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解析事例

澁谷工業株式会社

「世界のトップを走るボトリング技術」を支えるAnsysのシミュレーション


左から西納様、中様

今回のインタビューでは、澁谷工業株式会社様にご協力いただきました。
1931年に清酒メーカー向けの燃焼装置や麻布などの製造販売会社として創業され、1955年からボトリング(液体充填)事業に着手された澁谷工業様。80年余もの間、新しいものに果敢にチャレンジする「シブヤ魂」で、世界のトップを走る技術を蓄積されてきました。
ボトリングシステムの世界的なトップメーカーとして知られており、国内シェアは60% 、なかでもペットボトル飲料の「無菌充填システム」は国内の90%以上という圧倒的なシェアを獲得されています。
さらに近年では、今まで培った技術を生かしレーザー加工機や半導体製造装置、医療機器など活動のフィールドを広げていらっしゃいます。特に「ロボット式細胞培養装置」をはじめとした再生医療分野への取り組みには、各方面から熱い視線が向けられています。
今回のインタビューでは、プラント生産統轄本部の中様、西納様にお話をお伺いしました。

今回お話いただいた方々
澁谷工業株式会社
プラント生産統轄本部 専務取締役 本部長 中 俊明 様
プラント生産統轄本部 副本部長/プラント技術本部 本部長/常務取締役 西納 幸伸 様

(以下、お客様の名前の敬称は省略させていただきます。)

高度な技術力で、ボトリング(液体充填)システムのトップを独走

御社の事業内容についてお聞かせください。

当グループの事業はボトリングシステムや包装設備、製薬設備、食品加工設備、プラントや病院設備のプラントエンジニアリング、再生医療からなる「パッケージング・プラント事業」と、切断・溶接加工技術、半導体/電池製造設備、医療機器からなる「メカトロシステム事業」そして「農業設備事業」や洗浄/環境設備システムなどの「エコ設備事業」が挙げられます。そのうち我々が携わっている「パッケージング・プラント事業」が全体の売り上げの6割を占めており、当社の基幹事業になっています。

ボトリングシステムとは、液体を容器に充填し、キャップで封をし、ラベルを貼って箱詰めするまでの一連の作業を自動化するシステム(機械)のことを指します。最近ではコストを抑えるために、ペットボトルを製造するブロー成形機をこのシステムの前に設置して、その場で容器を作製、液体を充填していく「インラインブロー」という手法も採用しています。澁谷工業のボトリングシステムは、容器の形状や液体の種類、生産能力に応じて各種の機械があり、清酒、洋酒、ビール、清涼飲料、調味料などの様々な業界に納入されています。

西納

ボトルの形状や種類も多種多様で、ペットボトルはもちろん、ガラス瓶や缶、シャンプーやリンスといったトイレタリー商品もあります。包装機の分野では、お菓子の袋や缶、カップ、パウチなどもあります。またボトリング技術を応用して、アンプルやバイアル、シリンジの注射剤、錠剤やカプセルの固形剤、点滴用パックの輸液剤などの充填・包装を行う医薬設備も製造しています。
そうした製品のオートメーションラインを、設計・製作してお客様の工場に納品するのが、我々パッケージング・プラント事業部門の仕事です。

ボトリングシステムの世界的なトップメーカーでいらっしゃいますが、他社との違いは何だと思われますか?

西納

やはり品質だと思います。日本の消費者の方は要求レベルが高く、衛生面はもちろん、キャップの開けやすさやラベルのずれ、容器の傷つき、充填量のわずかな違いも問題になります。我々のお客様である国内のメーカー様も、そのレベルで製造ラインを維持管理する必要があるため、システムに対する要求は厳しくなります。
当社は、お客様のご要望をすべて聞いてから生産するという「受注生産方式」をとっています。世界一品質に厳しい、日本のお客様に満足いただこうと努力を重ねるうちに、高度な技術が蓄積されたのだと思います。

再生医療分野の取り組みについてお聞かせください。

2012年秋に、京都大学山中教授がiPS細胞でノーベル賞を受賞されたり、昨年秋に再生医療新法及び改正薬事法が国会で可決されたことで、急に注目されるようになりましたね。
実は、当社ではずいぶん前から注目していた分野で、2008年5月には再生医療向けのロボット式細胞培養装置(Cell PRO)を開発しプレス発表をしています。その後も、ボトリングや製薬設備システムでつちかった「無菌操作技術」や「充填工程の自動化技術」、「アイソレータ技術」などを活かして、様々な製品を開発してきました。

