

私たちがやるべき研究を見つけるためには、研究室の中で考えているより企業の話を直接聞いたほうが、早いんですね。そして企業から出されたニーズを研究しようとすると、大半が難しいのですが、人がやってない、世の中に出来てない、でもニーズがあるのであれば、これこそチャンスがあるし価値があるわけです。

複数の企業と付き合うと、そこには全く別の問題があるように見えます。しかし、3つやると皆違うように見えるのが30やると実はそこには共通の工学のトレンドが見えてきます。例えば、ある分野で注目される技術は絶対1回で終わることはないんです。自動車メーカーが今注目している技術分野は、1-2年経つと自動車の部品メーカーがそれを使うことになり、また2-3年経つと次は材料メーカーがそれを使うことになります。さらにもっと広げて考えると、自動車というのは今では総合技術となっているわけですから、今度は電機で同じような技術を使うことになるわけです。もちろんそれぞれの段階でそのまま同じ技術を使うのではなく、特徴やそれぞれのものづくりのバックグラウンドがあるので、技術のマイナーチェンジはあるのですが、やはり基本的なトレンドというのは変わらないのです。ですから複数の企業で異なる産業分野と付き合うと効果があるのです。そうやって我々の研究室では、材料、自動車、家電、半導体などのメーカーやソフトメーカーなど幅広く付き合いをさせて頂いています。

先生の取り組まれている研究分野について教えていただけますか?

自動車関係の設計問題というのが一つ大きな問題です。今は過渡期ですので、従来の技術の延長線上の話ではある意味成熟しつつあります。ですからメーカーとしては次世代の新しいコンセプトをどうやって出して行くかを考えていて、それを我々の研究室がどうサポートするかが課題です。そこで我々では新しい名前CAPを考えました。これはComputer Aided Principleの略称です。設計原理をCAEによって支援していこうという考え方です。これが我々の研究室で非常に大きな、またこれから発展させていくべきテーマなのです。今迄のシミュレーション技術は、どちらかというとものをサポートしています。それに対してこれからは技術者をどうサポートし教育するかがもっと大きなキーワードになるのです。現在、このCAPと関連してICLという教育プログラムを作っています。ICLというのは、I:イノベーション、C:クリエーション、L:ラーニングです。

世の中の技術や情報の進化は、以前に比べて今では5倍から10倍の速さになっています。しかし、ずっと変わっていないのが人間の進化・成長です。例えば今の技術者と昔の技術者を比較してみますと、本当の一人前になるまでの時間の長さというのは変わっていません。そうすると技術がものすごく進化しているにもかかわらず、実は人間の能力の進化の速さが変わっていないとなると、矛盾を生じますよね。つまり技術をきちんと使いこなしているかどうかが、非常に大きな疑問です。ですから、人間にしかない創造性をさらに伸ばして技術の進化に負けないように努力する、そのために人間をどう支援していくか、それが一つの新しい研究分野です。実はここがICLのための部屋で、大きく曲面にしたホワイトボートがあるでしょう。アイデアを書き出すときに思考が途中でとまらないように、自分のまわりが全てホワイトボードで見えるようにしているんです。時にはワインを飲みながら議論をするんですよ。

具体的に取り組んでいる技術分野としては、半導体の鉛フリーはんだに関する研究です。大量生産で市場競争が激しく、ものづくりとしてどんどん軽量化、コンパクト化、複雑化してくという点で、自動車と同様な産業分野がどこにあるかというと、半導体つまり電機・コンピュータです。コンピュータなどはデスクトップからノートPCに変わり、その延長線上に、携帯電話やデジタル家電がありますね。そうやって技術の発展やニーズは非常にハードルが高くなり、難しさが増してきています。技術者達はシミュレーションを、どうしても使わなくてはいけない状況になります。電機電子業界もやはり関連する技術が非常に裾野の広いもので、きちんと産学連携で共同研究が出来ていけば効果が大きい分野です。その取り組みのひとつとして鉛フリーはんだを研究しているわけです。

その鉛フリーはんだに関する研究について詳しく教えていただけますか?

