解析事例
スイッチ用ゴム製ダイヤフラムのフィーリングカーブ予測解析
超弾性・粘弾性材料を使用した非線形座屈解析事例
こんな方におすすめ
- ゴム(超弾性・粘弾性材料)を使用した非線形座屈解析を行いたい方
- 大きく変形し、接触を伴う解析を行いたい方
スイッチを押したときの操作フィーリングを数値化して表す方法として、フィーリングカーブがあります。本稿ではゴム製ダイヤフラムを内蔵したスイッチを例に、Ansysで超弾性・粘弾性材料を使用した非線形座屈解析を実施してフィーリングカーブを予測する方法をご紹介します。
(動画1)ゴム製ダイヤフラム変形解析例(断面表示)
解析の目的・背景
典型的なフィーリングカーブを(図2)に示します。グラフよりヒステリシスを伴う座屈現象が発生していることがわかります。
スイッチを押し込むと点(T)で座屈し反力(荷重)が極大となります。この点(T)は各社により呼称が異なるようですが、作動力 2) ・押し力 3) ・ピーク反力 1) などと呼ばれているようです。さらに押し込むと点(B)にて反力が極小値をとります。フィーリングを表す指標であるクリック率は、この点(T)および点(B)の反力値を使用して(式1)にて求められます。
ダイヤフラムの設計においては、このフィーリングカーブやクリック率を予測して形状を作りこむ必要があります。しかし、ダイヤフラムは形状が複雑で座屈を伴う上に、ゴム製であるため超弾性・粘弾性などの材料非線形性をも有しており、形状だけから挙動を予測することが困難です。そこで、CAEによる非線形座屈解析が有効な手段となります。
解析手法
Ansysの座屈解析は大きく分けて「線形座屈解析(固有値座屈解析)」「非線形座屈解析」の2種類があります(図3)。線形座屈解析は理想化された弾性構造物の理論座屈荷重を予測します。計算は短時間で終わりますが、実際の構造物に存在する初期不整や非線形性は無視され、座屈後の挙動も解析できません。
フィーリングカーブのように座屈後の挙動が重要になる解析では、非線形座屈解析を利用します。非線形座屈解析では、荷重を徐々に大きくして構造が不安定になる荷重レベルを調べます。初期不整や非線形性(大変形・材料非線形など)を考慮できます。ただし解析の難易度が高くなるため、いくつか解析上のテクニックも必要となります。
解析モデルと解析条件
本解析で使用した解析モデルと条件は以下の通りです。解析で使用したテクニックもご紹介します。
解析モデル
ゴム製ダイヤフラムは軸対称形状のため、2次元軸対称でモデル化します。AnsysではY軸を回転軸とし、+X軸側にモデルを作成する規則となっていますのでご注意ください。
ダイヤフラムの上下には基板とキートップを配置し、それぞれとの間に摩擦接触(摩擦係数μ=1)を定義しています。
材料物性
ダイヤフラムはAnsysヘルプや文献 1) を参考に(図5)のような超弾性+粘弾性材料を設定しています。キートップはポリエチレン、基板は剛な状態を想定して構造用鋼の物性を割り当てています。
Mooney-Rivlin
ゴムの荷重-変位曲線は強い非線形性を示し、非圧縮性という特徴もあるため、CAEではひずみエネルギー密度関数によって応力とひずみを関係づけます。2パラメータMooney-Rivlinは代表的なひずみエネルギー密度関数の1つです。超弾性について詳しくは CAE用語辞典―超弾性 をご覧ください。
Pronyせん断緩和
文献 1)
によると「ゴム製ダイヤフラムの反力変位曲線の評価は準静的なゆっくりした押圧・除荷動作下で行われる」とあるため、応力緩和(一定のひずみをキープすると徐々に応力が緩和する現象)を表現できる粘弾性材料を使用する必要があります。
Prony級数はCAEで粘弾性挙動を表すための材料モデルの1つで、ある時間(緩和時間)において剛性がどの程度緩和するかを定義します。粘弾性について詳しくは CAE用語辞典―粘弾性 をご覧ください。
解析条件
境界条件は(図6)のように設定しました。
キートップは強制変位で移動させています。本解析は静的構造解析で実施していますが、粘弾性を考慮しているため時間が解析結果に影響を与えます。文献 1) によると「操作スピード:3.33×10-4m/s」とありますので、これに近い移動速度となるよう変位を設定しています(図7)。
2) スイッチのフィーリングを決めるもの , アルプスアルパイン株式会社
3) 制御機器 よくあるご質問 タクタイルスイッチ(ライトタッチスイッチ)の感触について教えてください , パナソニック株式会社
4)Ansys2020R1ヘルプ 理論リファレンス 15.5.座屈解析