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解析事例

構造解析

新電元工業株式会社様

新電元工業 株式会社様: EV化で重要性が増す高度なシミュレーション技術をマスターし、社内活用の輪を広げたい

車載製品の信頼性向上を目指し、Ansys製品のランダム振動解析で疲労寿命予測に挑む

概要

今回は、半導体技術・回路技術・実装技術を併せ持つ、世界でも有数のメーカー企業である新電元工業株式会社を訪問しました。

同社が主に製品を提供しているのは自動車業界のお客様であり、電動化(EV化)が加速する中、求められるシミュレーションの難易度も高まっているとのこと。ここでは、電装事業部においてCAEの活用を推進されているお二人に、両氏の抱える設計課題やシミュレーション推進の取り組みなどについてお話しいただきました。

今回お話をお伺いした方々(左から)


電装事業部 生産技術部 生産基礎技術課 田中 幹人 様
電装事業部 第二設計部 第一機構設計課 吉岡 拓也 様
(以下、お客様の敬称は省略させていただきます。)

パワー半導体からEV充電器まで幅広く提供

新電元工業(株)の事業内容について教えてください。

田中

当社は、半導体製品、電装製品、環境・エネルギー製品を取扱うメーカーです。われわれが所属する電装事業部では、二輪車向けにレギュレータ/レクチファイアやアイドリングストップ対応ECU(Electronic Control Unit)、PCU(パワーコントロールユニット)、そして四輪車向けのxEV用DC/DCコンバータやECUなどの開発・製造を手がけています。その他、汎用製品として、AC/ACインバータやDC/ACインバータなど発電機関連製品にも取り組んでいます。

当社の特色は、電源のコア技術をすべて持っていることで、ダイオードといったパワー半導体※1 や制御ICを自社内で開発することが可能です。製品サイズ・コストなどの制約がある条件下でも細かい仕様の調整がしやすく、性能を最大限発揮できるように製品開発が進められることが強みです。
自動車業界でEV化が加速する中、当社はパワー半導体からEV充電器まで幅広く製品を提供していくことで、カーボンニュートラルに貢献しています。

難易度の高いEV の設計課題とAnsys製品の活用

お二人の主要な業務内容とCAEの取り組みについて教えてください。

吉岡

私自身は、主に四輪車向けのDC/DCコンバータやECUの開発を担当しています。DC/DCコンバータは、バッテリーの電圧を適切なものに変換し、ECUやオーディオに電気を送り届けるために重要な仕組みです。
構造設計の段階で、主に応力解析を行う際にAnsys Mechanical(以下Mechanical)を活用しています。

田中

私の所属する生産技術部 生産基礎技術課は、製品設計の土台となる要素技術開発を担当しており、製品開発のスピードアップや設計品質向上がミッションです。具体的には、フロントローディング推進による開発業務効率アップを目指しています。

私自身は、主に構造設計部門と連携して行うシミュレーション精度検証や、それに付随した材料物性検証、材料信頼性検証を担当しています。
また、ランダム振動による寿命予測など、より高度なシミュレーション手法の確立にも取り組んでいます。この分野については、最近お客さまからのご要望が増えていることもあり、2021年より疲労解析ツール「Ansys nCode DesignLife(以下nCode)」を使い始めました。

DC/DCコンバータ(画像提供:新電元工業株式会社)

ECU(Electronic Control Unit)(画像提供:新電元工業株式会社)

エンジン車からEVへのシフトが進んでいる現在、設計業務での大きな変化などは感じていらっしゃいますか。

田中

EV化の影響だけとは言えませんが、近年はお客さまから仕様で求められる振動評価の周波数帯域が広くなったという実感はあります。従来の10倍程度まで広い周波数帯でのシミュレーションが求められるようになりました。それに伴って振動解析で確認すべきモード次数が著しく増加したり、高次の変形モードを表現できるようメッシュをさらに細分化することが必要になったり、高周波領域での実験とのコリレーション※2 に苦慮したりと、新たな難しさも出てきていると感じます。

Ansys製品は、皆様にとってどのような存在ですか。

吉岡

電装事業部では、20年以上Ansys製品を活用してきました。
当然ですが、コンバータの中身である基板や電子部品に何かあってはなりません。我々の設計が、お客様の仕様要求を満たしており、かつ妥当であることを客観的に立証することが重要となります。実験で得られた部材ごとの材料強度の裏付けとして、シミュレーションで理論的に得られた応力結果があれば有力な根拠となります。Ansys製品なしには成り立たない業務です。

現在、MechanicalやnCodeを用いて、どのような課題に取り組まれているのでしょうか。

吉岡

一例を挙げると、車両に搭載されるDC/DCコンバータやECUの筐体について、金属カバーや内部部品が走行中の振動で共振したときの影響や、樹脂封止されている電子部品の熱膨張・収縮による影響をシミュレーションしたりする目的でMechanicalを利用しています。特定周波数において共振による不快な音が発生したり、部材に過度な応力がかかると変形や破損に繋がったりするため、モーダル解析や周波数応答解析、熱応力解析を行っています。