電機電子、半導体となると、基本となるのは電気的な性能ですが、その他は安く作らなければなりません。すると使える材料はプラスチックや安いはんだになります。でも実は色々な他の技術が先行し重視されるので、結果的にものが出来上がった時点で、いろんな問題の最後のシワ寄せが、結局材料の信頼性のところに来てしまうのです。ですので、我々の研究室では、シミュレーションと信頼性の両方について92年頃から研究をスタートしました。ちょうど日本機械学会でもこういう研究分科会がありまして、93年頃からそのまとめ役を同じ研究室の白鳥教授が主査で、私が幹事でしたので、そのまま継続的に研究してきました。当時は鉛フリーではなく、従来のものが小型化する上での信頼性問題だったのですが、製品の開発サイクルが短くなることによって信頼性評価の期間も持てなくなり、それで実験だけでなくシミュレーションが必要になったわけです。シミュレーションの問題がある程度一段落してくると、次は鉛フリー化の問題が出てきたわけです。

鉛フリーというものを簡単に紹介しますと、日本ではPCなどの生産サイクルが速くなって廃棄するものがどんどん増えてきたわけですが、PCは自動車と違ってリサイクルシステムが出来ていません。その廃棄の段階で中に含まれる鉛というのが問題になってくるのです。現在、ROHS指令によって産廃電気・電子機器に含有される特定有害物質の使用が2006年7月より制限されるようになっています。つまり鉛フリーは、環境的な配慮から使わざるを得なくなってきているのです。しかし鉛フリーではない従来のはんだには実は数千年の歴史があって、それだけ長く使われているということは、非常に優れた材料でもあるということです。使い勝手が良く、安くて品質もよく、信頼性もいいなど、様々な意味で良かったわけです。それを鉛フリー化ということで4〜5年で変えようとすると、想像できない様々な技術課題が出てきました。それらの課題について我々のチームが取り組んでいるというわけです。

従来のはんだは、とても柔らかくてじん性の高い、壊れにくい材料です。実は周りが樹脂で、樹脂はとても壊れやすい材料なのですが、それらをすべてはんだの柔らかさによって吸収できたわけです。そうすると周りにいろいろな潜在的な問題点があったにも拘らず、これまでは顕在化しなかったのです。それが鉛フリーになると、これまで考慮する必要のなかった破壊が問題となってきます。つまり破壊モードがはんだが変わることによって出やすくなるわけです。これが鉛フリーはんだになると話題がホットになる一つの大きな問題です。ここで、非線形の材料特性を如何に取るかも大きな問題となります。鉛フリーはんだの材料を使うようになると、新しい材料特性をたくさん取り直さなければなりません。その時間の節約にもシミュレーション技術が応用されるのです。

また最近では鉛フリーはんだの問題を解決すると同時に、デジタル家電も意識しなければなりません。ご存知のように、携帯電話も、デジタルカメラも、薄型テレビも、共通して製品を早く世の中に出していかないと利益が取れません。そこでますますシミュレーション技術が浸透していくわけです。そうするとセットメーカーが、全部自分のところで課題を解決できなくなりつつあって、部品メーカーや材料メーカーに対しても、調査を要求するようになります。そうするとやはりシミュレーションを問題解決だけでなく共通的な技術情報を提供するツールとしても使っていかなければなりません。各技術分野と各企業では異なるシミュレーションツールを使っているわけですが、ツールが違っても共通的な結果と同じ精度を出せるようにすることも重要ですよね。ですから、そのような研究も我々のところで行なっているのです。

では最後に今後のものづくりに対する期待について教えてくださいますか?

ものづくりにしても何にしても、日本のこれからの産業は安売りしてはいけないと思います。それが出来ないと今の経済規模や生活水準を維持するのは難しくなると思うんです。例えばフランスというのは非常に生活水準が高いんですが、あの国は基本的には農業国で、そこで生まれる製品、つまり付加価値の高い工業製品に農業的な発想が寄与しているんです。例えば東京のスーパーに行くとバターが並んでいますね。やはりフランス製のバターが一番高いわけです。そのバターは加熱しないで作っている生きたバターなんですね。フランスから船便で運んできている間も熟成しつつ、皆さんの手元に届いたあとでも、生きたまま熟成して味がどんどんどんどんまろやかになっている。ただのバターなんですよ。でもそういう風になっていると、普通のバターの2倍も3倍もお金を出して買う人がちゃんといるわけです。そういうものづくりが、これからの日本でどのくらいできるかというのが大事だと思います。そして付加価値の高いものづくりに対して支援する技術が、とても重要になってきますし、私たちはその技術を生み出すために今後も研究を続けたいと思いますね。

研究内容の詳細

横浜国立大学于強先生には、お忙しい中インタビューにご協力いただきまして誠にありがとうございました。この場をお借りして御礼申し上げます。

「CAEのあるものづくり2005,Vol.3」に掲載

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