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解析事例

構造解析

粉末冶金の粉体圧密プロセスシミュレーション

打錠試験からDPCモデルの材料同定を実施して、圧密解析までやってみました

こんな方におすすめ

  • 粉体圧密成形時における密度ムラや破壊・亀裂を防ぎたい
  • 手戻りを削減し試作回数を低減したい
  • 最適な成形条件を把握したい
  • 構成則や材料定数の同定方法が分からない

概要

本事例では、粉末冶金で重要となる粉体の圧密挙動を対象に、Drucker-Prager Cap(以降:DPC)モデルを用いた解析手法の適用例をご紹介します。最初に、押し込み速度および荷重条件の異なる圧密試験を実施し、条件の違いによる圧密挙動の差を確認します。次に得られた試験結果を基に、各条件に対するDPCモデルの材料定数を同定します。ここではその材料定数を同定する一連の手法についても簡単にご紹介します。最後に、同定した材料定数を用いて、粉末冶金によるギア成形を想定した圧密工程の解析例をご紹介します。

粉末冶金とは

金属やセラミックなどの粉末を金型内で圧密・成形し、その後焼結することで部品を製造する工法です。切削加工と比較して材料歩留まりが高く、複雑形状や高精度部品の量産に適しています。圧密工程における成形条件は、最終製品の特性に大きな影響を与えます。

使用ソフトウェア

Ansys Mechanical 2025R1

背景/課題

粉末冶金における部品製造では、圧密工程における密度のばらつき、寸法不良、き裂や破壊の発生などが重要な課題となっています。成型不良は、試作や実機検証を繰り返しながら条件を調整することで対処されることが多く、開発期間やコストの増大につながります。このような課題に対し、CAEを用いて圧密挙動を事前に評価することが期待されています。しかしながら、粉体成形では、粉体が大きな体積変化を伴いながら圧密され、剛性や降伏特性が大きく変化します。このような挙動は非常に強い非線形性を示すことから、単純な塑性モデルではこのような圧密挙動を表現することができません。また、粉体材料の力学特性は初期充填状態や圧密履歴に依存するため、解析に用いる材料定数の設定が難しく、解析結果の信頼性も課題となります。そのため粉体特有の圧密挙動を適切に表現できる材料モデルと、その材料定数を合理的に決定する手法が求められています。

目的

本事例では、粉体の打錠試験を実施し、その結果からDPCモデルの材料定数を同定することを目的とします。まず、押し込み速度および荷重をそれぞれ3水準設定した打錠試験を実施し、各水準における結果の違いについて比較します。次いで各水準におけるDPCモデルの材料定数を同定します。ここではDPCモデルの材料同定手法の流れを簡単にご紹介いたします。最後に同定した材料定数を用いて、粉末冶金におけるギア成形解析の適用例を示します。

解析モデル

Drucker-Prager Capモデル

DPCモデルはMohr-Coulombモデルをベースとした塑性モデルで、図1に示すように静水圧に依存する降伏曲面を持つのが特徴なモデルです。拡張域と圧縮域に圧密に伴って発展するキャップを設けた円錐台のような降伏曲面を持ちます。せん断降伏、圧密の進行に伴う剛性変化および体積変化を考慮できるため、粉体成形の数値解析によく用いられます。DPCモデル単体ではひずみ速度依存性を持たないため、速度依存性を考慮したい場合はクリープモデルと組み合わせる必要があります。本モデルの材料構成則を表1に示します。赤色でマークしているのが材料定数であり、全部で11個あります。ただし、拡張キャップ関数はAnsys2025R1より改良されてより複雑な関数の定義が可能となっておりますが、簡単のためここでは簡略化された表記としております。

(図1)DPCモデルとフォンミーゼスの降伏曲面との比較

(表1)DPCモデルの構成式

材料試験

粉体の打錠試験

DPCモデルの材料定数を同定するために、粉体の打錠試験を実施しました。試験装置の概要を図2に示します。試験装置は上杵(上パンチ)、下杵(下パンチ)、臼から構成され、今回はφ8㎜の臼を使用しました。試験方法は、まず粉体材料を臼に充填し、次に上杵を初期位置まで移動させ、その後下杵を移動させて載荷します。その後、上杵を移動させて除荷を行い、最後に下杵を上方に移動して材料を排出します。上杵と下杵からは移動量(座標値)および荷重が取得でき、臼からは壁面荷重が取得できます。今回は、試験条件として荷重を10、15、20 [kN]の3水準、載荷速度を0.1、1、10 [mm/s]の3水準、n数を3として9水準全27ケースの計測を行いました。
試験対象の材料は、丸ス釉薬合資会社様よりご提供いただきましたセラミック材料である純度92%のアルミナ(CH-92)を用いました。

