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PCBパターン設計時の疑問を解消

サーマル接続はEMCの観点で考えると良い?悪い?

PCBパターン設計時の疑問を解消 :第2回

第2回 サーマル接続はEMCの観点で考えると良い?悪い?

第2回目は、「サーマル接続はEMCの観点で考えると良い?悪い?」というテーマです。
コンデンサなど、ノイズのバイパスを目的とする部品では、GNDとの接続が重要であることはよく知られています。これは、GNDとの接続が不十分だと部品本来のノイズ除去性能が発揮されにくくなるためです。
ここで、ふと疑問に思ったことはありませんか?

「サーマル接続はGNDとの接続を弱くしているのでは・・・?」

サーマル接続とは・・・

ベタパターンに部品のパッドを直接接続すると、はんだ付けの時に銅箔へ熱が逃げて温度が上がりにくくなり、はんだ不良の原因となります。そこで、パッドとベタパターンの間にクリアランス持たせ、「スポーク」と呼ばれる細いパターンで接続する方法を「サーマル接続」と呼びます。(Fig.1)

Fig.1 サーマル接続とダイレクト接続

しかし、EMCの観点では配線が細くなるほど寄生インダクタンスは増加し、ノイズ悪化の原因となります。
そのため、ノイズ対策部品をサーマル接続してしまうと接続部分でインピーダンスが上昇し、対策部品としての性能が落ちてしまうような気がします。

 

そこで今回は、ノイズ対策部品のサーマル接続の影響を3D電磁界シミュレータ「Ansys HFSS 3D Layout」を使用し、以下の2ステップで検証を行っていきたいと思います。

 

ステップ1: 簡易モデルを用いてサーマル接続のインピーダンスおよびノイズ伝搬への影響を検証
ステップ2: 基板モデルを用いてサーマル接続の放射ノイズへの影響を検証

使用モデルと解析条件 (ステップ1)

ステップ1として、まずはサーマル接続のインピーダンスおよびノイズ伝搬への影響を検証します。
検証に使用する簡易モデルをFig.2に示します。

Fig.2 インピーダンス検証用 簡易モデル

モデリングした簡易モデルに対し、コンデンサメーカー様のHPから入手したSパラメータデータをインポートし、基板パターンにCircuit Port を2つ設定しています。
モデリングが完了したら、サーマル接続モデルとダイレクト接続モデルの双方で周波数スイープ解析を実施し、インプットインピーダンス(Z11)によってインピーダンスへの影響、トランスファーインピーダンス(Z21)によってノイズ伝搬への影響を確認します。
なお、インプットインピーダンス(Z11)とトランスファーインピーダンス(Z21)に関しては、別のコラムで解説を実施していますので、気になる方はぜひチェックしてみてください。

解析結果 (ステップ1)

簡易モデルによる解析結果より、インピーダンスとノイズ伝搬への影響を確認していきます。
まずは、インピーダンスへの影響を確認します。サーマル接続モデルとダイレクト接続モデルにおけるインプットインピーダンス(Z11)特性をFig.3に示します。

Fig.3 インプットインピーダンス(Z11)特性

Fig.3より、約20MHzまでは特性に差異は見られませんが、20MHz~4GHzの間ではサーマル接続モデルにおいてインプットインピーダンス(Z11)が0.1Ω程度上昇することが確認できました。
このことから、わずかな差ではありますが、サーマル接続によってコンデンサのノイズ除去性能が低下することが確認できました。

つぎに、ノイズ伝搬への影響を確認します。サーマル接続モデルとダイレクト接続モデルにおけるトランスファーインピーダンス(Z21)特性をFig.4に示します。

Fig.4 トランスファーインピーダンス(Z21)特性

Fig.4より、インプットインピーダンス(Z11)と同様に約20MHzまでは特性に差異は見られませんが、20MHz~4GHzの間ではサーマル接続モデルにおいてトランスファーインピーダンス(Z21)が0.1Ω程度上昇することが確認できました。
このことから、わずかな差ではありますが、サーマル接続によってコンデンサのノイズ除去性能が低下し、ノイズが伝搬しやすくなってしまうことが確認できました。

