
解析事例
コンロッドの疲労解析~平均応力の違いによる影響を評価~
平均応力の違いが寿命に及ぼす影響を評価することが可能
コンロッドの疲労解析~平均応力の違いによる影響を評価~ の概要
こんな方におすすめ
- 初期応力が生じる製品への繰り返し荷重による寿命を評価したい方
- 平均応力の違いで変化する寿命を定量的に評価したい方
解析概要

疲労寿命は応力振幅が同じであっても、変動する応力全体が引張側に寄っているのか圧縮側に寄っているのかで寿命が異なり、引張側に寄るほど寿命が短くなります。応力全体が引張側に寄っているのか圧縮側に寄っているのかは平均応力で表現することが出来ますが、適切な寿命の算出にはこの平均応力の違いを考慮して寿命の計算を行う必要があります。手計算でこれを行うことは多大な労力を必要とする為、疲労解析ツールを用いることが評価の効率化に有効です。疲労解析ツールでは平均応力ごとに損傷度合いを計算して寿命を算出することができます。損傷度合いの計算は平均応力ごとのSN線図を用いる方法がシンプルですが、SN線図の取得に多くの試験時間を必要とします。その為、評価の簡略化の手法として平均応力補正理論を用いる方法もあります。そこで本稿ではAnsys Mechanical(以下Mechanical)とAnsys nCode DesignLife(以下nCode)の連携により、コンロッドの形状や材料を変えた場合の疲労寿命の変化を疲労解析で求めた事例を紹介します。
平均応力とは
繰り返される応力振幅の中心となる応力値です。応力振幅の偏りを表現し、引張側で繰り返されているのか圧縮側で繰り返されているのかを表します。応力振幅の偏りによる寿命への影響を考慮する為には平均応力ごとに損傷度を計算する必要があり、平均応力ごとに試験で取得したSN線図を用いる他、平均応力補正理論により平均応力0のSN線図のデータを補正して損傷度を計算する方法があります。
使用ソフトウェア
- Ansys Mechanical 2023 R1
- Ansys nCode DesignLife 2023 R1
背景/課題
コンロッドの設計において、初期応力の影響を考慮して疲労寿命を検討したい。
ボルトによる締結や圧入など、予め初期応力が作用した状態で使用される製品の設計において、それらの初期応力が疲労寿命に与える影響を加味してより精度の高い適切な寿命評価を行う必要がある。
平均応力ごとに損傷度を計算した疲労解析を実施することで設計検討を効率的に行う。
解析目的および解析手法
解析対象
(図1)のコンロッドに繰り返し荷重が作用する場合の応力疲労寿命を疲労解析により評価します。繰り返し荷重が両振りの場合と片振りの場合のそれぞれで寿命を計算することで、平均応力とそれを考慮する為の評価手法がどの程度疲労寿命結果に影響を及ぼすのかを確認します。
(図1)解析モデル
解析手法
Ansys Mechanicalの静的構造で応力解析を実施、その応力結果に基づいてnCodeで疲労寿命解析を行います。(図2)
(図2)解析システムリンク
解析の仕様
解析モデル
下記の4ケースで疲労解析を実施し、荷重の種類と評価手法による疲労寿命結果の差を評価します。
- 両振り荷重(応力比=-1)
- 片振り荷重(応力比=0):応力比依存のSNデータを使用
- 片振り荷重(応力比=0):Goodman平均応力補正理論を使用
- 片振り荷重(応力比=0):Gerber平均応力補正理論を使用
材料物性
合金鋼との物性値を下記に示します。
疲労寿命はSN線図(応力-寿命線図)に基づいて算出されます。
- 合金鋼(AISI4340-125相当)
- ヤング率:200 GPa
- ポアソン比:0.32
解析条件
エンジンのコンロッドを想定し、材料は合金鋼が割り当てられ、材料の違いによる疲労寿命の違いを評価されます。
メッシュを(図4)に示します。高次要素を用いており節点数は約9万8千でした。
(図4)メッシュ
静的構造解析の解析条件を(図5)に示します。クランクシャフトに取り付けられる側の受け部を固定し、ピストンから受ける力を想定してコンロッドの長手圧縮方向に軸受荷重を設定します。
(図5)静的構造解析条件
また、(図6)にnCodeにおける荷重設定を示します。両振り荷重(R=-1)と片振り荷重(R=0)のそれぞれで寿命を評価します。片振り荷重の評価は応力比依存のSNデータを基に算出する他、GoodmanとGerberの2種類の平均応力補正理論を用いた評価も行います。(図7)にそれぞれの補正による疲労限度線を示します。
(図6)nCode荷重設定
(図7)平均応力補正理論による疲労限度線
解析結果
解析結果
MechanicalおよびnCodeによる疲労解析で得られた結果として疲労寿命結果を(図8)に示します。
(図8)nCode疲労解析寿命結果 ※寿命結果の単位は[サイクル]
解析結果の評価
(図8)の結果の「両振り応力負荷結果」では、約31万サイクルの疲労寿命結果となり、軸受け部の根元において最も寿命の短い部位が存在することが分かります。次に、片振りの応力負荷として、荷重が引張側に寄った場合の疲労寿命を応力比依存のS-N線図のデータを用いて算出した場合は約1万サイクル弱となり、両振りの場合と比較して大幅に寿命が短くなっていることが分かります。更に、GoodmanとGerberの平均応力補正理論を用いて評価した結果では、Goodmanが約46サイクル、Gerberが約9000サイクルとなり、Goodmanがより安全側の結果となっています。
本解析の効果
想定される荷重条件下において、コンロッドに作用する荷重負荷の種類と平均応力を考慮する手法を変更した場合の疲労寿命結果の変化を確認することが出来ました。
応力比依存のS-N線図データを入力することで応力比に応じた荷重負荷による疲労寿命の計算ができるのはもちろん、平均応力補正理論を用いることで応力比=-1のS-N線図データのみでも疲労寿命の計算が可能です。
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