(図2) 粉体打錠試験装置

試験結果

図3に各水準における打錠試験結果を示します。同水準の試験では結果に差異がほとんどなかったため、各水準で最初に実施した結果を表示しています。今後の材料同定においてもこの結果を用いています。また、図の杵間距離は上杵と下杵の移動量から計算して表示しています。なお、実際の試験結果はサンプリングレートが高く(結果点数が多い)ノイズもあります。これは後の材料定数同定作業も大変になることから、FFT(高速フーリエ変換)によるノイズ除去、移動平均を用いたデータの平滑化、データ点数削減を実施しています。
図3よりどの水準の結果でも載荷直後は剛性がほとんどなく圧密が進み、ある一定の所から一気に剛性が立ち上がる挙動が確認できます。そして、上杵よりも稼働側の下杵の方が少しだけ荷重が高くなっています。また、全体と比較して微小なため少々見にくいですが、除荷後は壁面および下杵に荷重が残っています。同じ速度の結果を比較すると荷重値が違う以外は大きな違いは見受けられません。各荷重の比率もおおよそ同程度です。同じ荷重の結果を比較すると10[mm/s]の結果だけグラフ形状が異なるように見えますが、これは横軸のスケールの違いによるもので、10[mm/s]の結果は載荷速度と除荷速度が近いためです。

(図3)粉体の打錠試験結果

Drucker-Prager CAPモデルの材料定数の同定方法

概要

既往の研究1)を参考に上述した試験結果を用いてDPCモデルの材料定数の同定を行います。同定は荷重および速度別に計9ケースについて実施します。ここで、同定すべき材料定数はDPCモデルとヤング率およびポアソン比を含めた13個と摩擦係数です。しかし、これらすべてを同定することは難しいため、以下の仮定を設けて表2に示すように、C5・C6・C8・C11は固定値とします。

  • せん断包絡面関数は線形
  • Lode角関数Γは1
  • 硬化関数を簡略化
  • 流れ則は連合流れ則とする

表2において「材料試験から決定」と記載のある材料定数は材料試験結果から値を算出します。また、「逆解析から決定」と記載のある材料定数は材料試験結果かおおよその初期値を決定し、打錠試験を再現する解析を用いて材料定数を逆同定します。さらに、C2については材料試験から決めることができない材料定数となりますが、圧密の解析にはほとんど影響がないため、降伏曲面を見ておおよその値を決めます。なお、C4とC7については粉体層せん断試験を実施して決定する方がより精度が高くなりますが、今回は実施していないためこれらについても打錠試験結果から材料同定を実施します。 以降、各材料定数の同定方法を簡単に説明します。

記号 材料定数名 同定方法
Mu 摩擦係数 材料試験から決定
Ex ヤング率 材料試験から決定
Pr ポアソン比 材料試験から決定
C1 Rc 圧縮キャップパラメータ 逆解析から決定
C2 Rt 拡張キャップパラメータ 降伏曲面を見て決定
C3 Xt 圧縮キャップ降伏圧力 逆解析から決定
C4 σc 粘着降伏パラメータ 逆解析から決定
C5 β せん断包絡面指数 0:固定値
C6 A せん断包絡面指数係数 0:固定値
C7 α せん断包絡面線形係数 逆解析から決定
C8 ψ 拡張強度と圧縮強度の比 1:固定値
C9 W1c 塑性体積ひずみの制限値 材料試験から決定
C10 D1c 硬化パラメータ 逆解析から決定
C11 D2c 硬化パラメータ 0:固定値

