解析事例
朝日インテック株式会社 様 : カテーテル治療用の製品開発でAnsysを活用
概要
今回は、カテーテルなどの医療機器分野や産業用分野のワイヤー製品で知られる朝日インテック株式会社様にご協力をいただきました。
10年前、同社内にシミュレーションのための小さなグループが設立され、当初は浅畑様と宮田様のお二人が、現在は流体を担当する社員が増え三人でカテーテルやガイドワイヤーの研究開発支援に取り組んでいます。当初は社内の反応も薄かったようですが、少しずつ依頼に対応することで社内での認知度が上がってきています。今では月に一度、開発部門内に解析事例を紹介し、シミュレーションの活用事例を周知することで、シミュレーションの活用が広がっています。
10年前にシミュレーションに取り組み始め、手探りで広げた業務
あらためて会社概要、取り扱っている製品、ご担当されている業務についてお聞かせください。
浅畑
弊社には様々な事業部がありますが、私たちはガイドワイヤーをはじめとするガイディングカテーテル、バルーンカテーテルといったカテーテル治療に使うデバイスの研究開発を行っています。もともとは、産業用のロープコイルからスタートした会社ですが、現在はメディカル関連がメインの事業となっています。
具体的にはどのような業務を担当されていますか。
宮田
私たちは直接には開発を行っておらず、開発支援グループという部署に所属しています。主にFEM(有限要素法)を用いたり、開発の支援を行ったりという部署になります。そのほかは研究開発内の様々な技術情報をデータベース化した検索システムの構築管理や社外の技術情報の調査・分析などです。
浅畑
私自身はFEM業務のほかにはCADや3Dの画像処理などを担当しています。かなり設計寄りの業務で、設計の支援という感じです。いまは実験などを直接担当することはほとんどありません。こんなことで困っているとか、これが分からないといった相談を受け、シミュレーションを通じた課題解決に取り組んでいます。
いつごろからシミュレーションの取り組みを始めましたか。
浅畑
2011年4月にAnsysを導入しました。シミュレーションを始めてから11周年になります。最初は2人でしたが、現在は流体を担当する社員が増え3人で取り組んでいます。当初はシミュレーションについての知識が乏しく全くの素人でしたが、手探りで少しずつ経験を積み、最近になって、やっと少しはさまざまな課題に対応できるようになったかなというところです。それだけに、御社の対面のサポートには大変助けられました。すごく感謝しています。
宮田
2年前から依頼の件数を増やそうということで、研究開発部門内で広報活動を始めました。
開発のメンバーがFEMについて知らない人が多かったので、これまでの解析事例をまとめた資料を作成し、月に1度配信しています。
発信の対象となる開発のメンバーは何人ぐらいいるのですか。どんなフィードバックがありましたか。
浅畑
200人程度を対象に発信をしています。
宮田
社内に対する意識付けを目指した活動でしたが、最近になって開発のメンバーからフィードバックも頂けるようになり、シミュレーションが使えるということが社内で伝わってきた感触があります。全体の傾向として、上長が過去にシミュレーションを依頼してくれたことがある部署の場合、その部署のメンバーからも依頼がくることが多いと思います。上長が「シミュレーションを使ってみたら」とアドバイスしてくれているのかもしれません。
しかし現実的な問題として、やはりモノをつくって実験をしたほうが早いというところもありますから、もう少しスピーディーにシミュレーションのアウトプットを出していきたいとは思っています。
シミュレーションで求められていること
業務では、実際にワイヤーを通すといったシミュレーションが多いのでしょうか。
浅畑
ワイヤーを通したいという要望が一番多いですね。導入時にも管路内にワイヤーを通すシミュレーションで数社にベンチマークを依頼し、費用や使い勝手を確認してAnsysに決めた経緯があります。次はこういう性能のガイドワイヤーを開発したいというときに、想定する性能を出すには、どのような構造にするのがいいか、部材や構造の組み合わせをどうするかといった点をシミュレーションで支援しています。
開発ではどのような課題がありますか。
浅畑
基本的には心臓の血管の治療が目的になりますので、まずは心臓の血管の病変までたどり着けるかどうかが大きな課題になります。病変にたどり着いた時に詰まっている血管の中にワイヤーを通して拡張させたいので、病変に差し込める性能も求められます。壊れないというのも重要な性能になります。
ドクターからこういうカテーテルやワイヤーがほしいという意見をいただき、こうした声を基に開発することが多いので、開発には具体的な目標が存在します。目標の実現のためにはどのような性能を満たせばよいかが難しいところですね。更に壊れないという事が大変重要です。やはり手術中に壊れてしまったり、切れてしまったりということが怖いですね。切れてしまったら、最悪の場合、体内で取れなくなってしまうということも起こりえます。利用可能な結果を得るにはなかなか実現には困難がありますが、破断のシミュレーションをしたいという声は多いですね。
ある程度剛性を持たせないと、押し込んでも進まないし、反対に、硬くしすぎると、血管に追従して動かないなど、非常に難しい設計である印象を受けます。
浅畑
