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解析事例

株式会社ケンウッド

スピーカーの設計とAnsysの活用


向かって左から早川様・熊倉様(写真1)

今回のユーザー訪問は、株式会社ケンウッドの早川様と熊倉様です。
株式会社ケンウッドはカーオーディオやホームオーディオで非常に有名な電機通信メーカーです。古くからオーディオに興味が有った方は、トリオという名前でご存じの方もいらっしゃるかと思います。現在はオーディオはもちろん通信関係や測定器なども製造されています。早川様と熊倉様はカーオーディオやホームオーディオのスピーカーの設計を担当されており、その新製品の開発設計を行っています。AnsysはRev4.4Aから導入され、現在はSGIシステム上でAnsys Rev5.3を使用されています。

(以後、株式会社ケンウッドの方々の敬称は略させていただきます。)

熊倉さんとはAnsysの導入時に、磁場解析を行うということで、Ansysインストールと磁場解析のサポートに御社へお伺いしたのを覚えているんですよ。

熊倉

そうですね。当初Ansysは構造非線形やダイナミック解析を行うために導入しました。ダイナミックを本格的に行おうと思ってまして、磁場がメインになるとは思っていなかったんです。他に解析ソフトを既に使用していましたが、構造非線形解析の機能が無く多少過渡解析の機能の部分で使いにくかった部分が有ったんですね。他に非線形解析機能を持った有限要素プログラムも検討したんですが、他のソフトウェアは当時値段が非常に高かった。それにユーザインターフェースが複雑でとても使いこなせるとは思えなかったんですよ。Ansysは構造以外にも磁場や音響解析など広い分野で使用できるから、汎用性に優れている、ということでAnsysに決めました。

インストールしてすぐ磁場解析を行ってましたね。

熊倉

初期の目的は構造のダイナミック解析でしたから、過渡解析の勉強を始めようかと思ったんですが、導入してすぐ、スピー力の磁場解析を行う必要があるのではとの提案がありまして、至急磁場解析を行わなければならなくなりました。磁場解析は未経験でしたし、Ansysも導入したばかりですから、サイバネットさんにご足労願ったんですよ。

解析を頼まれるということは、早川さんや熊倉さんは設計の中で、解析専門として、解析を受け持つような形を取られているんですか。

早川

特にそういう訳ではないですが設計部の中で、熊倉が解析が出来るので他の設計者から頼まれてしまうだけなんです。今は熊倉が一番よく知ってます。私もたまに解析を行うのですが、わからないときは教えてもらってます。

他に解析を行われる方はいらっしゃいますか。

熊倉

うちの部では我々が主に使用してますが、他にCDのPICKUPを設計している部門で一人います。モーダル解析とか振動解析を主にしています。たしかPC/Linearだったと思うのですが、PC/Linearは節点数や要素数に制限がありますよね。たまにメッシュを切りすぎて私どものAnsysを使いに来ます。

例の磁場解析は、この新型スピーカーの一部分ですね。(写真2)
(下2つが新型スピーカ・上は従来型)

写真2
写真2

早川

カーオーディオは車に乗せますので、そのシステムは軽ければ軽いほどいいわけです。それは車の燃費にも影響しますから。このスピーカは従来の製品に比べ格段に軽いですし、この方式ですと非常に薄く作れます。ですからその分、スピーカ取り付け部の設計は楽になりますので、車の設計者の方には大変喜ばれてます。

これは驚くほど薄いし軽いですね。従来のスピーカーに比べて非常に軽いですね。知らない人が見たら磁気回路をはずしてあるとしか見えない。この中の小さな磁気回路の部分の解析をされたのですか。

熊倉

そうです。この磁気回路の形状をどのようにすれば最も良いのかをAnsysで検討したのです。ただ検討するには寸法変更を何度もする必要があるのでAnsysのサポートの方にAPDLの書き方を教えてもらいまして、設計値を入力すればモデリングから解析まで自動で行い、さらにボイスコイル部に発生する必要な磁束値をパス演算で算出するまでのデータを作りました。これを初めに作っておいたので、設計値を入れ替えて何度もやり直して、パス演算の結果を見て、必要な磁束を発生させることが出来るかの検討が簡単に出来ました。このAnsysのやり方は非常に便利なので、この解析は今でも行っているのですよ。(写真3)

写真3
写真3

早川

Ansysを導入して一番のメリットはそこにありました。従来の磁気回路の方式であれば、既に経験が豊富にありますので、どのような設計値を使用すれば良いかはたいがい検討が付くわけですが、このスピーカの様に全く新しい磁気回路を採用した場合、今までの経験がほとんど使えなくなってしまったのです。そこで、Ansysの磁場解析を利用して、設計値を変更してトライアンドエラーを繰り返しまして、設計のあたりを付けたんです。Ansysを最も有効に使用できた例ですね。あたリが付けば、後は従来の経験値が使用できますし、試作を行う回数も減ってきます。Ansysを使用していなければ、この磁気回路の試作と測定を何度も繰り返していたと思します。試作も時間がかかりますが、見えない磁場の測定にも時間がかかりますからね。

他の磁気回路の解析はされてますか。

熊倉

防磁型のスピーカの磁気回路の解析も行いました。これは、スピーカの外部に発生する磁場をキャンセルさせる位置に磁石を配置する物なのですが、テレビの近くに置いてもモニターが歪まないスピーカですね。実際に磁場の分布はどのようになっているのかをAnsysで解析しました。(写真4)