試験結果から材料定数を同定

① 摩擦係数の同定
試験結果から図4に示すように臼壁面の垂直応力と臼壁面のせん断応力関係を算出します。垂直応力とせん断応力は以下のような関係性があります。
[臼壁面せん断応力]=[摩擦係数]×[臼壁面垂直応力]+[付着力]
ここではグラフを線形補完することで摩擦係数を算出します。なお、付着力を考慮することもできますが、今回は影響が小さそうなため無視しています。

(図4) 10[kN]_0.1[mm/s]における臼壁面の垂直応力‐せん断応力関係

②ヤング率およびポアソン比の同定
試験結果から図5に示すように第一応力不変量I1と偏差応力の第2応力不変量J2関係を算出します。I1およびJ2は以下で表されます。

ここで、σzは軸(載荷)方向応力、σrは横(軸直交)方向応力です。また、図6に示すように軸方向応力σzと軸方向ひずみεz関係を算出します。図5および図6の除荷時における点Bおよび点Cの傾きを以下のよう計算します。

これら傾きとせん断弾性係数Gおよび体積弾性率Kには以下のような関係があります。

よってヤング率およびポアソン比はせん断弾性率および体積弾性率との関係から以下のように計算できます。

(図5) 10[kN]_0.1[mm/s]におけるI1‐ J2関係

(図6) 10[kN]_0.1[mm/s]におけるσzz関係

③圧縮キャップ降伏圧力C3の同定
試験結果から図7に示すように第一応力不変量I1と体積塑性ひずみεpV関係を算出します。εpVは以下のように計算できます。

なお図7は載荷後の立ち上がり部分を表示しています。C3はεpVが0の時のI1の値を推定して決定します。C3は必ず負値を取ります。

(図7) 10[kN]_0.1[mm/s]におけるI1 - εpV関係からC3の同定

④塑性体積ひずみの制限値C9および硬化パラメータC10の同定
第一応力不変量I_1と体積塑性ひずみεpV関係からC9およびC10を同定します。C9は圧縮体積塑性ひずみの発生を制限し、C9の値以下の圧縮体積塑性ひずみが発生しなくなります。そのため図8に示すように実験結果に則した値を設定する方が解析精度は高いですが、より小さな値を設定する方が解析の安定性が高くなります。実機解析でより圧縮される個所が発生するようであればより小さな値に調整する必要があります。
C10は図9に示すように剛性変化に大きく影響します。大きな値を取ると初期剛性が小さくなるため、解析時に計算回数が増える傾向にあります。一方、小さな値を取ると剛性変化が緩やかになり、解析が安定しやすくなります。C10については解析精度に大きく影響するため、逆解析で材料定数を同定します。ここではグラフ後半の最圧密状態のグラフが一致するようにおおよその値を決定しておきます。

(図8) 10[kN]_0.1[mm/s]におけるI1 - εpV関係からC9を同定

(図9) 10[kN]_0.1[mm/s]におけるI1‐εpV関係からC10を同定

逆解析による材料定数の同定

C1、C3、C4、C7、C10について打錠試験を再現する解析を用いて逆解析により材料定数を同定します。しかし、これらについて同時に複数水準で解析を実施すると計算コストが膨大になるため、まずは解析への寄与度が大きいC7およびC10について1変数ずつ推定することで解析コストを低減します。また、C1、C3、C4については解析への寄与度がかなり小さいので、逆解析を行わないことで解析コストの削減が可能です。そこで今回は、C7およびC10に加えてC1のみ逆解析を行うこととします。(図13) 破壊・き裂判定結果

本解析の効果

本事例では、打錠試験を行いDPCモデルの材料定数を同定し、圧密成形解析を実施するという一連の流れについてご紹介しました。
パラメータ数が多く材料同定が難しい材料ですが、材料に仮定を設けるとともに逆解析を併用することで材料同定を実施する手法を示しました。最終的には同定した材料物性を用いて、圧密成形解析を実施し、解析によりかさ密度分布や破壊・き裂の発生予測を行うことができました。最適化手法と組み合わせることで、よりよい成形条件や形状寸法を解析から推定することが可能です。

参考文献

1) C.-Y. Wu, O.M. Ruddy, A.C. Bentham, B.C. Hancock, S.M. Best, J.A. Elliott, Modelling the mechanical behaviour of pharmaceutical powders during compaction, Powder Technology 152 (2005) 107- 117

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