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ハイエンド疲労解析ツール Ansys nCode DesignLife のご紹介

はじめに

製品が破壊する原因には様々なものがありますが、その半数以上が疲労によるものだと言われています。そのため事前に製品の耐久性を知り、耐久性を満たす設計、対策を施すことが重要だと言えます。そこで今回は、疲労解析の概要と2009年秋にリリースされた疲労解析ツールAnsys nCode DesignLifeについてご紹介します。

疲労解析とは

疲労とは、金属などの材料に破壊応力よりも低い応力を繰り返し加えると、材料に損傷が累積して材料の強度が低下し、破壊する現象を指します。
疲労解析には、応力寿命疲労、ひずみ寿命疲労、破壊力学があり、下記のように分類されます。


図1 疲労の分類

Ansys nCode DesignLifeがサポートする主な疲労解析

応力寿命疲労とひずみ寿命疲労

応力寿命疲労は弾性領域での疲労であり、応力とひずみは比例関係になるため、この解析には評価の容易な応力を使ったS-N(応力-繰り返し負荷数)曲線が使用されます。それに対して、塑性やクリープが破壊原因となるひずみ寿命疲労は、塑性変形が生じ、荷重の負荷と除荷が1対1ではなくなるため、塑性ひずみを使用したE-N(ひずみ-繰り返し負荷数)曲線が評価に使用されます。この2つの疲労ですが、き裂の生成過程の違いもあります。ひずみ寿命と異なり、応力寿命の場合、疲労寿命のほとんどはき裂の生成に費やされるため、表面状態が疲労寿命に大きく影響してきます。そのため、より正確な寿命を求めるためには、表面状態を考慮した解析が必要になります。

振動疲労

路面荷重や輸送中の荷重などの振動は路面状態や速度に応じて、周波数、振幅ともに複雑に変化します。このような周波数が複雑に変化するランダム荷重での疲労解析を行う場合、時系列データをPSD(パワースペクトル密度関数)に変換し、疲労評価を行うことができます。
Ansys nCode DesignLifeでは時系列データからPSDへの変換も含めて、振動疲労に関する評価が可能です。

図2 PSD変換

溶接疲労

機械の接合部分は疲労破壊しやすいため、その部分に特化した評価が開発されています。Ansys nCode DesignLifeではSN手法をベースとしたスポット溶接、シーム溶接に対応した手法を提供しています。

図3 スポット溶接の損傷度

熱疲労

熱疲労とは、電子機器の電源のON/OFFなどにより、温度が変動することで生じる応力の繰り返しによって材料が損傷する現象のことを言います。各温度変化の熱応力解析の結果を使用することで、熱疲労の評価を行うことができます。

繰り返し荷重

繰り返し応力と単調増加応力では、断面の結晶粒のすべりが異なり、破壊に至る過程が違います。そのため、繰り返し応力を受ける部材を降伏応力を基準として設計することは危険ということになります。実際、疲労破壊の原因の1つがこの繰り返し荷重であり、実際に繰り返される荷重は様々なものがあります。Ansys nCode DesignLifeでは、一定振幅荷重、時刻歴荷重、複数の荷重履歴を組み合わせたデューティーサイクルを扱うことが可能です。また、時刻歴荷重のような非一定の振幅データを扱う場合は、レインフローマトリクス法による変動応力波形の頻度分布を求めることが可能です。

図4 繰り返し荷重

平均応力と平均応力修正理論

疲労評価を行うためには、材料特性としてS-N曲線、E-N曲線が必要になりますが、これらのデータは通常、平均応力が0の状態の材料特性です。
平均応力(σm)とは、周期的に変化する応力を試験片に繰り返し負荷したときの1サイクル中における応力の最大値(σmax)と最小値(σmin)の平均値です。

しかし、実際に負荷される応力は平均応力が0とは限りません。一般的には、引張が平均応力として作用する場合は疲労寿命が短くなり、圧縮として作業する場合は長くなります。そのため、引張、圧縮が平均応力として作用している場合、それを補正しなければ正しい疲労寿命を求めることができません。この補正に使用されるのが平均応力修正理論であり、応力寿命疲労、ひずみ寿命疲労それぞれに適した理論があります。

  • 応力寿命疲労の平均応力修正理論
    Goodman, Gerberなど
  • ひずみ寿命疲労の平均修正理論
    Morrow, SWT(Smith Watson Topper)
図5 平均応力と応力振幅

参考文献

  • 材料工学入門 内田老鶴圃(1986)
  • 初心者のための疲労設計法 社団法人 日本材料学会
  • 金属の疲労強度 養賢堂(1987)
  • 金属疲労の力学と組織学 養賢堂(1984)
  • CAEのあるものづくりVol.1 2004

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詳しくは、WEBマガジン「CAEのあるものづくり」をご覧ください。

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