写真4
写真4

磁場以外の解析はされているのですか。

熊倉

スピーカの設計ですから、音響解析は頻繁に行います。残念ながら音響解析は現在SYSNOISEを使用していますけども。ただSYSNOISEのためのモデルの作成やメッシュ作成をAnsysで行ってます。現在のAnsysのGUIやモデリング機能のおかげで複雑な形状も昔に比べてずいぶん楽になりました。このホームオーディオ用スピーカはオーディオコンポのK'sシリーズのスピーカなんですが、このスピーカのバッフルの形状が微妙な曲面とエッジで構成されているのがわかると思います。このバッフル形状の効果を音響解析で検証したんですよ。(写真5)(写真6)

写真5
写真5
写真6
写真6

早川

このスピーカは、人がスピーカからどの程度離れて聞くのかをある程度仮定して、その距離で二つのユニットの距離が同じになるようにわざと前後をずらして配置されています。あとバッフルの曲面はバッフルの影響ができるだけ出ないような形になっています。

早川

他には、スピーカの振動板の振動解析とか、スピーカエンクロージャの固有値解析やドームツイータの固有値解析等も行ってます。エンクロージャの固有振動数は、スピーカのいわゆる"音色"に影響しますので、現在の設計だとどの位置に固有振動が来るのかを見ることができる。あとモード形状を確認することができますから、どの位置に補強が必要かという検討も可能です。ツイターのドーム振動板も、固有値周波数の位置によって高域再生能力にかなり影響しますので、いかに可聴帯域からずらすかが問題になります。

早川

大きなモニターの台を兼ねるスーパウーハシステムのエンクロージャの構造解析も行ったことがあります。モニターも大きくなると50Kgほどになりますので非常に重いわけなんですが、エンクロージャの足が保つのかどうか、エンクロ一ジャの変形はどの程度なのかを解析で検討したこともあります。

熊倉

それとCDプレーヤのディスククランパーの部分の固有値解析も行いましたね。クランパーとディスクを含めた構造の固有周波数の影響で問題が出たときがありまして、クランバーの形状だとかを、解析と実験で検討したことがあります。結構実験と結果が合いましたね。

AnsysをSGIで使用されてますね。3Dでの表示も繁に使用されてますか。

熊倉

もちろん3Dの機能はいつも使ってます。もう三次元の機能が無いと使えないですね。SGIは映像はもちろん音の方の編集機能も豊富に用意されてるので重宝してます。三次元機能の話が出たところで、CADやCAEのソフトウェアに対する要望なんですが、三次元の機能も含めて、CAEのソフトウェアは操作方法が統一されていないじゃないですか。つまり、マウスの操作方法が違うとか。

ズームの仕方とか、回転のさせ方とかマウスのボタンが違うとか。

熊倉

そうなんです。私はAnsysはもちろん、I-DEASやSYSNOISEなど三次元の操作が出来るソフトウェアを使っているんですが、みんな操作方法が違うんです。マウスの右ボタンとか左ボタンとか、コントロールキーを押しながらマウスを動かすとか。CAEのGUIはみんな統一してほしいですね。

そうですね。私も他のアプリケーションを使ったときも三次元機能を使うときは操作手順が違うので戸惑うときがありますね。

最近設計者向けに、構造の静的解析や固有値解析などの簡単な解析に的を絞って、CADから直接解析が出来るようなツールが出てきています。Ansys製品ではDesignSpaceやCADインテグレーションプロダクトという名前で販売しているんですけれども、早川さん熊倉さんはそのような商品にご興味有りますでしょうか。つまり、解析担当者に解析を依頼するのではなくて、簡単な解析であれば設計者が自分で行うというようなシステムなんですが。

早川

それがワープロ感覚で操作可能ならば十分検討できるんですがね。さらに材料のデータが用意されてほしいんですよ。一般的な材料でかまいません。解析を行うのにその都度材料データを入力するのも面倒ですし、また調べるのも大変なんですね。そこで解析を諦めちゃうケースもよくありますからね。特殊な材料を用意するのは大変ですが、標準で一般的な材料データがそろっていれば、設計者が簡単な解析を行う分にはそのデータで充分なんですよ。

熊倉

材料の名前で選べるようになってれば簡単なんですけどね。たとえば"S45C"と選べば、磁場の非線形B-Hデータがすぐ定義できてしまうとか。

最後に、早川さんや熊倉さんが有限要素法でのシミュレーションを今まで使用してきてこれは便利だと思ったことはどのようなことですか。

早川

磁場解析にしろ音響解析にしろ測定や実験では、その分布をすぐコンター図のように目で見て理解できる絵にならない。例えば音圧分布を調べるにもレーザドップラーで調べたり、磁場であればホール素子を近づけて計測したりするわけなんですが、複数点取らないと分布として把握できません。その場合、時間とお金がかかりますから。

熊倉

その点有限要素解析だと分布はすぐ見ることが出来ますし、測定できない中身の分布も見ることが出来る。さらにアニメーションで表示させれば音の広がり方がすぐ理解できる。そこが最も便利だと思えるところですね。

お忙しいところ大変ありがとうございました。

株式会社ケンウッドのみなさまには、忙しい中インタビューの時間を作っていただき誠にありがとうございました。この場を借りて、お礼申し上げます。

「Ansys Product News1997 Summer」に掲載

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