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解析事例

電磁界解析

電子照射時のX線生成過程の解析

Ansys Charge Plusによる電場解析と粒子輸送法を用いた電子とX線の評価

電子照射時のX線生成過程の解析の概要

こんな方におすすめ

  • X線源や電子銃の設計・評価に携わる方
  • 高エネルギー粒子の挙動や放射線生成をシミュレーションしたい方
  • 放射線物理、加速器、宇宙機器などの分野に関わる方

解析概要

本解析ではAnsys Charge Plusを用いて電子銃から放出された電子がターゲット(タングステン)に衝突したときのX線生成過程を解析しています。
内部充電ソルバーで電磁場を計算し、モンテカルロ法※1による粒子輸送法※2で電子が電磁場から加速されターゲットに到達するまでの軌跡とターゲット衝突時の散乱や制動放射の発生を確率分布から計算し、X線の生成過程を解析します。
本解析では、医療機器や半導体検査装置で使用される20~30 keVを対象としています。

※1 モンテカルロ法:確率的なシミュレーション手法で、粒子輸送方程式の数値解法として広く用いられる。弾性散乱、非弾性散乱、吸収、制動放射などのイベントを確率モデルに基づいてランダムサンプリングし、統計的に現象を再現する。
※2 粒子輸送法:粒子の位置、エネルギー、方向を追跡し、物質との相互作用をモデル化する方法。輸送方程式は偏微分方程式であり、複雑な幾何形状や多様な物質組成を扱う場合には、モンテカルロ法による確率的シミュレーションが有効。

使用ソフトウェア

Ansys Charge Plus

背景/課題

医療機器や半導体検査装置では、X線源の設計に対する品質要求が急速に高まっています。医療分野では、患者の被ばく低減と高精度診断のため、X線の線量制御やスペクトル品質が厳格に求められています。一方、半導体分野では、デバイスの微細化に伴い、検査精度の向上と過剰線量による損傷防止が重要課題となっています。さらに、両分野とも特定のエネルギー帯域でのX線強度が性能に直結するため、エネルギー別の評価が不可欠です。しかし、従来の設計手法では電子ビーム挙動やX線分布の予測が難しく、試作と実験に依存することでコストと開発期間が増大していました。


こうした背景から、Ansys Charge Plusによるシミュレーションは、電子軌道やX線フラックス分布を解析し、エネルギー別の指向性を事前に評価することで、品質要求を満たしながら効率的な開発を実現することが可能です。

解析対象および解析手法

解析対象

本解析では、下記の電子銃の真空部分と電子を衝突させるターゲットとなるタングステンをモデリングしております。

図 1 解析モデル

解析対象となるX線の生成過程は、まずフィラメントの先端から電子を放出します。フィラメントとタングステンの電位差で電子が加速し、加速された電子がウェーネルト電極の電界で絞られ、レンズで方向を調整します。そして、ターゲットに到達した時に電子がターゲット原子核近傍で減速し、制動放射としてX線を放出します。
計算過程のイメージは以下の通りです。

図 2 計算過程のイメージ

解析条件

真空のモデルに対し電極電圧と電子放出条件を設定します。電子銃の各部位(フィラメント/ウェーネルト/レンズ)に印可電圧を設定しフィラメントに電子の放出条件を設定して解析を行います。

表1.各部位の印可電圧

印可部位 電圧V
ウェーネルト -1e5 V
レンズ -5e4 V
フィラメント -9.995e4 V

表2.放出源設定

粒子数 10000
スペクトルエネルギー 4eV

解析結果

20~30 keVのエネルギー帯を対象に0.2 nsと0.6 ns時点の電子とX線フラックス密度のコンター図を比較します。0.2 ns時点では放出された電子がターゲットと衝突し、拡散し始めていることがわかります。X線のコンター図では電子が衝突した部分でフラックス密度が高くX線の広がりを確認できます。

図 3 0.2ns時点のフラックス密度

0.6 ns時点では放出された電子の密度は低下しています。これは電子源からの電子放出が終了し、電子がターゲットに衝突後、弾性散乱や非弾性散乱により進行方向が変化して運動エネルギーが減少すること、さらに制動放射を発生させる過程でエネルギーを失い電子の速度が低下することによるものです。

対してX線の方は電子の運動エネルギーが電磁エネルギーに変換されるためフラックス密度が高くなっていることを確認でき、高い密度を持ったX線が右側の取り出し部に向かって放出される様子が確認できます。

図5 電子銃内の電子温度

本解析の効果

本解析では電子とX線フラックス密度の分布を事前に評価できました。X線の指向性と強度の観点で出口方向への集中度を確認し、ターゲット形状やX線取り出し部の設計を見直すことに役立ちます。また、エネルギー帯域ごとのX線強度を解析することで、加速電圧やフィラメント条件を調整し、目的のスペクトルを得る設計が可能です。こういった事前検証により、試作回数を減らし、性能と安全性を両立した効率的な開発を実現できます。

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