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構造解析技術者のための複合材料入門(3)
複合材料の破損強度則

CAEのあるものづくり Vol.27|公開日:2017年12月
目次
- はじめに
- 複合材料の破損強度則
- 各種の破損強度則
- 最大応力説
- 最大ひずみ説
- 相互作用説
- Tsai-Hill則
- Hoffman則
- Tsai-Wu則
- Hashin則
- 破損強度則の積層板への適用
- おわりに
1. はじめに
前回までに解説した「一方向強化複合材料(一方向材)と積層板(積層材)の力学」は、複合材料の変形挙動に関する力学です。そして、どのような材料も力を加えて変形させていくと、ある値を超えると元に戻らなくなったり、壊れたりします。材料設計や構造設計をする場合には、この破損・破壊現象を定量的に予測しなくてはなりません。
しかしながら、複合材料は強度にも強い異方性を持つため、その破損・破壊を予測することは等方性材料のように簡単ではありません。等方性材料の場合は、最大引張強度、最大圧縮強度、最大せん断強度の決定により破壊の予測が可能ですが、強度に異方性がある複合材料では、これらの定数を当てはめるだけでは十分ではありません。複合材料の破壊を判定する際には、どのような負荷状態においてもすべての材料軸方向の応力成分を調べなくてはなりません。複合材料の組み合わせ応力下での材料の破損を規定する条件は破損強度則と呼ばれ、これまでに様々な理論が提案されています。
今回は、連続繊維によって強化された複合材料の破損・破壊を定量的に予測するための破損強度則について、その基本的な考え方を解説し、Ansys等のFEM解析時に設定しなくてはならない破壊パラメーターについても説明します。
2. 複合材料の破損強度則
料の強度を決定する際に一般に行われている考え方は、破損・破壊の起こる時間と破損・破壊の起こる位置における応力を求めることです。等方性材料の場合は、特定の方向性を持たず1つの強度定数(最大引張応力、最大圧縮応力、最大せん断応力)だけで、強度や破壊機構がわかります。一方、強度に異方性がある複合材料では、1つの強度定数だけでは複合材料の破壊を判定できません。

図1 一方向単層板の力の加わり方と強度
例えば、図1に示すように、連続繊維が一方向に配置された一方向単層板に異なった力が加わった場合を考えてみましょう。このような一方向単層板では、それぞれの荷重形態において、破損・強度が異なることが容易に想像できます。繊維方向に引張り荷重を与えた場合には高強度の繊維が荷重を受け持ち、他の方向の強度に比べて非常に大きな強度を示します。また、繊維方向の圧縮強度は、高剛性の繊維が弾性率の低い母材中で座屈する現象が発生し、一般に引張りの強度に比べて小さくなる傾向があります。そして、繊維と直角方向には、母材の樹脂が脆性材料ではないとしても、多数の繊維周辺に高い応力集中が発生する関係で、マクロ的な強度としては脆性的な破壊を示すという特性を有しています。したがって、F Tt に比べてF Tc の方が大きな値をとることが知られています。せん断強度F LT に関しては繊維に沿って樹脂がせん断変形しますので、引張り応力のときのような強い応力集中の影響を受けず、一般にかなり大きい非弾性変形をした後に破壊します。
このように、複数の荷重が組み合わさって作用した場合(組み合わせ応力下)の複合材料の破損を規定する条件は破損強度則と呼ばれ、これまでに様々な理論が提案されています。図2に、 米国の航空宇宙学会(AIAA)により実施された、破損強度則の使用状況に関する国際的なアンケートを示します 1) 。

図2 複合材料の破損強度則の使用状況 1)
このアンケートによれば、最もよく用いられている破損強度則は最大ひずみ説であり、それに次いで最大応力説、Tsai-Hill則となっています。
最大ひずみ説が最もよく用いられているのは、複合材料に応力が発生した際、その応力分布は界面で不連続であるのに対して、ひずみの場合は界面で連続的であるためと考えられます。このアンケートは非常に古いものですので、現状の使用状況とは異なると思われますが、最大ひずみ説、最大応力説、Tsai-Hill則等は、現在でも広く利用されており、Ansys等の汎用のFEMソフトに組み込まれています。
本稿では、直交異方性材料に適用される主要な破損強度則として、最大応力説、最大ひずみ説、そして相互作用説について解説します。
3. 各種の破損強度則
3.1 最大応力説
最大応力説は、材料主軸方向(1(L)、2(T))のいずれかの応力成分が、L方向とT方向それぞれに対する圧縮、引張、せん断のいずれかの破壊強度…
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