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熱流体解析(ねつりゅうたいかいせき)

英訳:thermo-fluid analysis

熱流体解析とは

熱流体解析の概要

流体力学は、気体と液体(物質の三態のうち固体以外)、つまり一定の形状を保つことがなく流動性のある「流体(Fluid)」の現象に関する力学を扱います。そのうち、重工業、輸送機器、建設・土木など産業にかかわる流体現象の理解にフォーカスした研究分野を流体工学といいます。

また、CFDは「Computational Fluid Dynamic」の略称で、「数値流体力学」と訳されます。こちらはコンピュータを用いて流体力学の問題を解いていくことを指します。

産業(もしくは産業がかかわる研究)分野においては、熱がエネルギーと深く関わることから、熱にまつわる現象理解は非常に重要となります。このため、現在普及する流体解析ソフトウェアの多くが、熱の影響まで含めた流体にまつわる現象の問題を解く能力を有し、「熱流体解析ソフトウェア」「熱流体シミュレーションソフトウェア」と呼称されることが多くなっています。また「CFDソフトウェア」と呼称されていても、ここでいう熱流体解析ソフトウェアのことを示す場合がほとんどです。

熱流体解析ソフトウェアでは、液体や気体が流れる際の挙動や、熱伝達(固体から発する熱が流体へ移動して流れる様)についてモデル化(抽象化)して計算し、その結果を流線やコンター図などグラフィックスで可視化します。流体の現象は肉眼で見えないものであり、かつ工学の専門家以外には少々難解に感じる数式や、なじみのない単位で結果について説明されがちです。一方、グラフィックスの表現で比較的直感的に流体現象を理解してもらう手助けができる解析ソフトウェアは、工学の専門家や研究者以外にも恩恵があるツールであると言えます。

熱流体解析ソフトウェアは、建設・土木業界、重工業、航空機、自動車、家電業界での製品開発、フォーミュラ1などモータースポーツでの車両開発、スポーツ科学などさまざまな分野で活躍しています。

熱流体解析の対象と事例

例えば、電気を蓄える電池や電気が流れるもの(導体)には熱が発生します。半導体デバイスや電子基板の温度が高くなりすぎると、信頼性や耐久性を損なう恐れがあります。そこで、熱源から効率よく熱を逃がす手段を検討するため、熱流体解析を行います。そのほかにも自動車や工場などの排熱処理や熱交換器など、熱流体解析で対称となる熱は多岐にわたります。

流体

気体(空調、ガスなど)

建設物や室内の空調による室温制御など、気体の熱伝達が関係する解析が行えます。PCのCPUから発する熱を逃がす空冷ファンの効果についての検証といったこともできます。

液体(水、油など)

自動車やバイクのエンジンは駆動時に非常に高温になるため、放熱対策が必須です。主流の冷却法は水を使った水冷式であり、エンジンの熱を吸収するウォータジャケットや、吸収した熱を外へ逃がすラジエータなどを用います。エンジン車だけではなく、電気自動車においてもモーターやバッテリーの発熱が問題となることから、水冷システムを設置します。そのような状況で、限られたスペースの中で効率よく冷却させるための検証が可能です。

熱流体解析ソフトでのシミュレーション(CFD)

解析原理

流れについて抽象化する際、無限に小さい流体要素を「流体粒子」と呼びます。流体解析の計算では、ニュートンの運動方程式に従い、流体粒子1つ1つが集まることで大きな体積の流体が構成されていると捉えます。

流体粒子の運動を支配する方程式の記述法には、空間的に固定された座標(X,Y)を用いて流体の挙動を表現する「オイラー記述」と、流体粒子と共に動く座標系を用いる「ラグランジュ記述」があります。多くの熱流体解析ソフトウェアでは「オイラー記述」が用いられています。

流体計算では、まず「連続の式(Equation of continuity)」で流体における質量保存則(反応前の物質全体の質量は、反応後に生成した物質全体の質量と変わらない)を導きます。さらに非圧縮性流体(密度が変化しない流体)における運動量の保存を表した微分方程式のことを「非圧縮性の運動方程式」または「非圧縮性ナビエ–ストークス方程式(Navier–Stokes equations、NS方程式)」といいます。

これら連続の式と運動方程式を合わせて、「流体の支配方程式」または「基礎方程式」と呼びます。それを基本にして、表したい流体現象ごとに変数や方程式の数が増えていくことになります。例えば、密度が変化する流体(圧縮性流体)を扱う場合は、さらに変数や方程式が増えます。また流体と併せて温度の問題を解くためには、「エネルギー方程式」が加わります。

流体解析ソフトウェアの計算機(ソルバー)では、さまざまな微分方程式に基づくアルゴリズムを用いています。「物理モデル」というデータで、乱流や熱伝導、化学反応、多相流といった流体に関わるさまざまな現象をソルバーが理解できるように抽象化(方程式によるアルゴリズム化)して、ソフトウェアユーザーに提供しています。

