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SMART手法による疲労亀裂進展解析
CAEのあるものづくり |公開日:2019年9月
目次
はじめに
疲労亀裂進展とは、繰り返し荷重により徐々に亀裂が進展する現象です。図1のように繰り返し荷重を受ける構造物の破壊事故の約8割は疲労が原因といわれております。
このような疲労による重大な事故を防ぎ、構造物の安全性を確保するために図2のようにこれまで様々な安全設計手法が考案されてきました。
図1 機械・構造物の破壊事例の様式別分類
図2 安全設計手法の代表例
以前の安全設計では構造物に欠陥や破損が存在しない状態を仮定し、使用期間内で故障させないという考え方に基づいていました。評価方法としては発生する応力と材料の疲労限度を比較することにより安全率を達成しているかで確認していました。
現在ではより高い安全性が求められるようになり、損傷許容設計という手法が考案されております。この手法は、欠陥や亀裂の存在を前提とし、さらにその検査・整備の計画にまで踏み込んだ設計手法です(図3)。
図3 損傷許容設計の概念図
このような損傷許容設計における解析としては初期の欠陥や亀裂を考慮可能な破壊解析および、定期検査の時期を推定するために、亀裂の進展量とそれに掛かる期間を予測できる解析が必要となります。Ansysでは近年、破壊力学をベースとした疲労亀裂進展解析機能の開発を強化しております。本稿では疲労亀裂進展解析機能の基礎および、R19よりWorkbench環境用に追加されたSMART亀裂進展解析機能について紹介いたします。
亀裂進展解析の基礎
亀裂進展解析は初期亀裂・欠陥の存在する構造物の強度評価方法である破壊解析をベースとし、破壊解析により得られた応力拡大係数とパリス則と呼ばれる疲労亀裂進展則により亀裂進展速度を算出しています。
本章ではベースとなる破壊力学、パリス則、その測定方法について説明します。
2.1 破壊力学
破壊力学とは欠陥もしくは亀裂を有する構造物の強度を評価する解析手法です。亀裂先端では特異性により理論上では応力が無限大になってしまい応力を用いた強度評価を行えません。代替として応力拡大係数やJ積分などの破壊力学パラメータを用いることで特異性を除外した強度評価を行えます(図4)。
図4 材料力学と破壊解析
2.2 パリス則
次に、疲労亀裂進展の評価において最も広く使われる疲労亀裂進展則であるパリス則について説明します。