実際には、ガイドワイヤーだけでなく他のデバイスと組み合わせ、押し込む性能が必要な時はサポートするデバイスの近くに寄せて使うなど、一つの手術で複数ガイドワイヤーを使う場合もあるそうです。開発の担当者は、実際に病院にうかがって手術の現場を見学させてもらうような活動もしているようです。開発するデバイスによって求められる性質も異なります。このため実験では、血管を模したルートを自社でつくって、そこにガイドワイヤーやカテーテルを通して性能を確認します。最終的には、シリコン製の血管モデルが市販されていますので、それを使って実験しています。実際の血管とは違いますが、それでもかなり実験としては有益です。実際には、健康状態によって血管が硬くなってしまったりすることがあるそうです。滑りやすさなども条件によって変化します。それだけに、血管を模してシミュレーションのモデルをつくるのは、かなり難しいものがあります。
それぞれのデバイスには標準の試験があり規格が決まっています。また、社内独自の試験もあり、それらの試験をあらかじめシミュレーションで検討することができれば開発促進に貢献できると考えています。
最適化、どう活用するかが課題
劣化疲労、あるいは寿命の予測といったシミュレーションも行っているのでしょうか。
浅畑
基本的には使い捨てなので、一度パッケージを開き、手術が終わったら廃棄されます。ただ、一度の手術であっても、塑性変形してしまうこともあるので塑性域を考慮した解析も求められます。
宮田
ガイドワイヤーやカテーテルを中心に扱っており、部材を変えたときにどのように剛性が変化するのか、トルクがどう変化するのかなどシミュレーションします。形状の変化を比較することも多いですね。求められる性能に近づけるには、どのスペックが妥当なのかをシミュレーションで出せるようになると非常にありがたいと思います。Ansysに最適化という機能がありますが、最適化をうまく適用できれば、私たちがイメージするシミュレーションに一歩近づくことができるのではないかと思います。
何をターゲットとして、例えば応力の数値をいくつ以下にして、重量を最小限にするとします。そうなると、形状で抜いていい場所、抜けない場所はここだという答えを出すことはできます。熟練の設計者と同じような形状が出力される場合もあれば、全く違うものが出てくることもあります。どれを選ぶのかを判断するのは、今のところ人手がかかる部分だと思っています。設計作業が煮詰まって、AIに任せてみて、出てきた結果を参考にしようといった使い方も可能だと思います。
宮田
最適化は今のところ使っていません。パラメータスタディを行って、自力で読み解くといった作業をしています。設計する上でCAEの結果だけで何かを決める事はありません。実験値と定量的に一致するような結果はなかなか出ませんが、定性的な比較をして開発の方向性を決めるといった活用方法になります。
カテーテルやガイドワイヤーの実験は、たとえば10回実験するとどのくらいばらつきがでるのでしょうか。
浅畑
実験の内容と目的にもよりますが、模擬的な血管にワイヤーを通すような実験は結果がばらつくこともあります。この場合、基本的にはシミュレーションと実験の結果も合いません。ですから、合わないという前提でシミュレーションを行います。そうなると本当に判断が難しいですね。
宮田
やはり構造が複雑で物性なども変わりますから、なかなかシミュレーションと実験結果がピタッとは合いません。方向性を決めたり、実験の回数を減らしたりといった補助的な用途でシミュレーションを活用しているというところでしょうか。
シミュレーション全般のスキルやナレッジを得たいときに、弊社のサポートや外部のセミナーなどをどのような形で活用されていますか。
宮田
導入した初期の頃は御社のセミナーにも参加させて頂きました。現在は御社のHPにあるCAEサポートセンターでQ&Aやセミナー資料を確認し知識を得ています。
実際の血管内の血液の流れについて、流体のシミュレーションを行っていますか。
浅畑
最終的にはやりたいとは思いますが、まだそこまでは行っていないですね。工程を専門としている部署から、製造時の機械の熱流体についての相談を受けたことがあります。製造工程における熱流体のシミュレーションができると助かるのですが、これまではなかなか対応することができませんでした。2年前から流体を担当する社員が参加して徐々に対応していっているところです。
現在、感じておられる課題があればお聞かせください。
宮田
破断のシミュレーション、複合体、複雑な構造の部材などのシミュレーションはやりたいですね。それから、ものを作って実験をする過程で、シミュレーションのスピードを上げたいというのは、最初から課題としてあります。計算時間が長い時もあるし、我々が条件を設定してもうまくいかないこともあります。これまで、やっとシミュレーション結果を出したのに、もう遅いねということになっていたこともありました。もっと早くシミュレーション結果を出せるようになれば、開発への貢献度が上がります。
弊社が特許を取得する際にシミュレーションの結果を使ったケースもありました。会社としては特許を積極的に申請する方針ですので、特許申請に繋がるようなシミュレーションにも取り組んでいきたいと考えています。
最後に、サイバネットやAnsysについて、期待することをお聞かせください。
浅畑
Mechanical APDLでしか使えない機能がもっとWorkbenchでも使えるようになると嬉しいです。また、質問したい内容が秘匿性の高いものが多いので御社のサポートセンターでは聞きづらく、相談前に自分達で諦めてしまう事もあるのでもう少し気軽に対面で質問できる場を頂けたら助かります。
宮田
御社のサポートのおかげでこれまで頑張ってくることができたと思っていますので、今後もサポート体制には期待しています。