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構造解析

振動解析のためのモデリングおよび解析テクニック 

振動解析のためのモデリングおよび解析テクニック の概要

1 はじめに

 動的問題は構造全体の動的挙動を捉える必要があり、静的問題と比べモデル化領域や解析コストが大きくなる傾向にあります。そのため、振動解析は解析の目的に合わせたモデル化がカギになります。

<解析の目的(振動解析 v.s. 静解析)>

■ 振動解析

  • 構造物全体の振動挙動(低次の振動モード)を評価
  • 共振周波数を把握、また共振時の変位/速度/加速度応答を評価
  • 振動騒音を評価、音響解析の振動源を算出
  • 地震における耐震設計は最大応答値を評価
  • 繰り返しり返し荷重による疲労破壊応力から破壊限度を見積

■ 静解析

  • 変形や応力分布から構造物の強度評価
  • 非線形性(材料や接触)を考慮し、局所的な変形挙動を評価

2 モデリング機能

 昨今、3次元CADの普及により詳細で大規模なFEMモデルを使用したシミュレーションが主流になっていますが、振動問題は局所的な応答が発生しにくく、また解析コストの削減という点からモデルの簡略化が図られます。具体的には、FEMモデルをバネ・マスに置き換える「集中系モデル」や自由度を抑えた「縮退モデル」が利用されます。
 Ansysの構造解析ツール「Ansys Workbench Mechanical」には、そうした動解析モデルを手軽に簡略化したり、精度よく解析するための機能が多数備わっています。本稿では最新バージョン16.0の新機能も交えてご紹介します。

2-1 質点

 [質点]はボディをモデル化せず、慣性効果だけを考慮する機能です。剛性が無視できるボディに対して利用すると大幅に自由度が削減できます。
 [質点]はインポートしたジオメトリに付加しますが、インポートしたジオメトリを[質点]に置き換えたい場合、剛体ボディの利用により自動的に質点化されます。剛体ボディは各ボディの詳細ビューから設定できます(図1)。

図1 剛体ボディの設定

2-2 バネ

 [バネ]はゴムマウント、軸受、地盤などのモデル化に利用します。[バネ]は復元力と減衰力を考慮し、特性として剛性係数および減衰係数を定義します。

図2 1自由度モデル

図3 バネの設定

 1つの[バネ]は複数方向のバネを同時に作成できません。そこで、並進と回転の6成分のバネを作成する場合、[ブッシング]の利用をお勧めします。[ブッシング]は図4の6×6のマトリクスで剛性および減衰特性が定義できます。任意の方向を剛結合したい場合、[一般ジョイント]と組み合わせて利用することも可能です。なお、[バネ][ブッシング]は非線形性を考慮できます。

図4 ブッシング設定

2-3 ジョイント

 [ジョイント]はボディ間の接合部のモデル化に利用し様々な動きが表現できます。ジョイントは定義した参照と可動位置からリモート点を作成し、2つのリモート点間にジョイント要素を作成します(図5)。

図5 ジョイントのモデル化

2-4 軸受

 [軸受]は回転機軸受のモデル化に利用します。軸受特性は回転軸に垂直な面内方向に2×2のマトリクスで剛性および減衰係数が定義でき、回転数依存の特性も考慮できます(図6)。

図6 軸受の設定

2-5 リモート点

 [リモート点]は様々な境界条件として利用されるだけなく、[質点][バネ][ジョイント]の集中系モデルとFEMモデルの連結に利用します。リモート点は以下のモデル、荷重、および境界条件で使用されています。
  • [リモート変位][リモート力][モーメント]
  • [質点][バネ][ジョイント][軸受][ビーム接続]
 リモート点は内部的に多点拘束(MPC)方程式を使用し並進と回転の6自由度を持ちます。また、リモート点を作成した面や辺の挙動は以下の3タイプが指定できます。

<挙動オプション>

■ 剛体

 ジオメトリは変形しません。このオプションは剛体面の作成に役立ちます。この定式化はCERIGコマンドに似ています。

■ 変形体

 ジオメトリは変形できます。力は各節点に分配されます。この定式化はRBE3コマンドに似ています。

■ カップリング

 リモート点と同じ自由度解を持ちます。このオプションはある領域が同じ自由度解を持たせたい場合に役立ちます。
 その他、[質点][バネ][ジョイント]はリモート点を使用せずダイレクトに節点や頂点に作成することも可能です(図8)。

