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解析事例

光学解析

光ファイバの解析

固有モード、曲げ損失から結合効率まで

光ファイバの解析の概要

解析分野 : 光学、フォトニクス   業界:光通信

こんな方におすすめ

  • 光ファイバの開発者の方
  • 光コネクタの開発者の方
  • 光ファイバを内蔵した光トランシーバの開発者の方
  • 光ファイバを使用するネットワーク事業者の方

解析概要

シングルモードファイバやマルチモードファイバ、フォトニッククリスタルファイバなどの各種光ファイバの固有モードや、ファイバを曲げた際の損失について、Lumerical MODEを用いて解析します。光ファイバとデバイス間の結合については、結合デバイス間に間隙がない場合はLumerical MODE、間隙がある場合はLumerical FDTDで解析を行います。

使用ソフトウェア

Ansys Lumerical (MODE及びFDTD)

背景/課題

光ファイバは、光通信において光信号の伝搬を担うキーデバイスで、用途やスペックなどに応じて様々な種類があります。解析を行う上では、複雑な構造のファイバのモデリングや、解析内容(固有モード、結合効率など)に応じた適切な解析方法の使い分けなどが課題となります。

解析対象

各種光ファイバの固有モード、曲げによる損失、及び光ファイバとデバイス間の結合効率

解析手法

(1)各種光ファイバの固有モード解析(Lumerical MODE)
(2)光ファイバの曲げによる損失の解析(Lumerical MODE)
(3)光ファイバ-デバイス間の結合効率解析(Lumerical MODE及びFDTD)

解析モデル・条件及び結果

(1)各種光ファイバの固有モード解析(Lumerical MODE)
(1)―1 シングルモードファイバ
 図1に、Lumerical MODEで作成したシングルモードファイバのモデルを示します。本モデルはCorning社のSMF-28ファイバ®を模擬しており、コアの屈折率は1.44、クラッドの屈折率は1.434816に設定しました。
 Lumerical MODEで使用可能なFDE(Finite Difference Eigenmode)ソルバでは、解析領域はモデル断面に対して設定され、光ファイバで励起される固有モードを解析可能です。

図1 シングルモードファイバのモデル

図2に、解析の設定画面を示します。波長(図中wavelength)は1.55um、算出するモード数(同number of trial modes)は10としました。探索方法(同search)はnear nとし、use max indexにチェックをつけましたので、今回のモデルにおける最大屈折率(1.44=コアの屈折率)に近い実効屈折率を持つ固有モードを探索します。

図2 固有モード解析の設定画面

図3に解析によって得られたmode #1~10までの各種性能と、mode#1及び#2の電場強度分布を示します。実効屈折率(effective index)や損失(loss)を始めとした各種性能が確認できます。TE偏光フラクション(TE polarization fraction)は、ファイバ断面方向(x,y)の電場成分の内、x方向の電場成分の割合となります。TE/TMフラクション(waveguide TE/TM fraction)は、全方向(x,y,z)の電場/磁場成分の内、ファイバ断面方向(x,y)の電場/磁場成分の割合を示し、100%/100%の場合は純粋なTEMモードということになります。各種性能についての詳細は下記リンクの記事をご参照ください。

https://optics.ansys.com/hc/en-us/articles/360034396734-FDE-solver-analysis-Mode-List-and-Deck

また、電場強度分布からは、mode#1はコア内に強度のピークを持っており、mode#2はコア外に強度ピークを持つことが確認できます。このことから、今回のファイバは、有効モードが一つのみ、すなわちシングルモードであることが分かります。

図3 固有モードの解析結果

また、FDEソルバでは、指定したモードに対する波長スイープ解析も可能です。図4に示すように、mode#1に対して、1.55umから1.65umまで周波数スイープをすると、実効屈折率を始めとした各種性能の周波数依存性や、始点と終点の波長におけるモード分布などの確認が可能です。

