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構造解析

有限要素法を用いた皮膚内に分布する触覚受容器の発達・機能の解析

自然科学研究機構 生理学研究所様、名古屋工業大学様

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CAEのあるものづくり |公開日:2020年01月

目次

  1. 背景
  2. マイスナー小体の発達解析
  3. マイスナー小体の空間分解の解析
  4. 皮下組織内の膠原繊維に注目したセンサ設計
  5. 考察

背景

ロボティクスの観点から人間の皮膚は非常に興味深い研究対象です。皮膚の構造は非常に複雑であるにもかかわらず、超効率的なセンサシステムを有しています。図1は指先の断面を示しています。人間の皮膚は主に表皮、真皮、皮下組織という3つの層から形成されています。そこにメルケル細胞、マイスナー小体、ルフィニー小体、パチニ小体という4つの触覚受容器が高密度に配置されています。例えば、皮膚の1mm2にはマイスナー小体が約24個、メルケル細胞が約1700個配置されています。幅広い範囲の刺激の周波数(1Hz ~ 300Hz)に応答でき [1] 、また指先なら、 2mmの小さい間隔も識別できます [2]
人間の皮膚構造の研究を通して得られた知識を活かせれば、センサ要素をより高密度に配置することや高感度をもたらすセンサカバーを設計できることなどが期待されます。
ただし、皮膚構造及び触覚受容器の発達・機能については不明点が多く残っています。例えば、触覚受容器の発達に関する力学要因や触覚受容器への機械刺激の伝達に関する皮膚構造の貢献です。これらの課題に対しては、顕微鏡で生体内を観察しただけでは解明は難しくなっています。ここで、シミュレーション技術、具体的には有限要素法の活用は非常に有効です。本報では有限要素法をどのように皮膚内の触覚受容器の発達・機能の研究に活用したのか、筆者らの研究事例から紹介します。

マイスナー小体の発達解析

真皮乳頭は皮膚の表皮と真皮間の領域にあり、特有な凹凸形状をしています(図1参照)。この領域には特定の低周波数に高感度なマイスナー小体という触覚受容器が配置されています。マイスナー小体は楕円の形状で、中身の神経軸索がらせん形状となっています。

マイスナー小体の発生段階の初期には、脊髄での後根神経関節の感覚神経から軸索が伸び、真皮乳頭に入り、その後らせん形状になります。前述したようにマイスナー小体は指先に高密度で配置されており、その配置の成り立ちメカニズムがわかれば、センサをより高密度に製造できるかもしれません。なお、ロボット研究者だけではなく、触覚研究者にとっても、マイスナー小体の形成要因は興味深い課題です。

筆者らは多光子顕微鏡を使って、マウスの指先でのマイスナー小体の発達を観察しました。その結果、マイスナー小体の発達途中で真皮の厚みが縮んでいることを発見しました [3] 。ここで、真皮が縮んでいることから応力を受けて、神経軸索が座屈し、らせん形状を形成するという仮説を立てました。筆者らは真皮乳頭の形状及び圧縮をある程度再現した環境を作成し、神経細胞を培養しました。その結果、仮説の妥当性を検証できました(図2参照)が、実験中に発生した応力の定量的解析が課題となりました。

図1 皮膚断面のイラスト図1 皮膚断面のイラスト
表皮、真皮、皮下組織という3つの層と
マイスナー小体、メルケル細胞、パチニ小体、ルフィ二小体という
4つの触覚受容器を示す

- 参考文献 -
[1]前野隆司,ヒト指腹部と触覚受容器の構造と機能,日本ロボット学会誌,vol. 18, no. 6, pp. 772-775, 2000.
[2]S. Weinstein, Intensive and extensive aspects of tactile sensitivity as a function of body part, sex andlaterality, Proc. 1st Int. Symp. on the Skin Senses, 1968.
[3]T. Q. Pham, T. Kawaue, T. Hoshi, Y. Tanaka, T. Miyata, A. Sano, Role of extrinsic mechanical force in thedevelopment of the RA-I tactile mechanoreceptor, Scientific Reports, vol.8, 11085, 2018.

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