田中

私自身の取り組みの一例としては、社内のシミュレーション精度向上に向けて、振動問題に対してMechanicalで作成した解析モデルと実験モーダル解析とのコリレーションや、nCodeによるランダム振動寿命予測のための解析技術構築が挙げられます。また、各種材料構成則の検証とデータ整備も行っており、例えば社内の評価設備を用いて超弾性ゴムの材料パラメータや疲労解析に必要なS-Nデータを取得したりしています。これらの成果は構造設計部門と共有し、製品開発への適用を推進しています。

このように社内や材料メーカーなどから収集した材料物性のデータは、生産基礎技術課で管理し、国内外の設計開発部署がAnsys製品でシミュレーションを行うときに活用できるようにしています。

Ansysを使ったECUのシミュレーション例(画像提供:新電元工業株式会社)

nCodeについて、率直なご意見をお聞かせください。

田中

お客さまに開発製品の設計妥当性を説明するためには、非常に複雑な計算が必要なため、nCodeのような専用ツールはぜひマスターしたいと考えています。現在、テストピースでの実験結果と、実際の製品を想定したシミュレーションの合わせ込みに取り組んでいるところですが、なかなか難易度が高く、基礎的な物理および工学の知識や経験則が必須だと感じています。そこで、当面は解析と実験のコリレーションを行って疲労寿命のデータ収集量を増やし、知見を深めていくことを目標としています。

また、現在は生産基礎技術課を中心に活用していますが、今後は製品開発へ展開していきたいと考えています。nCodeは、直感的で使いやすいAnsysと大きくGUIが異なり、オペレーションの難易度も高いので、どのように社内教育を進めていくか検討しているところです。
サイバネットさんのサポートサイトでもnCodeの情報は少ないので、強化してほしいところです。CAEユニバーシティでも、疲労・信頼性の講義があったらいいですね。

nCodeを使った疲労解析例(画像提供:新電元工業株式会社)

社内教育:実験とCAE の結果が一致する喜びをモチベーションに

CAEに関する技術者教育について、どのように 取り組みを行っているか教えてください。

田中

CAE利用に関する初歩的な教育に関しては、職場の解析委員会が中心となり、「材料」「疲労」「振動」の3テーマで教育しているところです。材料の応力解析では、結果を「ミーゼス応力で見るべきか、主応力で見るべきか」といった初歩から、理論にのっとって解説しています。材料疲労に関しては、社内にある実験設備の実際のデータを使ってレクチャーしています。
教材には、非線形CAE協会の勉強会で学んだ内容を基に作成した資料を使っています。また、成功事例を情報共有するために、社内の技術報告会にも参加しています。

吉岡

オペレーションの教育はOJTが中心です。各々でセミナーを受講して学んだり、サイバネットさんが長年刊行している『CAEのあるものづくり』の「解析講座」も参考にさせてもらったりしています。

新人の方への教育やCAEの社内普及について、課題はありますか?

田中

後継者の育成ですね。製品開発では学ぶ機会が少ないシミュレーションの基礎技術について教えることが難しいと感じます。業務内でも基礎技術を学べる仕組みを確立することが今の課題です。

課題は多くても、「実験とCAEの結果が一致した!」という瞬間はうれしいもので、スキルレベルアップのモチベーションになります。現在は、モーダル解析の学習で、実験をしながらCAEに取り組んでもらうことを実践しています。

吉岡

「CAEの結果は本当に使えるんだな」「本当にこの結果通りに動くんだな」という体験は、評判がいいですね。

今後の展望:朝霞の新社屋で、シミュレーション活用の輪をもっと広めたい

2年前に竣工した、新しい事業所について教えてください。

田中

当社は、2021年4月1日、設計の拠点としていた埼玉県飯能市の工場と、東京大手町にあった本社の2拠点を統合し、埼玉県朝霞市に朝霞事業所を開設しました。

吉岡

現在当社の従業員の約9割が在籍していて、他の半導体やEV充電器を開発している部署も同じフロアです。事業部間のコミュニケーションが活発になり、日々新しい発見や知見が得られています。

今後の抱負などを教えてください。

田中

他事業部とシミュレーションについて交流する機会が増えているので、われわれが取り組んできたCAEのノウハウの共有や教育の取り組みも、この環境でこれからますます生きてくると考えています。
解析精度の向上だけでなく、今後はさらにシミュレーションスピードを向上し、設計者が効率良くシミュレーションを活用出来るよう、AI技術を活用した新しい技術にも取り組んでいきたいです。ぜひサイバネットさんにも協力していただきたいと思っています。

朝霞事業所は、建物自体が省エネルギー性能の高い素材で建てられており、二酸化炭素(CO2)の自動制御システムなどの省エネ技術も導入している。写真は、アトリウム。

本日は、貴重なお話をありがとうございました。
新しい解析技術の構築や材料物性のデータの整理に取り組み、社内展開しているという田中さま・吉岡さま方のCAEの運用方法は、他の製造業の皆さまにとっても非常に参考になるのではないかと感じました。
朝霞事業所から数々のイノベーションが生まれるよう、サイバネットもこれまで以上に協力させていただきたいと考えています。

注釈

※1 パワー半導体:材料に半導体を用いたデバイスの中で、大きな電流や電力を扱うことを目的に作られたもの。おおむね定格電流が1A以上のものをパワー半導体と分類することが多い。
※2 コリレーション:実験結果と解析パラメータの相関分析および合わせ込み。

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