CYBERNET

解析事例

株式会社NEC情報システムズ

ICパッケージ関係の解析でのAnsysの活用

今回インタビューをさせていただいたのは、株式会社NEC情報システムズの星野隆道課長・大川清一郎氏・岸野敬子氏・須藤之喜氏です。

NEC情報システムズ様は、NECの研究所および開発部門に対するシステム(ソフトウェア)開発、ネットワーク・情報システムの構築/運用、業務用基幹システムの開発/保守/運用を担当しています。約1000名ほどの規模の会社ですが、今回インタビューをさせていただいたグループは、科学技術系の部門で、NECのHPC(ハイ・パフォーマンス・コンピューティング)事業支援、NEC R&Dグループ材料デバイス部門対応のコンピュータシミュレーション開発支援や汎用ソフトウェアを使用した解析受託を担当されています。当初はNEC内向けに設立されましたが、最近は外部への営業活動も活発化しているようです。

NEC情報システムズ様は既に14,15年前からAnsysを使用されている、かなりのベテランユーザーで、Ansysを利用しICパッケージの解析を容易に行うシステム”SPATFEM”をNECと共同で開発され、日本のAnsysコンファレンスでも発表していただいています。

星野隆道 課長星野隆道 課長
大川清一郎 氏大川清一郎 氏
岸野敬子 氏岸野敬子 氏
須藤之喜 氏須藤之喜 氏

(以後、株式会社NEC情報システムズの方々の敬称は略させていただきます。)

星野さんたちは科学技術システム事業部に属されていますが、仕事の内容というのはどのようなものになるのでしょうか?

星野

事業部の人数は60名程です。スーパーコンピュータ向けプログラムのベクトル化/並列化、材料デバイス部門対応のコンピュータシミュレーションソフトの開発支援、Ansysなどの市販プログラムを使用した解析受託等を担当しています。

科学技術計算といってもかなり種類があると思うのですが、Ansysのようなシミュレーションを扱っていらっしゃる方はどれくらいの割合なのですか?

星野

Ansysのような汎用のシミュレーションソフトを専門に使用している者が10名ぐらい、それからNECと共同で専用のシミュレーションソフトを開発/計算している者が30,40名程います。これらのシミュレーションソフトは主に開発支援に使われています。NECのスーパーコンピュータSX-4、超並列マシン(Cenju-3)やワークステーションを使ってシミュレーションしています。我々はこの中で、NEC向けや社外向けに解析受託を行っています。またAnsys、NASTRANなど市販ソフトのコンサルティングも一部行っています。

コンサルティングといのうはサポートのようなものも含まれているのですか?

星野

そうですね、Ansysユーザーのサポートも含まれます。そういう点では、かなりサイバネットシステムズの技術者と仕事の内容は似ていますね。ただAnsysの入門セミナーノートなどがあるので読んでもらえれば結構何とかなる場合が多いです。

解析専任ということですね。どうですかこのような仕事は。同じような仕事をされているということで興味があるのですが。

岸野

私はモデリングが好きなので、やはりこの仕事は自分に向いていると感じています。難しいモデルほどがんばってしまいます。完成した時は充実感がありますね。

星野さんは、Ansys導入には関われていたのですか?

星野

はい、私は古い人間ですからその当時から関わっています。あの頃は今とは違う仕事を担当していました。当社はNECグループ向けに大型機やVAXを中心とした計算機サービスを行っていました。ですからNECグループの技術者が、端末からこちらの大型機を使用して、自分で作成したプログラムや市販の汎用プログラムを動かしていましたね。我々はその中で汎用プログラムのコンサルティーションを担当していました。当時の大型コンピュータにはNASTRANという汎用有限要素コードが導入されていました。ある時伝熱解析に強いAnsysを導入してほしいという要求が研究者からありまして、検討した結果VAXシステムにAnsysを導入することになったわけです。

星野

当時の汎用有限要素コードは、やはりカードイメージでしかデータを入力することができなかったのですが、Ansysは既にユーザインターフェイスとも言える環境がありましたので、決定に大きく関与していましたね。それにTektronixなどのカラー端末を買えばカラーのグラフィックコンター図を出力できるという機能もありましたので、非常にインパクトがありましたね。当時はコンター図も手書きで出していましたから。あれ(Ansysの登場)は衝撃的でした。

ユーザーはすぐ広まりましたか?

