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CAEを有効活用するための逆解析のススメ
日本テキサス・インスツルメンツ株式会社 雨海 正純
CAEのあるものづくり Vol.15|公開日:2011年10月
製造業の会社でCAEソフトの年額費用は無視できるレベルではない。その為、CAEソフト費用の投資に対する見返りが必要である。経営者はCAEを利用し開発の評価期間を短縮し、開発コストを低減化ができることで投資に対する見返りを求めている。しかし、CAEソフトから得られた解が現実とギャップがある場合、経営者から魅力を感じないものになってしまう。つまり、投資に対する見返りを果たせない事になってしまう。投資に対する見返りを果たすためには、
- CAEソフトからのモデルの解で現実の問題をある程度予測できる事。(モデル品質の向上)
- CAEソフトのモデル簡略化で計算時間を短縮させ、多くの評価マトリックスを短時間で解き、最適設計できる事。(モデル効率性の向上)
しかし、モデル品質の向上とモデル効率性の向上は相反する事になる。モデル品質の向上をするためには、構造モデルは複雑かつ大規模になり、材料モデルも時間依存や温度依存の複雑な非線形モデルが必要になる。CAEソフトで構造の最適設計する場合、評価マトリックスは何百または何千に上り、短時間で計算処理するのは多難な技になる。また、モデル品質の向上をするためには、時間依存および温度依存の材料物性を測定する必要がある。正確な材料物性を測定する場合、多くの時間が費やされ、人件費と装置導入費のコストが上がる。これらを解決する手段の一つに逆解析の手法がある。
図面の構造寸法および測定した材料物性をCAEソフトに入れて解を得る方法はボトム・アップ手法である。逆に、既に知っている事実から構造の寸法や材料物性を予測する方法はトップ・ダウン手法である。逆解析は、このトップ・ダウン手法にあたる。
初期値の材料物性を時間依存および温度依存を正確に測定し、図面の寸法を正確にCAEソフトに入れても、製造業の工程および品質テストの不具合や寿命を予測することは多難なことである。製造業の工程では加圧、荷重、熱工程がある。出来上がった製品は、それらの加圧、荷重、熱を経てくる。初期値の寸法、材料物性、材料強度は加圧、荷重、熱工程で変化する可能性がある。また、製造業の工程には必ず各工程にバラツキがあり、装置間のバラツキや工場間のバラツキもある。また、材料メーカーからの材料には、物性や寸法のバラツキがある。製造業の物作りは非常に複雑な物理現象が絡まっていて、初期値の材料物性・強度や寸法をCAEソフトに入れも、出来上がった製品の不具合や寿命を予測すると、ある程度のギャップが生じてしまう。このギャップを最小限にできない場合、現実の問題を予測できなく、経営者へ失望を与えてしまう。このギャップを最小限にするためにも、逆解析は有効な手段の一つである。
逆問題・解析の参考図書は幾多にある。ここでは簡単な説明をするが、幾つかの参考図書を紹介するので、詳しい理屈・理論はこれらを参考にお願いしたい。
- 久保司郎『逆問題』計算力学とCAEシリーズ 10、培風館
- 登坂宣好、大西和榮、山本昌宏『逆問題の数理と解法―偏微分方程式の逆解析』東京大学出版会
- 堤正義『逆問題の数学』共立出版
- W.メンケ著柳谷俊・塚田和彦訳『離散インバース理論』古今書院 1997年 ISBN
- など、
式(1)の加算問題で、順問題の場合、1+2の解は3、2+3の解は5である。逆問題では、既に解の結果が3、5である場合の加算の数値を予測する。3になる加算の数値は幾つかある。例えば0+3、1+2、2+1などである。また、5になる加算の数値は0+5、1+4、2+3、3+2などである。
式(2)のyがxの関数の場合、Explicitの場合、xはyの逆数なので、計算は単純で、解は一つしかない。Implicitの場合…