使用モデルと解析条件 (ステップ2)

簡易モデルによる検証が終わったので、ステップ2に進みます。
ステップ2で使用するモデルは、本シリーズコラムの第1回でも使用したAnalog Devices社製の「LT8641」を使用したDCDCコンバータ基板です。(PCBレイアウトは少し変えています。)
回路図をFig.5、PCBレイアウトをFig.6に示します。

Fig.5 回路図

Fig.6 PCBレイアウト

上記基板をHFSS 3D Layoutにインポートし、コンデンサメーカー様のHPから入手したSパラメータデータをインポート、LT8641の電源入力ピンに1Vのノイズ源(30~1000MHz)を設定します。
基板モデルをFig.7に示します。

Fig.7 放射ノイズ検証用 基板モデル

モデリングが完了したら、サーマル接続モデルとダイレクト接続モデルの双方で解析を実施し、3m放射電界強度(30~1000MHz)を比較します。
なお、解析ソフトウェアの設定等は割愛させていただきます。

解析結果 (ステップ2)

基板モデルによる解析結果より、放射ノイズへの影響を確認していきます。
ノイズが伝搬しやすくなるのであれば放射ノイズも増えそうですが、簡易モデルではなく実際の基板モデルで検証した場合どうなるでしょうか?

サーマル接続モデルとダイレクト接続モデルにおける3m放射電界強度をFig.8に示します。

Fig. 8 3m放射電界強度

Fig.8より、ほぼすべての周波数帯域において、サーマル接続基板で放射ノイズが約1dB上昇することが確認できました。
このことから、サーマル接続は放射ノイズを増加させるリスクがあるということが確認できました。
予想通りではありますが、簡易モデルではなく実際の基板モデルで明確に差が出ると、すこしだけ説得力が増すように思えます。

ちなみに、「なんだ、たった1dBしか変わらないのか」と思った方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、今回はケーブルのない基板モデルで解析を実施していますが、ケーブルが接続されればノイズは放射されやすくなるので、コネクタ付近のコンデンサのサーマル接続の影響が大きくなり、差は大きくなる可能性があります。
さらに、今回はエミッションの検証を実施しましたが、ノイズの伝搬に影響があるということは当然イミュニティにも影響があります。実際、メーカー勤務時代には、サーマル接続をダイレクト接続にしただけで放射イミュニティ試験がNGからOKになったという事例もありました。

上記のように、サーマル接続をダイレクト接続にするだけで、部品を追加することなくエミッション、イミュニティ共にEMC試験NGのリスクを下げられるなら非常にお得だと思いませんか?

結論

サーマル接続に関して、今回の検証では以下の結論が得られました。

 

サーマル接続はEMCの観点から考えると 「悪い」 傾向がある

 

全ての基板で検証したわけではなく、今回の解析でも1dB程度の差しかなかったので ”傾向がある” という書き方をしましたが、逆に「良くなる」ケースは基本的にはないのではないかと考えます。
もし今回よりも大きな差がみられるケースや「良くなる」ケースがあれば、このシリーズコラムでご紹介させていただきたいと思います。

 

また、最後に一点だけ注意事項があります。
冒頭で述べたように、サーマル接続には「はんだ不良の防止」といった重要な目的があります。
せっかくEMC試験に合格しても量産時にはんだ不良で歩留まりが悪化してしまっては本末転倒なので、ダイレクト接続を試す際には必ず部品実装業者様に相談するようにしてください。

 

これからもPCBパターン設計時の疑問をシミュレーションによって解消していきたいと思いますので、もし興味があればチェックしてみてください。
また、「こんなときどうすればいいの?」といった疑問があれば、ぜひお気軽に以下のボタンからお問い合わせください。

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