星野

それが当時は大型機に比べてVAXシステムのスピードが遅かったものですから、すぐには広まりませんでした。しかしNEC社内で一度Ansysの紹介デモを行ったのです。Tektronixを使用してコマンド一つでグラフィックスが出力でき、さらにカラーハードコピーにプリントできるということが評価されましてね。実状ではまだまだ出力リストの値だけで結果を評価していた時代でしたから、これは使ってみようという人が出てきたのです。

星野

それに10年程前、当時我々は解析ソフトの使用方法やトラブル対応などのコンサルティングを主にやっていたのですが、一度解析の請け負いの依頼がありまして解析受託を行ったことがあたのです。その評判がNEC内に口コミで広がりまして、その後かなりの数の受託依頼が来るようになりました。それが発端となりNECグループ内だけの解析受託を有償で受けるようになり、その設備を整えるためにカラー端末を増やしたり、Ansysを皆で利用するようになったのです。それがやはり大きなきっかけだったといえます。

現在ではNEC社内でAnsysはかなり利用されているのですが、それも当時の星野さんのおかげですね。

星野

そうかもしれませんね。後で非線形に強いソフトウェアも入れたのですが、既にAnsysの使い易さが広まっていたものですから、なかなかそちらへ移行することはなかったですね。

教育なども行われていたのですか?

星野

有限要素法の入門的なものと各解析ソフト別の講習会は行っていました。当時は非常に参加者が多く、また新しいコースはOHPやテキスト作りから始めたので大変でした。今はもう利用者が増えたのであえて教育を行う機会も減りましたが。

解析対象となるものはどのようなものが多いですか?

大川

依頼内容で一番多いのはICチップの熱問題です。内部発熱から温度分布を求めたり、温度分布から内部の応力を求めたりするケースですね。昔はマシンのスピードも遅くメモリも十分ありませんから、二次元で線形問題という場合が多かったのですが、今では三次元で、時刻歴かつ材料非線形というように要求が多様になってきています。

では最近は三次元モデルを詳細にモデリングされているのですか。

大川

いいえ、全てを詳細モデルで解析してはいません。やはり二次元などで仮定してモデル化を行うこともまだまだあります。

星野

二次元でも傾向は出ますので、絶対値を気にしなければ十分な場合が多いですね。

やはり寸法変更等の要求はあるわけですか?

大川

有限要素法の良さは。ある変数に対して純粋に変化が見られるところですからね。

星野

寸法や物性値を変更して比較を行わないのであれば、計算する意味はないと思います。我々のお客さんも、ある寸法を変化させて解析を試してみて、グラフを描いてほしいというケースがほとんどですから。本音は、”ある寸法を振ってみて最適な値を求めて欲しい”ということなのでしょうけどね。例のSPATFEMですが、こういった同様のICの解析ニーズを受けて開発したのです。ICであれば、今までのデータを寸法変更でまかなえるモデルが相当ありました。ですからSPATFEM用のユーザインターフェースを付け、ICのタイプをライブラリ化したのです。

大川

解析に理論目標を求める方もいます。物理的に作成は出来ないけれども限界目標としてどこまで出来るのかという数値を得るために。

星野

我々の受託は、一般の受託に比べて一歩設計者よりを特長にしています。ただ計算して結果を報告するのではなく、設計者といっしょに問題を解決しようとする受託を行っています。そのため解析の立場からある程度の提案は行います。例えばここはこう接合したほうが良いとか、ここの寸法は大きくしたほうが良いとか、材料はこれを使ったほうが良いとか。もちろん設計サイドでの制限もありますので、提案通りにいかないケースもありますね。

ICの解析で、BGA(Ball Grid Array)等の解析による疲労予測などの検討も積極的に行われているようですね。(図1)

図1
図1.高密度スタックメモリの温度サイクル試験時の応力解析

大川

最近は、BGAの解析も含めてこの手の疲労解析がトレンドのようですね。これは学会で発表している物ですが、非線形解析で大体ですが予測がつきます。

星野

パッケージのサイズが年々小さくなってきて、構造的に厳しくなってきていますから。

ICパッケージ関係で、材料特性なども相当揃えていらっしゃいますか?

