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解析事例

電磁界解析

磁界共振型ワイヤレス給電モデルの解析

磁界共振型ワイヤレス給電モデルの解析の概要

こんな方におすすめ

  • 電子機器のワイヤレス給電システムの設計を行っている方
  • 電気自動車の給電システムの設計を行っている方
  • 電力アプリケーションの検討を行っている方

解析概要

ISM(Industrial,Scientific and Medical Band)帯である MHz 帯の周波数を使用した電力伝送によって、送受電間の距離を離した状態での伝送が可能と考えられています。
本事例では、2007 年に米国マサチューセッツ工科大学による磁界共振によるエネルギー伝送の研究発表※1の内容を参考に、Ansys HFSS でモデル化、さらに電磁界解析と Ansys Nexxim の回路解析を連成させた総合的な磁界共振型ワイヤレス給電モデルの評価をご紹介いたします。

※1 引用文献:A. Kurs, A. Karalis, R. Moffatt, J. D. Joannopoulos, P. Fisher, and M. Soljačić, “Wireless power transfer via strongly coupled magnetic resonances,” Science (80-. )., vol. 317, no. 5834, pp. 83-86, 2007

使用ソフトウェア

Ansys HFSS 
Ansys Nexxim

背景・課題

電気自動車における充電作業では接触充電が主流ですが、充電機器の設置やケーブルのハンドリング、メンテナンス性など、その課題も指摘されています。
また、リチウムイオン電池などの研究も盛んに行われていますが、エネルギー密度に関して飛躍的に増加させるのは難しいとされています。
それら充電作業の簡素化や利便性、またケーブルなどの接続なしで、さらに走行中などに充電作業を意識せずに行う技術として、ワイヤレス電力伝送技術が注目を集めています。
但し、ワイヤレス電力伝送システムにも課題は存在し、その主要な一つとして伝送距離の短さが挙げられます。
電気自動車への給電を考えた場合、自動車の最低地上高以上の間隔での給電が必須となるため、ある程度の距離においても効率的な充電システムが求められます。その課題に対して解決策として期待されるのが、ISM の MHz 帯を利用した磁界共振型ワイヤレス給電システムです。
電磁誘導方式に比べて長い電力伝送距離を実現し、コイル間の位置ズレにも強いという特長を持ちます。

解析手法

磁界共振型は、2 つのコイルを「共振器」として利用します。
一方のコイルに特定の周波数で電流が流れることで発生した磁場の振動がもう一方のコイルに伝わり、電磁誘導で電流が流れることで電力伝送を可能にします。
本解析で実施する磁界共振型ワイヤレス給電システム※1の概要図を図1に示します。
送受信コイルは共振コイルと、その共振コイルと誘導結合によって送電と負荷に接続される給電/受電コイルから構成されます。
このシステムを Ansys HFSS でモデル化し、送受信ポート間の S21 から効率を算出します。
また、Ansys HFSS の電磁界の解析結果を Ansys Nexxim の回路解析と練成することで、実際に信号を印加した場合の信号の伝送の様子を確認します。

図1.磁界共振型ワイヤレス給電システム概要図※1

解析モデル

図2に解析モデルを示します。
解析モデルは、先に示した図1のシステムを Ansys HFSS でモデル化したものです。
システムは Tx:送信と Rx:受信を担うコイルから構成されます。

図2.Ansys HFSS 解析モデル

コイルは全て銅を材料として定義しています。
また、それぞれの給電ポートには Lumped Port を設定しています。この給電ポート間の S21 特性から、効率として Efficiency = (|S21|^2)*100 を算出しています。

解析条件

0Hz~50MHz までの周波数スイープの解析で求められる送受信コイル間の S21 特性から効率を算出します。
その際、送受信コイル間の距離をパラメータとしてパラメトリック解析を行うことで、コイル間の距離と効率の関係を評価し、安定した効率が得られる距離の電磁界解析の結果と回路解析を練成して信号の伝送の様子を確認します。

解析結果

先ず、図3に送受電コイルのインピーダンス特性を示します。

図3.送受信コイルのインピーダンス特性

この結果から、共振周波数は約 10.5MHz 付近に存在することが分かります。
次に、送受信コイルを同軸上に配置し、送受信コイル間の距離をパラメータとして効率の評価を行いました。
図4に解析結果を示します。
距離を 300mm、600mm、700mm、800mm と変えた場合の S21 から計算された効率のプロットです。
この結果から、送受信コイル間の距離が近い場合、共振コイル間の結合が強くなり、双峰特性と言われる共振周波数が 2 つのピークに分裂する現象が観測されます。
従って、今回のモデルでは安定的に共振周波数で結合できる臨界点は、800mm と判断しました。
送受信コイル間の距離が 800mm での効率のピークは、周波数が 10.6MHz で 74%という結果が得られています。

図4.送受信コイル間の距離と伝送効率

図5に送受信コイル間の距離が 800mm で、周波数が 10.63MHz の場合の磁界強度、電界強度分布を示します。

図5.送受信コイル間が 800mm、周波数 10.63MHz での磁界強度/電界強度分布

共振によって送受信コイルそれぞれの近傍に高い磁界分布、電界分布が発生していることが確認できます。

最後に、Ansys HFSS での電磁界解析の結果による電磁場モデルと Ansys Nexxim の回路解析との練成結果についてご紹介いたします。
ワイヤレス電力伝送では、伝送する MHz 帯の高周波信号から直流出力を取得します。
そこで、図6に示すように Ansys Nexim で簡単なダイオードによる半波整流回路を構成し、Ansys HFSS の電磁界解析の結果を練成することで、ワイヤレス電力伝送システムによる直流出力電圧の状態を評価しています。

図 6.半波整流電力伝送システム回路

入力信号を 100Vp-p@10.63MHz とした場合の解析結果を図7に示します。

図7.回路解析の結果

以上のように、Ansys Nexxim の過渡解析で、送受信コイルの電磁場モデルを含めた電圧波形を確認することが出来ます。
今回の解析では、 ダイオードを介して半波整流された DC 電圧を確認しました。
このように、Ansys HFSS の電磁場モデルと Ansys Nexxim の回路解析を練成することで、給電システムの挙動予測にご利用いただけます。

本解析の効果

Ansys HFSS、Ansys Nexxim による磁界共振型ワイヤレス給電モデルの解析についてご紹介いたしました。
こちらでご紹介いたしましたように、共振コイルの設計や効率評価はもとより、今回の解析結果のように共振器が近接した際に発生する双峰特性により、搬送周波数での出力値が、臨界点(800mm)に比較して低くなるというリスクなどを事前に把握するため、ワイヤレス給電システムの設計において、共振器の電磁界解析での検討は非常に有用と考えます。
さらに回路シミュレーションと電磁場モデルの練成解析により給電システムの検証などにご活用いただけると期待しております。
以上のように、Ansys HFSS、Ansys Nexxim で効率的な設計検討にお役立ていただけると考えております。

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