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電磁界解析

5G時代に向けたミリ波アレイアンテナの設計効率化

公開日2021年5月

目次

  1. はじめに
  2. アレイアンテナに対する設計課題
  3. Ansys HFSSを使ったアレイアンテナの設計フローの概要
  4. 解析事例
    • 4.1 フェーズドアレイアンテナの原理
    • 4.2 ユニットセルおよびアレイ構造の解析
    • 4.3 給電回路設計
    • 4.4 アンテナ設置時の性能評価
    • 4.5 実環境を想定したシステム評価
    • 4.6 マルチフィジックス
  5. まとめ

1.はじめに

2020年に商用サービスが開始された第5世代の移動通信システムである5G [1] やBeyond 5Gとして登場することが予測されている6G [2] も含めて、通信技術は継続的に進化しています。また、近年の自動車業界において、最も期待されている技術として、先進運転支援システム(ADAS:Advanced Driver-Assistance Systems)が挙げられます。ADASでは、ドライバーの安全運転をサポートするために、様々なレーダーやセンサーが適用され、5Gなどの通信と融合することで、5G時代において主要な技術になることが想定されます。これらを支えるアンテナは重要なデバイスの一つですが、性能への要求は、今後益々高くなり、設計期間とコストは厳しくなることが予想されます。この課題に対するソリューションとして、シミュレーションの有効活用が挙げられます。設計段階で仮想的に製品の性能試験を実施することで、潜在的な課題を事前に洗い出し、設計期間の短縮やコスト削減に貢献します。本記事では、3次元フルウェーブ電磁界解析が可能なAnsys ® HFSS を使ったミリ波アレイアンテナの設計について解説します。Ansys HFSSは様々な解析エンジン(ソルバー)および各種機能をサポートしており、アンテナの構造、解析条件、シナリオ、評価項目に応じて、適切にソルバーを選択することで、高精度かつ効率よく解析できるのが特長です。また、Ansys ® Icepak ® を使うことで、同一プラットフォームでシームレスな連成解析を実現するマルチフィジックスにも対応できます。本記事では、5G基地局アンテナを対象に、Ansys HFSSおよびAnsys Icepakを使ったアンテナ素子設計からシステムレベル評価および熱連成解析の事例について紹介いたします。

2.アレイアンテナに対する設計課題

28GHz帯を用いる5G通信や77GHz帯のADAS用のレーダーでは、ミリ波帯が適用されており、アンテナから放射される電波の減衰が他の通信機器と比べて顕著となります。このため、多数のアンテナ素子を使ったアレイアンテナにより、ビーム利得を向上させ、電波減衰を補償します。加えて、設計対象はアンテナ素子レベルからシステム、熱分野まで広範囲にわたり、様々な要因がアレイアンテナの設計およびシミュレーション評価をより困難にさせています。

2.1 アンテナのモデリング

アンテナ形状は、アンテナ特性に影響を及ぼす設計パラメータであるため、アンテナのモデリングはシミュレーション評価前の重要な作業となります。アレイアンテナの適用により、アンテナ素子数の増加に加えて、実際の運用では、アンテナを外部環境から保護することを目的として、レドームやバンパーなどが設置されるため、アンテナ全体の構造も複雑化します。このため、アレイアンテナの設計および評価する際には、効率的なモデリングが必要になります。

2.2 電気サイズ

適用する周波数帯の波長(λ)に対する構造物の大きさの比を電気サイズと呼びます。アンテナ特性をシミュレーションで評価する場合、Ansys HFSSでは主に、有限要素法(FEM:Finite Element Method) [3] を用います。具体的に、解析空間をメッシュと呼ばれる微小空間に離散化(分割)し、各メッシュに対してマクスウェルの方程式を適用して計算します。メッシュの数が多くなるほど、計算時間が長くなり、計算に使われるコンピュータのメモリを多く消費します。このメッシュのサイズは電気サイズに大きく依存し、周波数が高いミリ波帯では、メッシュサイズも小さくなり、計算量が増大いたします。また、アンテナ素子数の増大も、計算量の増大に寄与するため、計算効率を高めるためにも、適切な解析ソルバーの選択が求められます。

2.3 電波伝搬環境

通信やレーダーが適用される環境は、建物や車の存在、都市部や郊外、人込みの多さなど様々なシナリオが想定されます。アンテナから放射される電磁波は、これらの影響を受けた状態で伝搬するため、周辺環境によってアンテナの受信電力や干渉電力も変わります。このため、実際の運用シナリオを想定した伝搬環境でのシステム評価が重要となります。

2.4 マルチフィジックス

電波減衰の他に、ミリ波帯を適用した場合の課題として、アンテナデバイスのRF(Radio Frequency)損失の増大が挙げられます。このRF損失は、主に導体や誘電体に起因するもので、最終的にデバイスから発せられる熱となります。アンテナデバイスは一般的に、波長オーダーのサイズで設計され、ミリ波帯が適用される無線機器では、非常に大きな熱が発生することになり、放熱対策が必要となります。このような課題に対して、電磁界解析と伝熱解析を相互に連成させるマルチフィジックスによる評価が必要不可欠となります。

3.Ansys HFSSを使ったアレイアンテナの設計フローの概要

図1 にAnsys HFSSにおける電磁界シミュレーションの適用範囲を示します。Ansys HFSSを使うことで、電子部品レベルから電波伝搬までを対象とした3次元フルウェーブ電磁界解析およびシステム評価が可能です。解析規模に応じて、ソルバーを変える、あるいはハイブリッドにソルバーを利用することで効率よく解析を実施できます。例えば、5G基地局アンテナの設計では、部品レベルから、製品実装レベル、屋内および屋外の電波伝搬環境を想定したシステム評価まで幅広い電磁界シミュレーションが必要になってきます。 図2 に、4章で解説する28GHz帯で運用される5G基地局アレイアンテナの設計フローを示します。


図1 Ansys HFSSにおける電磁界シミュレーションの適用範囲

図2 Ansys HFSSおよびAnsys Icepakを用いたアレイアンテナの設計フロー

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