星野

我々もお金をだしてでも正確な物性値は欲しいですね。ユーザさんに調べていただいたり、製造メーカーさんにもらったりはしていますが、非線形データなどはそう持っていませんからね。

大川

はんだの正確な非線形データがぜひ欲しいです。すぐ非線形領域に入りますし、はんだの影響は無視できないですから。

大川

ほかの解析対象物としては、これはやはり部品ですが、レーザダイオードの解析です(図2)。ダイオード自身の発熱や環境温度によってレーザーの発振特性が変化してしまうため、温度を一定に保つ必要から熱電素子を使うのですが、その効果を含めた伝熱解析を行いました。また落下の衝撃解析も行っています。実際に落下させたわけではなく衝撃力を与えているわけですが、このような解析も依頼されます。

図2
図2.熱電素子搭載LDモジュールの熱解析

話は変わりますが、Ansys社の新シリーズのDesign Spaceはご存知ですか。

大川

ええ、デモを見たことがあります。Design Spaceの様なコンセプトはこれから必要だと思いますし、設計者の中に潜在的なニーズはかなりあると思います。ただ設計者の中に三次元CADがそんなに広まっていないので、三次元CADを前提にしているDesign Spaceが今すぐ利用されるようになるとはいかないようですね。

Ansysに対する要望とか、ご不満とかは有りますか。

星野

自動ヘキサメッシャーの機能を是非お願します。

それがあると言うことないですね。完全なものが出来ればプリプロセッサの世界を征服できますから。

岸野

あとバージョンアップごとにグラフィックスなどのデフォルトが変わるのが困りますね。/SHOWコマンドやコンター図表示の仕様が変わりましたね。こちらで作成したプログラムの動作が以前と変わってしまって、説明できないときがあるのです。あれは困りますね。

シミュレーションという意味で、これからの展望等はありますか。

星野

今まで行っている計算に対しては、今後は正確性が問われると思います。また流体や化学反応などの計算や衝撃等の問題つまり落下試験のシミュレーションなどを行っていきたいです。

今度AnsysからDrop Test Moduleというオプションが出ます。Ansys/LS-DYNAが必要ですが、モデルをあらかじめ作成しておいて、落下のための設定をメニューで簡単に行えるものです。

星野

今後、Ansysだけではできない衝撃などの解析にLS-DYNAを取り入れようかと思っています。

星野

今後コンピュータのスピードも速くなり、ソフトウェアの能力も上がってきて、設計者の人たちでも簡単に解析が出来るようになったときに、我々はもっと高いレベルの解析が出来るように努力していかなければならないと考えています。

星野

徳永さんは、実物のSPATFEMをみられるのは初めてだと思いますので、ちょっと紹介しましょう。

星野

SPATFEMはメニュー上でどのような解析を行うのかをまず決定します(図3)。今選べるのは熱応力解析・伝熱解析・冷却フィンの熱流体解析です。そして、既に作ってあるモデルライブラリの中から、解析を行うパッケージタイプを選びます。パッケージタイプは昔からあるQFT(Quad Flat Package)のものや、最近のBGAタイプも揃えています。これらは新しい物が開発されればライブラリを追加するだけで対応できるようになっています。もちろんライブラリはパッケージ以外のものでも構いません。SPATFEMの最大の特徴は、パラメータ化する変数の決定や寸法値を、次の画面に出てくるチップの寸法図をピックして行えることころです(図4)。Excel等であらかじめ数値を決めておいて実行させることは、他のお客さんもされていると思うのですが、SPATFEMでは設計者でもわかりやすく図形表示画面で制御できるようになっています。例えば寸法が明記されているところをピックして、その寸法を変更して3ケース行いたい場合は、寸法値をスペースを空けて打ち込むだけでかまいません。

図3
図3.SPATFEM メニュー画面
図4
図4.PGA タイプの寸法入力画面

大変ありがとうございました。

株式会社NEC情報システムズの皆様にはお忙しい中インタビューの時間を作っていただきまことにありがとうございました。この場を借りてお礼申し上げます。

「Ansys Product News1998 Summer」に掲載

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