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解析事例

香川県産業技術センター、高松工業高等専門学校

「生き残りをかけた開発設計の生産性向上セミナー」開催報告

去る7月21日(金)に、香川県産業技術センターにおいて、「生き残りをかけた開発設計の生産性向上セミナー」(主催:香川県システム技術研究会、共催:香川県産業技術振興財団)と題し、香川県内企業の開発設計部門の生産性をいかに上げて行くかを焦点として、CAEの概念と簡易型CAE(DesignSpace)などの概念紹介及びDesignSpaceのユーザー様である株式会社ダイヘン様(大阪市)の利用事例発表を交えたセミナーを開催いたしました。本セミナーには50名以上の登録があり、県内のCAE促進につながる有意義な企画となりました。右の写真は、本セミナーの模様です。またセミナープログラムを簡単にご紹介します。

セミナープログラム

「開発設計のための支援ツール」
サイバネットシステム株式会社 メカニカルCAE第1技術部
設計開発分野における生産性向上の課題に対しての取り組みと期待される効果・問題点、また現在のCAEツールの動向も含め事例を交えながらの紹介。

「開発設計における最近の取り組み方と事例」
株式会社 ダイヘン 半導体機器事業部 宮本 玲 氏
業務上、標準製品のカスタマイズの多い中で仕様変更の製品と標準製品との性能比較を行う際に発生していた問題点、IT活用に向けてのキーワード、導入検討の際の選定基準や導入後現状の効果や課題を設計プロセス・解析ツールの導入事例紹介と共に「利用者の目」で解説。

サイバネットシステムでは、東京や大阪などの主要都市だけでなく、このように各県、各地域において、エンジニアリング環境の改善や発展のために、地域産業の支援団体となる産業技術センター様や教育機関の方々と協力して各種セミナーや勉強会などの開催を今後も継続していく予定です。

香川県産業技術センター 岩田 弘 様
高松工業高等専門学校 高畑 秀行 様 インタビュー

高松工業高等専門学校 高畑 秀行 様高松工業高等専門学校
高畑 秀行 様

本セミナーを主催しAnsysのユーザーでもある香川県産業技術センターシステム応用技術部門機械システム担当の主席研究員岩田弘様(写真右)と、香川県内において、教育指導の立場から岩田様と同じく有限要素法の促進に努めていらっしゃる高松工業高等専門学校高畑秀行教授(写真左)にAnsysの利用状況や県内企業の設計解析の現状、CAEシステムに対する要望などについてお話を伺いましたので、その内容をご紹介させていただきます。

香川県産業技術センター 岩田 弘 様香川県産業技術センター
岩田 弘 様

香川県産業技術センター様は、平成12年4月より香川県工業技術センター、香川県食品試験場、香川県発酵食品試験場が統合され新たに発足したもので、その構成としては、工業技術センターの組織を引き継ぐ、材料技術、生産技術、システム応用技術などの部門があります。岩田様が担当されている機械システムは、システム応用技術部門の中にあり、Ansysを利用したCAEの研究指導も含め、機械設計・CAD/CAMに関する試験研究及び相談指導などを行っていらっしゃいます。

高松工業高等専門学校は、本科(5年制)として、機械工学科、電気工学科、制御情報工学科、建設環境工学科、一般教育科があり、平成11年4月にできた専攻科(2年制)には、機械電気システム工学専攻、建設工学専攻があります。高畑先生は、機械工学科において、Ansysを使った計算力学の授業も含め、コンピュータを採用した機械設計について教鞭をとられています。

(以後、岩田様、高畑様の敬称は略させていただきます。)

学校教育の立場からは、機械工学や有限要素法の基礎知識を学んでからのCAE利用が理想。しかし、中小企業でCAEを浸透させるには有限要素法を意識しないツールも必要。

まずAnsysを導入した経緯をお聞かせ下さい。

高畑

高松高専で初めてAnsysを導入したのは、7年程前ですからバージョン4.4のときで、当時の教育版ではフル機能のものだったと思います。それからAnsys5.1まではバージョンアップしていたのですが、その後5.1のままで使用していまして、最近最新バージョン5.6のAnsys/Universityを16本導入しました。

それは主にどのような用途に使われていますか?