通常、再生医療を行うときは、CPC(CellProcessing Center / 細胞培養センター)という徹底的に空調管理された専門施設が使われています。細胞調整室の前にはいくつもの清浄区域があり、担当者が調整室に入る時は、作業着( 無塵服)を着替えながら、それらの区域を通り抜けなくてはならないという大掛かりでコストもかかるものです。

一方、当社のロボット式細胞培養装置は、細胞の培地交換・継代作業・プラグ作成といった、一連の細胞培養工程を自動的に行うシステムです。普通のDクラスの管理区域の部屋にこのシステムを設置すれば、細胞の培養が可能になるという画期的なものです。そのほか、バイオ3Dプリンター(臨床用を含む)などの製造も行っています。

今年の6月には再生医療専用の工場が設立されたほか、山口大学をはじめ様々な研究機関との提携も進行中と聞いています。今後のご活躍を楽しみにしております。

Ansysのシミュレーションで「機械が進化しない」という壁を乗り越える

ところで、御社にとってシミュレーションとはどのような位置づけですか。

西納

澁谷工業のものづくりには欠かせない存在です。設計の早い段階からシミュレーションを活用しています。

特に近年、海外で市場展開をするようになって、シミュレーションはますます重要になってきました。先ほどお話ししたとおり、当社のシステムは品質が強みです。とはいえ中国や東南アジアではそこまでの高品質は求められない場合が多く、逆にコストの高さがネックになりがちです。
そこで性能面を維持しつつ、現地の市場価格に近づけるために、小型化や軽量化、部材の省略などを検討しなくてはなりません。
人間の頭では過去の経験や実績から逸脱するのはなかなか難しいので、Ansysのシミュレーションが大いに役立っています。

よくCD(Cost Down / コストダウン)と言いますが、当社はコストダウンではなくコスト破壊(Cost Destruction)なのです。部分的な変更だけでは、海外からの要求には対応できないので、ゼロから考え直す必要があります。

西納

経験上、「良し」とされてきたものを変えるのは難しいものです。もしシミュレーションがなかったら、設計変更の効果を手計算や実験で立証しなくてはならないでしょう。出来なければ、「良いところは変えるな」という結論に陥りがちですが、それでは発展が止まってしまいます。
Ansysのようなシミュレーションソフトがあるお陰で、我々は「機械が進化しない」という壁を突破できるのです。

線形構造解析から流体解析まで、幅広い用途でAnsysを活用

具体的にはどのような解析にお使いですか。事例をいくつかご紹介いただけますか。

西納

Ansysは線形・非線形構造解析から伝熱、磁場、流体まで、幅広く利用しています。
例えば、図1はバルブベースの熱応力解析です。表面層に90度の熱水を注いだ場合の熱変形と、自重によるたわみを合算しています。この変形が周辺の機械や部材と干渉したり、バランスを崩さないかどうかシミュレーションで検証しています。

当社の機械は、ホット充填といって上から熱いものを注いだり、熱水で洗浄することが頻繁にあります。そのため上部の熱変形が大きな問題になっています。

西納

当社の機械は2 〜 3メートルもある大型機械ですので、わずかな変形でも末端に行けばミリ単位の変形になってしまいます。サイズが大きく現象も複雑なため、これらの問題を手計算で評価するのは相当な労力がかかりますが、シミュレーションなら比較的短時間に、詳細な解を得られます。Ansysのシミュレーションのおかげで、設計の早い段階から問題を予測できるようになったため、開発期間の短縮にもつながりました。

また、機械の運転時の性能も重要ですが、製品の設置や輸送も無視できない問題です。図2はフィラ※1およびキャッパ※2フレームの強度解析です。メインフレームだけでも10メートルもある大型のもので、輸送時にクレーンで吊るとたわんでしまいます。そこで変形量を許容範囲内におさめるため、吊る位置や補強の場所などを色々と変更しながら、最適な条件を探していきました。

シミュレーションは、簡単に条件を変更して、再計算できるのが便利ですね。機械はいくつもの複雑な部品でできているため、たわみを手計算で求めるのは大変な作業です。以前、手計算でやっていたころは、実際につり上げてみたら予想以上に変形してしまい、現地で修正することもありました。
この他にも、ペットボトルへ充填していく効率を上げたり、液ロス(充填前に液体を流して状態を整えること)を減らすなど、お客様側の生産効率を上げるためにも、シミュレーションを活用しています。


