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解析事例

東京工業大学

超音波モーターや光ファイバーの研究におけるAnsysの活用について

今回のインタビューにご協力下さいましたのは、東京工業大学精密工学研究所の高橋 久徳様(文部科学技官)、James Friend様(文部科学教官・助手)、尹 鎬様(学振特別研究員)の皆様です。(写真左から、James Friend 様、高橋久徳様、尹 鎬様。)精密工学研究所は東京工業大学の附置研究所の一つで、精密工学に要求される精密と知能の融合を目指した知識集約的な基盤技術の研究を目的とされ、特にその位置づけから新領域の開拓を主眼とされています。皆様はその中で、極微デバイス部門の波動応用デバイス研究分野に所属され、超音波などの弾性波、および光波・光素子を利用することで、他の方法では実現し得ないセンサーや計測システム、アクチュエータの開発に関する研究を行われています。

(以後、東京工業大学の皆様の敬称は略させていただきます。)

最初に皆さんの研究内容をご紹介下さいますか。

高橋

私どもの研究室では、超音波モーターや光ファイバーの研究を行っています。騒音・振動系もありますが、ほとんどが超音波に関わる領域です。光ファイバーも超音波センサーが関わってきますから。

先生の研究室では何名ぐらいがAnsysを実際利用されているのでしょうか。

高橋

前年度の学生がいた頃には10名程利用者がいたのですが、現在はちょうど学生が入れ替わった時期ですから6人ほどです。今はちょうど講習会も開いていますので、これからまたもっと増えると思います。研究室全体のメンバーは、教授も含めて25名ぐらいですね。

Ansysを使われている方は比較的多いようですが、他の有限要素法などのソフトウェアはご利用になられていますか。

高橋

有限要素法ではありませんが、以前学生が制御系のソフトのMATLABやMapleを使っていました。ただ、ここは全体的にAnsysが多いですね。現在は、Ansys/University 5ライセンスとAnsys/Multiphysicsを1ライセンス使っています。

Ansys/MultiphysicsとAnsys/Universityの使い分けというのはどのようにされているのですか。やはり解析規模が大きなモデルにAnsys/Multiphysicsを適用しているのでしょうか。

高橋

静電場解析になりますと解析規模はやはり大きくなりますね。特に超音波浮揚というモノが浮く現象を解析する場合は、Ansys/Multiphysicsでないとできません。音響解析でも、やはり要素数が増えてしまいますので、そういう場合に適用しています。

両方とも空気層をメッシュする必要があるためですね。特に音響解析では要素サイズを波長の6分の1以下にする必要がありますから。では、Ansysの導入経緯についてお聞かせ下さい。

高橋

1998年にAnsys/Multiphysicsを導入したのが始めです。当時私が直接担当ではなかったのですが、聞くところによると、いろいろ導入を検討したソフトウェアがある中で、比較書を作成した場合に、Ansysの優れている点が他のソフトよりも多かったようです。操作性の良さや、使いたい機能が入っているかどうかとか、チェック項目を付けていくと、Ansysが自分達の解析したい内容に適していたわけです。価格も手頃だったというのもあるのですが、やはり一番機能が揃っていたということでしょう。

解析機能以外の特徴も含めてどこが良いという風にお感じになられましたか?

James

PCで使えることが一番ですね。UNIXは処理が早いですが学生が使うとなるとPCが良いですね。コマンドやメニューもわかりやすくなっていますから。私はこちらに来る前からAnsysを使っていましたので10年程前からのユーザーです。最近では、使い勝手もだんだん良くなって来ていますね。今のものにも慣れました。

Ansysはメニューで使われていますか。またはコマンド入力されていますか。

James

コマンドでも使いますし、APDLも利用しています。それから、マクロファイルをExcelで作ったりということも行っています。

私も、今マクロを作ってAnsysを使っています。コマンドを覚えるのが難しいので、マクロを作ってバッチ処理で流すと便利ですね。

ところでJamesさんはアメリカから、尹さんは韓国からいらっしゃっているわけですが、メニューは英語で使っていらっしゃるのですか。

高橋

全て英語です。日本語環境は1つもないのです。使い慣れてしまうと、日本語だと逆に使いづらいですね。学生も英語で使っていますが、エラーメッセージが出てくると良く解らないみたいですね。