高畑

初めての導入のときは、学会でAnsysのデモを見たのがきっかけです。これはぜひ教育に取り入れたいという気持ちで導入しました。そしてサイバネットさんに教官向けの導入教育をお願いしました。でも、そのときの印象で授業で学生に操作させるのはたいへんだということで、すぐには手をつけなかったんですね。しばらくして、5.0が出て今のメニュー構造になり、これは使えると思い授業に反映させるようになりました。5.1にさらにバージョンアップした後は、いちいちコマンドを覚えなくても大丈夫になりましたから、5年生の授業に取り入れるようになりました。これが5,6年前ですね。それから毎年授業に反映させています。実はAnsys4.4の段階でも学生の卒業研究にはAnsysを取り入れました。3次元の結構複雑なピストンの問題だったのですが、卒業研究ですから時間はとれますし、苦労しながらも何とか結果を出していました。

授業の中で一般的な工学的理論とCAEなどのソフトウェア利用についてはどのような割合に設定されているのでしょうか?

高畑

高専の機械工学科というところは、最近は情報工学科などと比べると名前からするとアピール度は低いので、一つの売りとして、コンピュータに強い機械技術者を育てるということを打ち出しています。そのために、計算力学的な授業を系統的に低学年から続けています。本科は5年制なのですが、2年生でプログラム言語、3,4年で基礎となる数値解析、5年生で計算力学というのがあって、そこで有限要素法の基礎的な授業を行ってAnsysも使わせています。現在は、2年制の専攻科というのが出来たので、特論として有限要素法や差分法あるいは最適設計といった授業、それから実験の中でAnsysをどんどん使用させています。

Ansysを使った授業は実際時間的にはどれくらいですか?

高畑

5年生の中では、計算力学に関する講義が週2時間あってそれが1年間続きます。内容としては最初に弾性学の基礎などいわゆる有限要素法の基礎的なところから始まって、プログラムの説明を行い、パソコンのFDに入るような有限要素法のプログラムも使わせています。講義以外の工学実験では、40人を10人のグループ4つに分けて、グループ毎に、今週はこの実験というふうに分けています。その実験の一環として計算力学があって、これがAnsysを使った有限要素法なのです。ただ、最初はAnsys使わずに、自分でメッシュ分割からデータの打ち込みまで全部行わせます。そうすると、FEMが根本的にはいかにたいへんで苦労するかがわかりますよね。そういう経験の後Ansysを使います。

それだけ有限要素法の授業を取り入れられているのは珍しいですね。他県の高専や大学との情報交換はありますか?

高畑

残念ながら他県との情報交換はありませんが、それよりも県内ですね。産業技術センターの岩田さんと情報交換をするようになったのも、もともとお互いに振動が専門で、有限要素法を広めたいという希望もあって、このように何かと一緒に企画することが多くなってきたのです。

岩田

産業技術センターでは現在Ansys/MechanicalとAnsys/Emagを使っていますが、初期導入はかなり前で、もともと高畑先生と同じ時期でした。産業技術センターでは、当時研究テーマがあってそれを解決するためにAnsysを購入したのです。その後、しばらくして中小企業向けに開発設計工程をいかに効率良くするかというのがテーマとなりました。そしてCAEが絶対必要ということで、そのために理論的なところも含めて高畑先生にもお手伝いをお願いしたいということで講演をしていただくようになったのです。最初は我々の研究会で有限要素法の理論的な説明を2回くらいにわけて説明していただきました。その後サイバネットさんや他のソフトウェアベンダーさんの事例紹介とか、一般企業さんの失敗事例的なもの取り入れてセミナーを開催したのですが、一連の取り組みを先生の協力を得ながらやってきたわけです。また、そういうセミナーを始める前に県内企業を先生と5社程訪問しました。どちらかと言えば、先生は教育を中心にされていますよね。ですから県内企業の実態を知っていただきたかったのです。