図1 バルブベース強度解析


図2 フィラおよびキャッパフレームの強度解析

Ansysの導入経緯はどのようなものでしたか。

Ansysが導入されたのは今から20年以上前です。当時、ある展示会で充填機を出展したところ、機械が落下して破損してしまいました。保険には入っていたものの、僅か1mの高さから落下した程度で機械が運転しなくなった状況に保険会社から問合せが入り、回答書を作成することになりました。そのときは何とか手計算で資料を作成したのですが、非常に労力のかかる作業だったので、CAEの必要性を感じるようになりました。そこで、ある雑誌で知ったサイバネットのことを思い出し、訪問したのがAnsysとの出会いです。
当時はCAEのユーザーはほんの数名でしたが、2000 年以降にAnsysと3 次元CADとの連携が可能になってからは、CAEの利用者が急速に増加していきました。

新入社員全員がCAE研修を受講。設計者も日常的にAnsysを活用

御社のCAE教育についてお聞かせください。

西納

新入社員の研修プログラムにCAEを組み込んでいます。入社後の1年間は、様々な部署をまわるのですが、そのなかの一定期間が設計部門で、CADやCAEの教育を行います。さらに設計部門に配属になった部員には、より踏み込んだ形でCADとCAEを教えています。

新入社員全員に教育するようになってから、CAEが使える設計者は急増しました。

西納

現在では設計者も日常的に解析をしていますし、解析結果は会議資料としても活用しています。その中で、解析が得意な人を解析専任者にしました。彼らには社内の解析エキスパートとして、新入社員を教育したり、サイバネットのセミナーを受講したり、サポートの取りまとめを担当してもらっています。

実験と解析結果が合わないことにお悩みの方も多いようです。御社はいかがですか。

西納

長年CAEで製品設計をしてきたノウハウがあるので、ベテランの設計者なら解析結果が現実的かどうかの判断や、合わないときの対処方法は体得していると思います。

また当社では、実際に設置作業をしている製造部門と相談しながら、解析結果の許容範囲を定義しています。例えば、たわみはこの値以内におさえるとか、超える場合は補助部材をつけるとか。その範囲内で設計するようにしています。

経験を積んだエンジニアなら、危ないものは見たり触ったりすればわかるものです。シミュレーションが本当に生きてくるのは、そうした肌感覚を体得してからだと思います。そのためにも、若い人には経験を沢山積んで欲しいですね。

また、自分がどんな結果を期待しているのか、解析の目的は何か、意識して解析に取り組んでほしいと思います。何も意識しないまま、精度のよい結果を出そうとすると、やみくもに解析規模が大きくなるだけで無駄が多くなります。しかし目的が明確なら、必要な部分だけメッシュを細かく切れば十分ですし、知りたい事さえわかれば、無駄に精度を追求しなくてもよくなります。

今後はより高度な解析や、今までにない領域のシミュレーションを視野に

今後取り組まれたいことは何ですか?

西納

より高度な解析にも取り組みたいですね。構造分野ではゴムや大変形、座屈、折れ発生メカニズムなど、流体では配管の中や容器の流れといった密閉空間だけでなく自由表面などを検討中です。

今までとはまったく別の領域に取り組んでみたいですね。再生医療の分野では、細胞の培養を行っていますが、例えば細胞のメカニカルな物性評価に有限要素法が使えたら面白いかもしれません。再生医療の研究は、工学系の大学教授も多くいらっしゃいますので、可能性はあると思います。

御社は大学とも積極的に共同研究をなさっていますね。大学との人脈を作るために気をつけていることはありますか?

再生医療学会をはじめ、他にも興味のある学会には積極的に行くようにしています。またどんな研究であっても、その根底にあるものは人と人とのつながりですから、直接お会いして、じっくりお話することが大事ですね。そうした活動が現在に繋がっているのだと思います。

製品や当社へのご要望はありますか。

西納

FAQがさらに充実すると良いと思います。またAnsysは連成解析ができるのが良いですね。解析のファイルも1つで済むので、解析データの管理にも役立っているようです。

今年の夏に「Ansysものづくりフォーラム in 北陸」で講演しましたが、地元の企業が交流でき良いイベントだと思います。また開催してください。また、有料のトレーニングは、こちらから東京に行くのは大変なので、当社で開催してもらえると良いですね。自分たちの業務に直結したテーマに集中できるので、効率も良いと思います。

オンサイトトレーニングは、多数のお客様に活用いただいています。有限要素法の基礎理論から、解析のテクニックのような応用編まで、ご要望に応じてカスタマイズできますので、どうぞお気軽にご相談ください。

澁谷工業株式会社 中様、西納様には、お忙しいところインタビューにご協力いただきまして誠にありがとうございました。この場をお借りして御礼申し上げます。
[メカニカルCAE事業部 マーケティング部]

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