図4 波長スイープ解析の設定及び結果

(1)―2 GI(Graded Index)ファイバ
Lumerical MODEでは屈折率分布を式で与えることもできるので、Graded Indexファイバもモデリングし解析することができます。図5は、モデル断面(xy面)、及びObject(ファイバコア)の設定画面となります。赤の点線で示した通り、屈折率を式で定義可能で、この場合の屈折率のイメージも図中に示しております。今回は簡単のため、ファイバコアのみをモデリングしコア径も適当な値に設定しましたが、コア径50um、クラッド径125umとし、OM2~OM5に代表されるようなマルチモードファイバを模擬することもできます。

図5 GIファイバのモデルと屈折率の設定画面

図6にモードの解析結果を示します。mode#10までしか示しておりませんが、算出モード数の設定を変えることで、それ以上の数のモードも解析可能です。mode#1、mode#3の電界強度分布からどちらもコア内に強度のピークを持つ有効なモードであることから、マルチモードとなっていることが分かります。

図6 モードの解析結果

(1)―3 フォトニッククリスタルファイバ
図7に、フォトニッククリスタルファイバのモデル(xy面)と、オブジェクトを管理するオブジェクトツリーを示します。オブジェクト同士が空間的に重なり合う場合は、ツリーの下側にあるオブジェクトが優先されますので、この場合、空孔がない箇所にはクラッドの屈折率が、空孔が存在する箇所には空孔の屈折率が設定されます。

図7 フォトニッククリスタルファイバのモデル

空孔は、手動で一つずつ配置することもできますが、オブジェクトライブラリから構造グループをインポートする方法が効率的です。Lumericalのオブジェクトライブラリには、各種フォトニッククリスタル構造が用意されています。今回は図8に示すように六角形の格子キャビティを使用します。インポートした構造グループは各種設定値を編集可能で、今回の場合、空孔の半径や、間隙、数などの設定ができます。

図8 オブジェクトライブラリと構造グループの設定画面

図9にFDEソルバによる解析の結果を示します。電場強度分布には、空孔などの構造も重ねて表示しています。今回の解析では一つのモードが得られました。

図9 固有モードの解析結果

(2)光ファイバの曲げによる損失解析(Lumerical MODE)
光ファイバは運用時に曲げて扱うことが想定されるため、曲げに伴う損失を把握しておくことも重要です。Lumerical MODEのFDEソルバでは、実際にモデルを変更することなく曲げた際の損失解析が可能です。
光ファイバの曲げ損失の主な要因は、図10に示す通り、①曲げ区間の放射損失と、②曲げ区間と直線区間のモードミスマッチです。以下の例では、シングルモードファイバの解析例を示しますが、(1)でご紹介した他のファイバでも同様の手順で解析を行うことができます。

図10 光ファイバの曲げ損失の要因

FDEソルバでは図11に示す通り、実際にモデルを変更することなく設定画面から曲げの設定が可能です。また、図の通り、LumericalのCAD上でも想定するファイバ形状は確認可能です。下図では想定するファイバ形状を分かりやすくするため、曲げ半径を非常に小さい値に設定していることにご注意ください。

図11 ファイバの曲げ設定と曲げイメージ

まずは、①曲げ区間の放射損失を解析します。図12の通り、曲げ半径を5cm(50,000um)に設定し、曲げた状態での固有モードを解析しました。ロスは0で、シングルモードファイバではこの程度の曲げでは放射損失が発生しないことが分かります。また、続く②の解析のように、図のように基本TEモード(mode#1)を選択しd-cardにモードを保存します。

図12 曲げ区間の固有モード解析

続いて、直線区間における固有モードを算出するために曲げ設定を解除して解析を行います。図13のように基本TEモードを選択の上、Overlap analysisのタブに移動します。左側には直線区間の基本TEモードが、右側にはd-cardに保存したモードをクリックすることで、曲げ区間の基本TEモードの電場分布が表示されます。Calculate Overlapボタンを押すことで、電場分布の空間的な重なりから結合効率が計算されます。今回は99.99%となりほとんど損失が生じないことが分かりました。なお、この損失は曲げ区間から直線区間、または直線区間から曲げ区間への移行1回当たりの損失であることにご注意ください。