高畑

しかし、実際企業の方に聞いてみると、他社さんのものですが有限要素法のプログラムを買ってみたものの、後でフォローもないしとても使えない、という企業もありました。やはり使う側にとっては有限要素法のプログラムは難しいのではないかと。県内は特に中小企業が多いですから、きちっと担当するものが育っていないし、もともと担当できるほどの人員が確保できないという問題もあります。

岩田

香川では設計者自体が数名の企業がほとんどなのです。大きい規模の企業でも専任で解析をしている人が実質一人程度であったりするのです。そういう現状ですから、解析に専念できるかというととても無理なのです。ですから、設計を中心にやっているところで、ちょっと問題があったときに解析をやれるというツールが欲しかったのです。香川県内の企業では、解析の専任者がいなくても設計している間に解析がすぐできるようなものがあれば、設計のレベルも上がっていくのではと期待しています。県内企業が全体的にレベルアップすればそれはものすごい効果にるわけですよね。そういう思いで我々は取り組んできたわけです。

企業の現状から考えると、Ansysのような専門的なCAEよりも、効果を早く引き出すためにはCADにつなげて使えるような比較的簡単なCAEが望ましいのでしょうか?

岩田

県内の企業全体を見るとやはり有限要素法を意識しないようなツールでないとなかなか浸透しないと思うのです。CADに完全統合されて、だいたいの傾向がわかるような解析ツールがあればいいと思います。さほど精度は追求しないのです。どこの寸法を変えると答えがどう変わってくるか、どこに応力集中するかという比較ができれば十分です。設計者はそれなりのノウハウは持っていますから、正確な数値は必ずしも必要ないのではないでしょうか。あとは、担当者なり経験を持っている人の判断でいけるわけです。正当なやり方ではないかもしれませんが、簡単でしかも安いソフトでそこまでできれば、十分効果を上げられるわけです。

企業だと専門性よりも操作性の高さが重要な場合もあるというわけですが、教育という立場からするとどのようにお感じですか?

高畑

どういうCAEを使うにしても、基本的な工学的センスというか、機械工学の基礎的なところを知らないと、間違った結果を見てもすぐ信じてしまうかもしれませんね。ですから、機械工学の材料力学なり基本的な知識はおさえておく必要があると思います。学校教育という立場からすると、有限要素法のソフトウェアを使って、なぜこういう答えがでるのかという、その一番基本的なところを教えたいと思っているのです。案外地味な講義ですが、それをきちっとして、その結果としてソフトウェアを使って結果をコンター図で見れるようにしています。学生は最終的にAnsysを使うようになるのですが、Ansysを使うとみんな感動していますよ。学生はコンピュータを使って答えがでると感動しますね。Ansysを使う前に自分でデータから打ち込んで有限要素法を使う苦労を知っていますからね。実験をやって、それが正しいかどうかというのも課題ですよね。それと同じで、ソフトを使ってその答えが正しいかどうかというのが判断できることが大事だと思います。

岩田

境界条件でも、間違えるととんでもないことになりますから非常に難しいですね。中小企業の人がそういう解析条件の設定について相談に来るのですが、ちょっとした設定の違いで値がころっと変わるわけです。ただ、厳密に実際の状況と境界条件を合わせるのは至難の業ですよね。ですからあくまでこういう条件でやっているという前提で、話を進めるようにしないといけませんよね。理想的に言えば、そんなことも考えて全部自動でできればいいんですが。

操作性が高くて自動ということになるとDesignSpaceという簡易型CAEもありますが、こちらの印象はいかがですか?

