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破壊力学について(1)破壊力学の基本事項〜

東京理科大学 理工学部 機械工学科 岡田 裕 様

破壊力学と大事故の歴史

本稿では、著者が講習会や大学の学部4年生や大学院向けの講義などで破壊力学の紹介をするときの話の流れに従い、き裂の力学や破壊力学パラメータ、そしてその計算法、解析例などについてご紹介します。まず始めに、「破壊力学解析」について、き裂の応力特異性に関連することから述べていくことにします。

大変残念なことに、破壊力学は人命の損失に関わる重大事故がきっかけとなり発展してきた歴史があります。有名なところでは、1953年から1954年にかけて発生したイギリス製のジェット旅客機(コメット機)の墜落事故を挙げることができるでしょう。コメット機は1952年に世界で初めての商用ジェット旅客機として就航しました。今では当たり前ですが、高高度を飛行するために機体胴体が与圧される構造でした。そして、飛行中に突然墜落するという事故が連続して発生しました。

図1 航空機窓枠付近の応力集中と疲労き裂の発生と進展

調査の結果、事故は窓枠の角部(図1)に応力集中が発生し、疲労き裂の発生と進展、さらに最終的にき裂が一気に進展する不安定破壊が起きたことが明らかになりました。高高度を飛行するジェット旅客機はキャビン内の気圧をある程度以上に保つよう与圧されます。そのため、航空機胴体は大変大きな空気タンクと理解することができます。簡単に言うと薄板構造である航空機の外板に、図2のような引張応力が発生することになります。飛行一回あたり与圧1回なので、1回飛行する毎に1疲労サイクルが蓄積されていきます。また、コメット機の窓枠は現在よく見る航空機のものと比べると角部の曲率半径が小さく、より激しい応力集中が発生したと考えることができます。その結果、金属疲労によるき裂発生、疲労き裂進展、限界長さを超えたき裂が一気に進展して突然の構造破壊に至りました。詳しくは、 アメリカ連邦航空局(FAA, Federal AviationAdministration)のWWWページ[1] 等をご覧下さい。

図2 航空機の胴体構造に作用する応力

このような事例が発生すると、破壊力学や金属疲労の研究が急に注目されるようになります。もう少し新しいところでは、 1988年のアロハ航空機事故[2] がありました。こちらは、多数のリベット孔から疲労き裂が発生し、それらが一気に合体し、旅客機胴体上部が吹き飛んでしまった事故です。幸いなことに事故機は無事着陸することができましたが、客室乗務員1 名が機外に投げ出され行方不明になっています。その数年後には米国政府により ” Center of Excellence (COE) for Computational Modeling of Aircraft Structures”[3] が設置され、計算力学アプローチによる航空機の疲労問題、構造余寿命、載荷能力予測解析手法に関する研究が盛んに行われました。ちなみに筆者も一時期このCOEに所属し、き裂進展解析に携わっていました。

ある意味、不幸な歴史を持つ破壊力学ですが、その基礎的事項からご紹介していこうと思います。まず、なぜき裂の力学は特別なのかについて話題を展開していきます。

線形破壊力学の基礎(応力特異性について)

はじめは、大学学部レベルで勉強するような応力集中の問題です。図3に示すような遠方で引張応力σ o を受ける楕円孔の縁の点Aの応力をσ A 、楕円孔長軸の長さaと曲率半径ρを用いて次式で表すことができます(例えば、村上[4])。

曲率半径ρがゼロ、すなわちき裂になると応力が無限大になることがわかります。応力やひずみが無限大ですからそれらを使用した応力状態の評価を行うことはできません。弾性問題の場合、き裂先端の応力は、き裂からの距離をrとすれば、その二乗根( )に反比例することが知られています。そこで、図4に示すようにき裂前方、き裂先端から距離rの位置にある点の応力を次式で表すことにします。ここで、式中のK I は応力拡大係数と呼ばれます。

r → 0で応力は無限大σ y になるので、応力でき裂先端の応力状態を評価できないことがわかります。そこで、応力拡大係数K I により、すなわち の項の強さを表す数の大小により、き裂先端の応力場の特異性の強さを測ることにします。実際にはき裂先端で応力が無限大になることはありませんが、き裂先端のごく近傍の変形場が応力拡大係数K I の大小で支配されると仮定し、K I によって評価をします。

図3 遠方で引張を受ける楕円孔を有する無限平板の問題

すなわち、材料ごとに決まった限界値K I c があり、き裂が進展して構造破壊に至るという最も基本的な破壊力学評価を考えることができます。さて、なぜ応力が の特異性を持つのでしょうか?もう少し込み入った議論を展開することにします。

図4 き裂先端を原点とする直交座標系(x, y)と極座標径(r, θ)

き裂先端の応力特異性について

本稿では、なるべく破壊力学の本質に触れるため、少し数学的に込み入った話題も取り上げていきます(WilliamsのEigenfunction Expansion Method [5])。ここでは、なぜき裂先端で応力が の特異性を持つかについて取り上げてみたいと思います。二次元弾性問題を解くために…

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