図7 挙動オプション

図8 直接アタッチメント

3 解析テクニック

 振動解析の精度向上やコスト削減に役立つAnsys Workbench Mechanicalの解析機能をご紹介します。

3-1 線形摂動

 例えば、張力が働くギターの弦、高速回転するタービンブレード、摩擦滑りが発生しているアセンブリモデルなど、初期状態により振動特性が大きく変化することがあります。
 このような問題では線形摂動手法が有効であり、Ansys Workbench Mechanicalではモーダル、周波数応答、時刻歴応答解析で利用可能です。また、線形摂動は非線形性(大変形/材料非線形/接触非線形)を考慮した初期解析に対応するため、より正確な振動挙動がシミュレートできます。
 線形摂動モーダルは式(1)の固有値問題を解きます。

3-2 残差ベクトル法(剰余剛性法)

 周波数応答、時刻歴応答の解析手法の一つであるモード重ね合わせ法は、有限個の固有モードを足し合わせて応答を得ることができ、直接法と比べ計算が速いためよく利用されます。しかし、モード重ね合わせ法の解析精度は足し合わせるモードに依存し、高次モードを無視したことによる誤差(モードの打ち切り誤差)が発生します。この無視された高周波領域の影響を剰余剛性と呼びます。
 Ansys Workbench Mechanicalでは、除外した高周波領域のモードを1つの残差ベクトルとして近似し足し合わせることで誤差を補正する残差ベクトル法が利用できます。残差ベクトル法は[モーダル]システムとリンクした[周波数応答]や[時刻歴応答]をサポートします(図10)。

図10 残差ベクトル法の設定

 平板のインパルス加振応答において、残差ベクトルON/ OFFとモード数が異なるモード重ね合わせ法(Case1~ 3)と直接法(Case4)時刻歴応答解析で比較検証を行いました。
  • Case1: モード重ね合わせ法(1次モード+残差ベクトルOFF)
  • Case2: モード重ね合わせ法(10次モード+残差ベクトルOFF)
  • Case3: モード重ね合わせ法(1次モード+残差ベクトルOFF)
  • Case4: 直接法
 図11から残差ベクトルOFFの場合、10次までのモードを足し合わせても直接法と応答が異なることが確認できます。しかし、残差ベクトル法を使用したCase3は少ないモード数で直接法に近い結果が得られます。このように高次モードが無視できないような振動問題では残差ベクトル法により少ないモード数で解析精度が向上します。

図11 加振位置の変位応答

3-3 VT法(変分テクノロジ法)

 VT法は周波数スイープ機能を利用し周波数領域全体の応答を効率的に計算する手法です。周波数スイープは周波数範囲の(2 ~ 6の間の)複数の周波数の値を評価し、値の多項式近似を計算します。VT法は直接法周波数応答をサポートし、周波数依存性の剛性および減衰を考慮する場合に効果的です(図12)。

図12 VT法の設定

 複合材平板における周波数特性の評価において、直接法(FULL法)とVT法で比較検証を行いました。サンプルの複合材は剛性および減衰特性を持ちます。
 図13、図14からVT法は計算時間が早く、FULL法と同等の応答が得られていることが確認できます。このように直接法周波数応答解析においてVT法の使用により解析精度を落とすことなく解析コストを抑えることができます。

図13 加速度応答

図14 解析時間

3-4 強制運動法

 振動試験や地震波加振に代表されるベース加振シミュレーションは昔からラージマス法が使用されてきました。
 強制運動法はモーダル解析時にベース加振方向の疑似静的モードを計算しモード重ね合わせ法で考慮し、絶対量として応答を評価できます。また、強制運動法はラージマス法に比べ設定が容易となるため利用をお勧めします。
 本手法はモード重ね合わせ法の周波数応答と時刻歴応答をサポートし、応答解析で挿入した[加速度]の詳細ビューから設定できます(図15)。基部加振は先の[モーダル]システムで拘束した位置に定義できます。

図15 強制運動法の設定

4 最後に

 今回、Ansys Workbench Mechanicalにおける振動解析に役立つモデリング機能や解析機能をいくつかご紹介させて頂きました。近年Workbench環境における動解析機能は強化されておりますので様々な振動シミュレーションでご利用頂ければ幸いです。

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