図13 直線区間と曲げ区間の基本TEモードのオーバーラップ解析

(3)光ファイバ-デバイス間の結合効率解析(Lumerical FDTD及びMODE)
光ファイバは光の伝送媒体なので、両端の入出力部では他のデバイスとの光結合が必要になります。
(3)―1 光ファイバ-デバイス間に間隙がない場合(Lumerical MODE)
光ファイバとデバイス間に間隙がない、すなわち端面が密着している場合、光ファイバ、デバイスそれぞれの固有モードを解析し、両者の電場分布の重なり具合から結合効率を算出可能です。
今回は光ファイバとエッジカプラ間の結合効率解析について解説します。図14に、モデルを示します。エッジカプラの構造の詳細や、結合後のエッジカプラ内の伝搬解析については、本稿においては説明を割愛します。ご興味がある方は下記リンクの記事をご参照ください。

https://optics.ansys.com/hc/en-us/articles/360042305354-Edge-coupler

図14 光ファイバとエッジカプラのモデル

解析手順としては、まずは結合部の光ファイバ側の端面、エッジカプラ側の端面、両方に対して固有モードを算出した後、オーバーラップ解析により結合効率を解析します。
まず、光ファイバ側の固有モードを解析後、図15のように基本TEモードを選択してd-cardに保存します。

図15 光ファイバの固有モード解析

続いて、エッジカプラ側の固有モードを解析し、図16のように基本TEモードを選択の上、Overlap analysisのタブに移動します。左側には選択したエッジカプラの基本TEモードの電場分布が、右側には先ほどd-cardに保存した光ファイバの基本TEモードの電場分布が表示されます。Calculate Overlapボタンを押すことで、電場の重なりから結合効率が計算されます。今回は約93%の効率となりました。

図16 オーバーラップ解析

(3)―2 光ファイバ-デバイス間に間隙がある場合(Lumerical FDTD)
光ファイバとデバイス間に間隙がある場合、間隙が数十um程度までであればFDTDによる解析が有効です。FDTDでは解析空間を細かいセルに分割し、各セルにおいてマクスウェル方程式を解いていきますので、モデル形状の自由度が高く、かつ光の電磁波としての振る舞いを解析可能です。したがって、間隙だけでなく、ファイバに傾きがある場合の解析にも有効な他、界面反射や反射光との干渉による結合損失まで考慮した解析が可能となります。
今回はシングルモードファイバ間の結合効率の解析を行います。図17に、モデルを示します。Port1、Port2は、共に特定のモードを励起するモード光源、特定のモードに対する透過率などを観測するポートモニタの両方の機能を備えています。今回は基本TEモードを指定し、波長は1550nmに設定します。

図17 Lumerical FDTDで構築したモデル

図18に、ファイバ間の間隙を変えたときの、結合効率の変化を示します。

図18 結合効率のファイバ間隙依存性

また、FDTDでは解析前にモニタを配置しておくことで、解析後に図19のような空間電場分布も確認可能です。界面反射の影響で、干渉縞が現れていることが分かります。

図19 空間電場分布

今回は、デバイス間の間隙が数十umの場合の解析についてご紹介しましたが、間隙がそれ以上になる場合は、デバイス間の光の伝搬をZemaxなどの伝搬解析ソフトウェアで解析を行う方が効率的となります。

まとめ

シングルモードファイバ、マルチモードファイバ、およびフォトニッククリスタルファイバにおける固有モードの解析、曲げ損失、そしてデバイスとの結合効率について、Ansys LumericalのMODEやFDTDを用いた解析方法について紹介しました。各セクションでは、解析の設定、実行方法、そして得られた結果について詳しく説明しており、特に光ファイバや光コネクタの開発者、光ファイバを内蔵した光トランシーバの開発者、光ファイバを使用するネットワーク事業者の方々にお役立ていただけると考えております。

本解析の効果

  • 各種光ファイバの固有モード解析を効率的に行うことができます。
  • 複雑な構造の光ファイバでも比較的短時間にモデリングが可能です。
  • 光ファイバとデバイス間の結合効率を、場合に応じた適切な方法で解析できます。

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