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誤差との上手なつきあい方(前編)
流体解析の計算誤差

CAEのあるものづくり Vol.27|公開日:2017年10月
目次
はじめに
現在,製品開発の現場において,CAEが使用されることは一般的になり,設計から試作,検証,量産まで様々な工程で解析の必要性が高まっています。しかしその中で,「CAEソフトの使い方はある程度習熟したが,実現象(実験)と解析結果に差がある」とお悩みの方は多いのではないでしょうか?本稿では,そうした「誤差」と上手につきあう方法について,具体例をもとに解説していきます。さらに解析を有効活用するための一助となれば幸いです。
解析での誤差
解析では実現象を空間的・時間的にすべて再現できるわけではなく,なんらかの仮定のもとに実現象の一部分を再現しているにすぎません。そのため,結果には必ず誤差(実現象との差)を含みます。この解析を行った際に生じる誤差は,解析工程順に以下の5つに分けることができます。
- モデル形状による誤差
- メッシュによる誤差
- モデル化による誤差
- 計算誤差
- 結果処理による誤差
実際に解析を行った際に生じる誤差はこれらが複合的に組み合わさっていますが,それぞれの誤差の原因を理解し,どの誤差が主要因になるかを見極めて対処することで,それらを小さくすることが可能です。
今回はその中から数値解析を行う上で避けることのできない計算誤差について,誤差が生じる理由とその対処法を解説していきます。
計算誤差とは
計算誤差には,例えば以下が挙げられます。
- A:丸め誤差,打ち切り誤差,情報落ち,けた落ち
- B:離散化による誤差
- C:反復計算による誤差
A:丸め誤差,打ち切り誤差,情報落ち,けた落ち
コンピュータを用いた数値計算を行う場合には様々な誤差が生じますが,有名なものに以下の4 つがあります。
- 丸め誤差
- 打ち切り誤差
- 情報落ち
- 桁落ち
1.の丸め誤差は数値の四捨五入,切り上げ,切り捨てなどの“丸め操作” を行った際に生じる誤差です(例えば,7.89 という数値が8として扱われてしまう)。
2.の打ち切り誤差は特定の桁でデータが打ち切られてしまうことで生じる誤差です。循環小数(ex.1 ÷ 3の結果)や無限小数(ex.√2)をコンピュータで取り扱おうとすると必然的に生じます。
3.の情報落ちは浮動小数点数の計算において生じる誤差で,絶対値の大きい数と小さい数の加減算を行った時に,絶対値の小さい数が無視されてしまうことです(例えば,1e+10 + 1の計算を行った場合,有効桁数が11桁であれば1.0000000000e+10 + 1.0000000000 = 1.0000000001e+10となるが, 有効桁数が10桁の場合は1.000000000e+10 +1.000000000 = 1.000000000e+10 となる)。
4.の桁落ちは浮動小数点数の計算において生じる誤差で,絶対値がほぼ等しい2つの数の減算によって生じます(例えば,1.2342244-1.2321122の計算を行った場合,解は0.0021122となる。この際に有効桁数を4桁とした場合,2.000e-3 となってしまうのが桁落ち。2.112.e-3 であれば桁落ちは生じていない)。
汎用ソフトを使用した数値計算では内部的に処理がされているために,これらの誤差を直接小さくすることは難しいことが考えられますが,倍精度ソルバーで計算を行うことで小さくすることが可能です。単精度ソルバーと倍精度ソルバーは取り扱う有効桁数が異なります。単精度では有効桁数は8桁,倍精度では16桁となります。
実際の解析では,混相流のような物性値のオーダーの差が大きい解析やスケールの小さな解析など,丸め誤差や桁落ちが起こりやすい解析では倍精度ソルバーでの計算が推奨されます。なお倍精度ソルバーは単精度ソルバーよりも消費メモリが大きくなる点には注意してください。
B:離散化による誤差
流体解析や構造解析で用いられる偏微分方程式は数学的に連続しているため,そのままではコンピュータで計算することができません。そのため,時間および空間を有限の微小区間に分割して,コンピュータが計算できるよう連立方程式(四則演算のみの式)に変換することを離散化といいます。
離散化手法には代表的なものとして有限差分法や有限要素法,有限体積法などがあります。流体解析では保存則を満たしやすい有限体積法を主に使用して,運動方程式であるナビエストークス方程式や,質量保存の式である連続の式などを…
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