James

日本語のマニュアルだと、時々細かい説明がないですよね。解説などのマニュアルは英語の方がいいですね。

エラーメッセージの説明がない時があって、それが困る時があります。時間をかけて解析をしても、最後にエラーが出てしまうとそれがどこから出てきたものかが分からないということがありまして。

Ansysのエラーメッセージの内容は具体的にはなっているのですが、中には抽象的なものもありますね。有限要素法の理論を前提に書いてあるので、どういうエラーなのか解りにくいものもあるかもしれません。そういった場合は、サポート窓口で回答するようにいたします。では、実際に解析をされている事例があればご紹介いただけますか。

James

これはAnsys5.7を使用したものです。これは周りがチタンで、真ん中が圧電セラミックになっています。電位差をかけて駆動するようになっており、これ自体がモーターになっています。
Ansysではモーダル解析を行い、アクチュエータを設計通りに駆動させるためのモードを検証しました。境界条件は図1の左側“Base”を固定しています。このアクチュエータの寸法は、長さ35mm、厚さ5mm、高さ25mmです。


図1. チューニングフォーク線形アクチュエータの設計モデル

図2. アクチュエータの動きを摸式したもの。
2つのモードを組み合わせた動きになる。

図3. Ansysでのメッシュ図 青がPZT、赤がチタン。

図4. モーダル解析の結果で、アクチュエータを設計通りに
駆動させるのに必要な2つのモード。

James

もう一つは、小型線形アクチュエータ(MLA)です。このアクチュエータは、図6の下部の赤いスライダーで押されています。このアクチュエータは厚さ1mm、高さ6mm、幅2.5mmです。境界条件は、アクチュエータ上面とスライダーを固定しています。このモデルの結果は、アクチュエータの最大の滑り力を求める材料となります。


図5. 小型線形アクチュエータの動き

図6. Ansysでのメッシュ図 青がPZT、赤がチタン。

図7. 駆動周波数88kHzでのモード形状

別の事例では、3次元のリニアモータがありますね。ボーリングの動きが違うものが2つあって、1つは固有振動で、もう1つがたわみ振動です。それを合成してレールに当たっている点を押し付けるようにすると、スライドして動くという解析です。これは、モーダル解析を行った後、次に圧電解析を行って2つのモードを同じ周波数でクロスさせています。同じ周波数ですので、2つの振動の共振周波数を合わせないとうまくできないわけです。これが振動子であれば500Hz以内に収めないといけないのです。


4方向から見たILAの駆動モード形状

そういう場合、形状を変えるのでしょうか。

はい、形状ですね。2つの振動を合わせるときに、真ん中にボルトとフランジがありますが、フランジのある部分を1体構造で作って削っていくと、共振周波数が合います。2つのモードを使って、同時に圧電解析をやっていますが、双方に位相をはって電圧を引荷したときに、Ansysで実際にリアルに動くのが見られたらいいのですが。それから、我々の研究室ではアクチュエータの解析が多いのですが、それと先程の解析を交えて浮揚を解析しています。その場合は、空気まで考慮して解析しています。

ところでマクロを作られているというお話でしたが、どういうところに使われていますか。

全部に使っています。モデルから全てです。位相を変えたりする部分にはAPDLも使っています。

Ansysの最適化ツールを使用すれば、自動的に寸法を変更したモデルをいくつも作成して繰り返し計算させることができます。そして、最終的に目的となる2つのモードの周波数差が一番小さくなる寸法を探し出してくれます。寸法を自分で変更することなく最適な値を求めてくれますので、解析は非常に楽になります。さて、皆さんが使われているのは研究の領域だということですが、学生さんはどのような利用をされているのでしょうか。