岩田

私は2年くらい前のバージョンのデモを見て、非常に便利だと思いました。

DesignSpaceは現在バージョン5.0.2で今度6.0ですが、かなり変わってきています。今はアセンブリ全体の解析もできますし、機構との連携などいろいろ機能は増えてきています。Ansysと違ってDesignSpaceはメッシュは全自動ですから、CAEを始めて使うお客様には非常に受けはいいですね。

岩田

アセンブリができるのであれば使えますね。そんなに変わってきているのであれば、またぜひ見てみたいです。とにかく、企業としては、実験と同じような答えがバカチョン式ででてくるのがありがたいわけです。実際に設計した図面に加わる力が、ある程度想定していた条件で答えが出てくるソフトがあればありがたいですね。操作が難しいと、その場でやめてしまいますから。欲を言えばDesignSpaceよりもっと簡単なものがあってもいいくらいですよ。

そのような操作性の向上と併せて、企業の中でちゃんと使いこむには、ある程度それに集中できる時間と人員が確保されていることが大事ですね。同時にベンダー側のサポートも充実していて、何かあったときにすぐに対応できる環境というのが立ち上げ時には必要ですね。我々もできるだけ県内のCAE促進のために、製品や事例の紹介の場を多く設けたいと思っています。それで少しでも身近なイメージを持ってもらえるともっとソフトの利用率も上げられるのではないでしょうか。

岩田

それはぜひお願いしたいです。産業技術センターとしては、香川県の中小企業の実態に合わせた内容でセミナーを継続的に企画して、気軽にAnsysのようなCAEを企業さんに見てもらえるようにしたいと思っています。こういうところでセミナーを開催すると企業さんも便利に思ってくれますし。今秋にもAnsys/EDを使った「5万円でできる有限要素法」というセミナーを計画していますが、これも手軽に使えるCAEという意味でつけた名前なのです。こういうツールを今後使っていかなければいけない!というような緊張感が残るようなセミナーを開催していきたいですね。

そうですね。今日はDesignSpaceの概念を紹介しましたが、今度はそのためのモデラとして3次元CADの紹介であるとか、DesignSpaceの実習とか、徐々に内容をアップグレードしていって、継続して行きたいですね。

岩田

最近は小さいところでもドラフターを買う人はいないですよね。みんなCADを買っていますよね。いずれCAEもそうなると思います。技術の進歩は当然そういう方向にありますから。香川県には100人を超える企業よりも20人を切る企業が圧倒的に多いのですが、そういう企業でも専門書を読まなくても自分達で解析できるという状況にできるだけ早くしていきたいです。小さい企業といっても、詳細設計はやるわけですから、そのときにその企業のレベルを上げるにはやはり解析ツールが必要ですよね。今CADの値段が下がってきて、手軽に買えますが、CAEもそういうふうに安くてバカチョン式に使えるのがありがたいです。

最後にAnsysへの要望をお聞かせ下さい

岩田

Ansysの操作環境ですが、まだメニューが多くて階層が多いと思います。早くWindows環境のメニューにしてほしいです。やはりそこは大事なところだと思うのです。今は全部日本語になっていますが、今度は環境自体をWindowsライクにすることもお願いしたいですね。もっとCAEを広げるためにはAnsysもDesignSpaceと同じように使えるようにすべきだと思います。ぜひお願いします。

将来的には現在のDesignSpaceの環境でAnsysが使用できるように開発をする予定です。Ansysは全ての機能が入っていますから、GUIの作り替えにはずいぶん時間がかかるようなんですね。でも、Ansys社としては、使いやすさも最重要項目として認識していますから。それが皆さんの一番大きい要望なわけですよね。

岩田

今みなさんWindowsに慣れていますからね。そのいつも使っている環境で解析ができるというのは大事ですよね。Ansysが全部そうなると嬉しいです。

香川県産業技術センター岩田様、高松工業高等専門学校高畑様には、セミナー終了後お忙しい中インタビューの時間を作っていただき誠にありがとうございました。この場をお借りしてお礼申し上げます。

「Ansys Product News2000 Autumn」に掲載

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