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数値材料試験による異方性非線形材料特性の算出(1)
数値材料試験用入力データの計測手順とデータ解析

CAEのあるものづくり Vol.10|公開日:2009年3月
目次
- はじめに
- 粘弾性材料定数の算出
- 複合材料の数値材料試験
- おわりに
はじめに
前号において、著者らは、Ansysに用意されているHillの異方性の塑性パラメーターを数値材料試験から同定する方法について解説しました。本号と次号では、数値材料試験から異方性の粘弾性パラメーターを算出し、異方性粘弾性材料のマクロな解析を行う手順について解説します。
異方性の粘弾性挙動は、高分子系複合材料等の振動減衰、応力緩和現象やクリープ現象でよく観察されます。しかしながら、異方性粘弾性材料の材料構成則が汎用の有限要素法プログラムに標準で具備されていないケースがほとんどであり、仮に利用できる場合であっても異方性の粘弾性パラメーターを同定するための実験・計測は困難であることから、異方性を考慮した解析が製品開発や設計に適用されるケースは稀でした。
そこで著者らは、Ansysの解析機能としては用意されていない異方性粘弾性材料の構成則を定式化し、ユーザーサブルーティンにより組み込むとともに、数値材料試験によりその材料パラメーターを同定し、マクロな異方性粘弾体の解析を実現させました。
まず本号では、数値材料試験におけるミクロ構造の解析に用いるプラスチック(樹脂)の材料試験データの計測手順とデータ解析について説明します。そして次号では、具体的な数値材料試験による異方性粘弾性材料パラメーターの同定方法と異方性粘弾性材料構成則について解説します。
粘弾性材料定数の算出
2.1 粘弾性材料の材料試験
粘弾性の測定法には大別して、次の3種類の方法があります。
- ひずみを与えて応力を測定する(応力緩和法)
- 応力を与えてひずみを測定する(クリープ法)
- ひずみ速度を与えて応力を測定する(定ひずみ試験)
さらに、これらは時間変化の仕方で、静的および動的粘弾性測定法に分けることができ、前者は比較的長時間側、後者は比較的短時間側の粘弾性の測定に適しています。そして、これらの各測定方法にはそれぞれ利点と欠点があります。取得データをどのような解析に適用するかを考えて測定方法を選ばなくてはなりません。例えば定ひずみ速度試験では、汎用の万能試験機で計測が可能であり、測定精度も高く、非線形挙動のデータ計測が可能です。しかし、その一方で温度依存の全データを計測するのに1~2週間の長時間が必要となります。(ただし、クリープ試験と比較するとはるかに短時間で測定が可能です。)
それに対して、非共振強制振動法による動的粘弾性試験では、微小ひずみ範囲内のデータに限定されますが、非常に短時間で簡便に粘弾性データの計測を行うことが可能です。本解説では、この動的粘弾性試験による粘弾性データの計測とそのデータ解析について説明します。
2.2 動的粘弾性試験
動的粘弾性試験は、試料にある量の正弦波振動となるひずみ(または応力)を加え、そのときの応答となる応力(またはひずみ)を、振動周波数の関数として測定する方法です。プラスチックの動的粘弾性試験方法は、JIS規格「プラスチックの非共振強制振動法による動的粘弾性の温度依存性に関する試験(JIS K 7198)」等で規定されていますので、それらの諸規格を参考にしてください。ここでは、FEM解析に用いるデータを取得するために必要な事柄について述べます。
一般的に、動的粘弾性特性を表す動的貯蔵弾性率E’、動的損失弾性率E”および損失正接tanδなどの粘弾性諸量は、温度、周波数の双方に依存しますので、次のどちらか(あるいは両方)のデータを計測します。
- 温度分散データ
横軸を温度軸として、縦軸に一定周波数における動的貯蔵弾性率E’、動的損失弾性率E”および損失正接tanδ等の温度依存性を示したデータ - 周波数分散データ
横軸を周波数軸として、縦軸に測定温度における動的貯蔵弾性率E’、動的損失弾性率E”および損失正接tanδ等の温度依存性を示したデータ
プラスチックの「ガラス転移点の決定」や「ポリマーブレンドにおける混合状態の解明」などでは、温度分散データを計測することケースが一般的です。しかしながら、FEM解析に用いるデータとしては、複数の温度水準ごとに周波数分散データを計測するほうが、次節で述べるマスター曲線やシフトファクターの温度依存性を調べるのに適しています。また、測定モードとしては、曲げ、引張り、せん断、圧縮の4つのモードがありますので、計測する試料の寸法等で使い分けが可能です…
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