高橋

学部の4年生から使うようになります。アクチュエータ系に関わる人は全てですね。自分に与えられたテーマに関する研究のためにAnsysを使っています。

それは、教育方針としてなるべく有限要素法のソフトも使って検証しましょうということなのでしょうか。

高橋

そうですね。我々の研究室では理論だけではなく、解析と実際に計測した結果がどうかを合わせて評価しようという方針です。

学生さんからの評判はいかがですか。おそらくAnsysのようなソフトを使うのは皆さん初めてだと思うのですが。

高橋

英語で使っていることもあって、最初は大変ですね。でも好きな学生さんはすぐに覚えて、マクロを組んだりしてますからね。

Ansysを使うと目で見て確認ができますよね。超音波振動というのは、本来は目で確認できませんから振動しているかどうか解らないのです。一応レーザーを使って振動を測定していはいるのですが、振動しているのも触わらないとわかりません。Ansysのようなソフト上では拡大して簡単に見ることができますから、そういう点で楽ですね。それに、どういう動きをするかを始めの設計の段階で予想はしますが、実際にこれですよというようなものが見せられますよね。自分で解析してみて予測がつけやすいのです。

こういうソフトを使うと理解が増すということと、研究に対する意欲も湧きやすいということでしょうか。

そうですね。でも逆に言うと解析ばかりになって、実験をやらなくなってしまうこともしばしばです。

実験と解析は常にセットになると思いますけど、その整合性はどのようにアドバイスされていますか。精度を上げていく問題については。

完全に100%合うというはありえないですが、傾向はつかめますよね。例えば、こうしたらどうなるかというのを、最初から実験していくのは難しいです。実際、振動子を作らないといけないのですが、それを先にAnsys上で作ってどうすれば良くなるかを比較して、その後実際に作るのです。傾向を見るということでは解析はいいですね。

では今後の期待として、例えばAnsysに今後追加してほしい機能や、解析ソフトウェア全般に対してCAEがどういう方向に進んでいって欲しいというようなご意見があればお聞かせいただけますか。

James

まずAnsysで一番問題なのは、ソリッドモデリングでエリアナンバリングが変わってしまうことですね。

確かにバージョン間でナンバリングが異なるという問題は以前からあるのですが、各エンティティを座標値で選択することで回避していただくしかないのが現状です。

James

それから学生向けに入門セミナーの本があればいいと思います。

オンラインヘルプの中にチュートリアルがあり日本語で翻訳されてますので、学生さんにもわかりやすいと思います。それから、サイバネットのAnsysホームページで、ユーザー専用サイトというのがあるのですが、その中にダウンロードできる情報や、チュートリアル用の自動デモも入っていますので、ぜひ使ってみて下さい。自動デモはViewletというソフトを使っているのですが、カーソルが動いてどこをクリックしてどこを操作するというコメントも一緒に見れますので、学生さんや初心者の方には便利だと思います。では最後に、サイバネットに対して、今後のご要望がありましたらお聞かせください。

高橋

本当は、精密工学研究所全体で使える環境になればいいのですが、今は使う研究室が限られています。どこかに解析計算室のような集中管理する部屋を作ってみんなの研究室から使えるようになればいいのですが。

そうですね。ただ、集中的に管理すると今度は使いたい時に使えない場合があって、結局手元に欲しいということもあるみたいですね。そういう利用環境も最適なものにできるようお手伝いしたいと思っています。

James

学生が研究室でAnsysを使っていますから、企業に入ってからも使えればいいですよね。こういうソフトが誰でも使えるものになればいいと思います。

今後AnsysのようなCAEをもっと多くの学校や企業で使っていただけるように、教育方法や運用方法などについて情報交換をする機会を設けたり、ユーザー様同士や、ベンダーである私どもともっと気軽に交流が持てるような環境にしていきたいと考えております。また皆さんのように教育現場でAnsysが利用されていることは、将来企業においてのCAE利用の活性化に繋がると思いますので、非常に期待しております。

東京工業大学の皆様には、お忙しい中インタビューの時間を作っていただき、誠にありがとうございました。この場をお借りし御礼申し上げます。

「Ansys Product News2002 Summer」に掲載

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