CAEを学ぶ
流れを考慮した電子機器の熱応力解析フロー
Workbenchへの統合でより使いやすくなったAnsys Icepakについてご紹介いたします。
はじめに
電子機器の熱変形の問題を解決するために、従来では伝熱解析の結果を元に構造解析を行う方法がよく用いられてきました。しかし電子機器特有の問題として、
- 近接部品間の放射伝熱
- 配線パターンによる異方性熱伝導
- 電子部品間の複雑な対流熱伝達
などの影響が大きいため、熱流体解析の結果を元にした構造解析が求められています。また汎用熱流体解析ツールでは解析が困難な電気系CADとの連携が必要になる場合もあります(配線インポート、ジュール発熱等)。
本稿では、電子機器に特化した熱流体解析ツール Ansys Icepakを使用した、流体構造連成解析フローをご紹介いたします。
Ansys Icepakとは
Ansys Icepak は、電子機器に特化した熱流体解析ツールです。
流体解析ソルバーとして実績豊富な「Ansys Fluent」を採用しており、ICパッケージ、PCB(プリント配線板)、筐体など様々な問題について熱伝導、対流(熱伝達)、放射(輻射)を含めた解析が可能です。
筐体を含むシステムレベルまで解析が可能で、形状作成、メッシング、計算実行及び結果処理までの一連の操作を共通のGUIで実施することができます。
Workbenchへの統合
連成解析には統合環境であるAnsys Workbenchを使用します。2025R1よりWorkbench上での流体構造連成解析が可能になりました(図1)。

流体構造連成解析フロー
(1)CADデータのインポート
Icepakが標準対応しているジオメトリインポート機能に加えて、構造解析ではAnsys Discovery ModelingやCADインターフェース(オプション)を使用することで様々なCAD形状をインポートすることが可能になります。Ansys Discovery Modelingにより解析結果への影響が無視できる箇所を必要に応じて簡略化し、計算負荷を低減することができます。
また、Icepakのメッシングアルゴリズム(マルチレベルメッシュ:後述)により曲面や複雑な形状に対してメッシュを生成し、解析することが可能です。
(2)Icepakでの解析
電子機器に特化したIcepakならではの機能を使用して解析目的に応じた設定が可能です。主な機能として、PCB CADデータを用いたPCBのモデリング機能やパラメータによるファンやヒートシンクのモデリング機能、曲面や複雑形状に対して形状再現度が高いマルチレベルメッシュによるメッシュ生成機能などを搭載しているため、解析対象を効率的にモデリングし、解析を実行することが可能です。

(3)Ansys MechanicalへのIcepak温度データ転送
Icepakで計算したボリューム温度分布を構造解析に転送します。
プロジェクト概念図上で、マウス操作によりIcepakと構造解析をリンク付けるだけで容易に温度データ転送の設定が可能です。

(4)熱応力解析の実施
Icepakの温度分布は構造解析の温度荷重として自動的に追加されます。そのため、構造解析に必要な拘束条件、荷重条件を追加するだけで熱応力解析を実行することが可能です。

図4 変形量分布

図5 相当応力分布
解析精度を高めるためのIcepakの機能
電子機器部品の熱応力解析の解析精度を更に向上させるIcepakの新機能をご紹介致します。
マルチレベルメッシュ
Icepakでは直方体や円柱などの単純な形状や曲面、複雑形状に対して高品質なメッシュを作成することが可能です。
マルチレベルメッシュは、メッシュの最大サイズや最小ギャップサイズ、分割レベルなどを設定することでメッシュ生成を行います。図6はファンのモデルに対してメッシュ生成した例で、ファン形状に加えてオブジェクトとの境界付近でメッシュが細かくなっており、形状を再現したメッシュが確認できます。

配線パターンのジュール発熱
Ansys SIwaveを用いることで、解析したDC-IR Drop解析で算出した配線パターンのジュール発熱を考慮した熱解析が可能です。
図7はDC-IR Drop解析で解析したジュール発熱の分布を示したものです。Ansys IcepakではPCBのデータから配線形状をモデル化せずに等価熱伝導率分布算出し、PCBモデルを作成することが出来るため、メッシュ生成が容易です。またPCBモデルの作成と同時に発熱分布をマッピングすることが可能です。

エレクトロニクス製品との連成解析
Create Target Design機能によって、Ansys HFSS / Ansys Maxwell / Ansys Q3D Extractor からAnsys Icepakのデザインを作成することが可能です。これにより、モデル作成や発熱条件の設定、解析条件が自動で作成されるため、容易にエレクトロニクス製品との連成解析を実施いただけます。また、温度依存性を考慮した材料物性を定義することでエレクトロニクス製品と双方向連成解析も実施可能です。

図8 連成解析による温度分布

図9 双方向連成による温度分布
最後に
2025R1のバージョンよりAnsys IcepakがWorkbenchで使用可能となり、電子機器における流体の流れを考慮した流体構造連成解析がより容易に行えるようになりました。
また、メッシュ生成機能やエレクトロニクス製品と簡単に実施することが出来る連成解析、双方向連成解析により、従来の伝熱解析や汎用熱流体解析ツールでは再現が困難な電子機器特有の問題について、より詳細に解析できるようになりました。
さらに今回ご紹介した熱応力解析に対し、クリープや亀裂進展と解析機能を考慮させることで、さらに高度化させることも期待できます。
当社発行誌「CAEのあるものづくり」は、CAE技術者の方や、これから解析を行ないたい設計者の方を対象としたWEBマガジンです。年2回(春、秋)発行し、Ansysシリーズを始めとした各種CAE製品紹介はもちろん、お客様の解析事例紹介やインタビュー記事、解析のテクニックなど、スキル向上に役立つ情報をご提供しています。
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