①メッシュの作成

流体解析ソフトウェアでは、解析対象の物体形状や空間に対してメッシュ(格子、グリッド)を切ることで、コンピュータが微分方程式を使うために計算すべき形状や空間の情報を認識できるようにします。この処理を「離散化」といいます。基本的に、メッシュは細かくなればなるほど計算精度が高まる一方、計算負荷も重くなります。

メッシュの処理と併せて、流入条件、流出条件、開放条件、壁条件、対称境界条件など解析条件(境界条件)も設定します。

②メッシュごとの計算

メッシュを設定して離散化した後に、ソルバーがメッシュごとに微分方程式を使って計算します。

③可視化(流速分布、温度分布、濃度分布)

ソルバーが導き出した計算結果を、流速分布、温度分布、濃度分布を表すグラフィックスで表示します。可視化においては、3Dデータに合わせ、流線やコンター図が適用されます。

熱流体解析のメリット・デメリット

メリット

熱流体解析を用いることのメリットは、実験の代わりにコンピュータ上で検証ができることから、試作や実験費用の削減を期待できることです。ほかにも、問題の早期洗い出しが可能になるため、開発期間の短縮が望めます。また実験では到底扱えないほどのおびただしい数の変数を設定する、あるいは人の能力では膨大な時間がかかってしまうだろう計算を現実的な開発期間内でこなすなど、熱流体解析を使わなければ達成できない成果をもたらします。

デメリット

熱流体解析ソフトウェアは、複雑な現象を取り扱うほど、計算が難解になります。また研究や産業分野での実機や実物を用いた実験を置き換える場合では、リアルな再現が不可能である場合も少なからずあり得ます。そのため、解析対象によっては、実験ベースの検証の方が現実的である場合もあります。

熱流体解析ツールAnsys

Ansysの特徴

「Ansys CFD」は、Ansysの高度な各種CFDソリューションを1つに集約したバンドル製品です。「Ansys Fluent」や「Ansys CFX」といった流体解析に必須のソルバーをカバーした「Ansys CFD Premium」、さらに高度な解析が可能になるフルパッケージ版「Ansys CFD Enterprise」を備えています。

Ansys CFDにおける主要ソルバーの1つ、Ansys Fluentは、世界中の企業や研究機関で活用される、ベストセラーCFDソルバーです。乱流、熱伝導、反応、燃焼、空力、音響、回転機械、混相流といった多種多様な物理現象のモデル化が可能で、CFD解析の初心者からエキスパートまで幅広い要求に応える使いやすさと多機能性を備えています。

もう1つ、Ansys CFDにおける主要ソルバーであるAnsys CFXは、特にポンプやファン、圧縮機、タービンなどのエンジニアリング分野で絶大な信頼と実績を誇るソルバーです。また、マルチフィジックスの分野にも強みを発揮し、精度の高い解を迅速かつロバストに提供することができます。

さらにAnsys EnSightは、汎用ポスト処理のあらゆるシーンにおいて高次元の機能を提供するハイエンド・ポストプロセッサです。 解析結果の基本的な可視化から、表示品質、アニメーション機能、データの処理スケーラビリティ、統計処理、情報の共有化まで幅広い解析業務プロセスに対応します。

Ansys CFD では、上記のほかに、内燃機関設計ソフトウェア「Ansys Forte」、プラスチック押出シミュレーションソフトウェア「Ansys Polyflow」など、便利なソフトウェアの数々を備えています。

Ansysの熱流体解析例

(A)水冷ヒートシンクを用いた際の高発熱密度モジュールの冷却解析事例

車載用IGBTに代表される高発熱密度のモジュールのように、空冷では対応ができない部材には水冷の冷却方式が候補として挙げられます。Ansys Fluentで流体解析を行うことで、発熱部の温度予測が可能になります。 詳細はこちら>>

(B)日射による建物内への影響評価

Ansys Fluentでは、空調や日照条件などによる建築物や店舗内の気温について解析できます。例えば、窓から直射日光を受けている店舗内の温度を、店舗内に設置された空調設備や遮光ガラスによってどの程度低下させられるかなどを計算できます。さらにAnsys EnSightを使うと、ボリュームレンダリングによるグラフィックス表現や、粒子追跡、ウォークスルーの視点など高度な可視化を取り入れながら、空調機器から送り込まれる空気の動きや、室内の温度変化を確認できます。 詳細はこちら>>

(C)ポンプやブロアなど回転機器の流れ場

Ansys CFDの「複数参照座標系機能」を用いて、回転機器のインペラを含む回転領域をモデル化可能です。流体解析を用いることで、流れや圧力の偏向を確認でき、より効率の良いインペラ形状の設計、回転数の最適化が可能です。 詳細はこちら>>

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