解析事例
高周波RF/マイクロ波コンポーネントにおける マルチパクション解析
高周波RF/マイクロ波コンポーネントにおける マルチパクション解析の概要
こんな方におすすめ
- 高真空領域で使用されるRF/マイクロ波コンポーネントの設計を行っている方
- 航空宇宙関連システムのRF/マイクロ波コンポーネントの設計を行っている方
- 航空宇宙関連でのアプリケーション開発を行っている方
解析概要
真空中において、高周波電界の影響によって電子が加速して金属などの表面に衝突、この電子のエネルギーに応じて、1つ以上の電子が二次電子として真空中に放出されます。
マルチパクションは発生する二次電子が交流電界と共振して、指数関数的な電子の増加を引きおこす現象です。
本事例では、Ansys HFSS を使用したマルチパクション解析についてご紹介いたします。
マルチパクションは発生する二次電子が交流電界と共振して、指数関数的な電子の増加を引きおこす現象です。
本事例では、Ansys HFSS を使用したマルチパクション解析についてご紹介いたします。
使用ソフトウェア
Ansys HFSS
背景・課題
マルチパクションは、電子の共振増加による真空デバイス中の電子増加の現象です。
電極間の距離が電子の平均自由工程より長い場合、電界中で一方の電極から高周波のある位相で出発した電子がその半周期または、その奇数倍の時間で相対する電極に到着します。(図1)
その時の電子が電極表面の二次電子放出係数が1以上になる程充分なエネルギーをもっていた場合、放出される二次電子は増加し続けてマルチパクション現象を引き起こす可能性があります。
マルチパクションが持続するのは高真空の環境、特に宇宙環境や、高エネルギー粒子加速器でなどで使用されるRF/マイクロ波コンポーネントで、より高い電力レベルで動作させるとマルチパクションによるシステム障害が発生し、重大な故障を引き起こす可能性が指摘されています。
電極間の距離が電子の平均自由工程より長い場合、電界中で一方の電極から高周波のある位相で出発した電子がその半周期または、その奇数倍の時間で相対する電極に到着します。(図1)
その時の電子が電極表面の二次電子放出係数が1以上になる程充分なエネルギーをもっていた場合、放出される二次電子は増加し続けてマルチパクション現象を引き起こす可能性があります。
マルチパクションが持続するのは高真空の環境、特に宇宙環境や、高エネルギー粒子加速器でなどで使用されるRF/マイクロ波コンポーネントで、より高い電力レベルで動作させるとマルチパクションによるシステム障害が発生し、重大な故障を引き起こす可能性が指摘されています。
解析手法
マルチパクション解析のワークフローを図2に示します。
先ず、周波数ドメインの解析でマルチパクションのトリガーとなる電磁場の状態を解析するためのデザインを準備します。
次に、真空の領域に対して、存在する電子の状態を、真空の領域に接する材料表面に二次電子放出に関する条件を境界条件で付与し、周波数ドメインの解析結果による電磁場の状態を用いたマルチパクションの解析により入力電力に対する電子の増加の状態を評価、さらに電子が増加してマルチパクションが発生する可能性のある入力電力の閾値を自動で探索して結果を表示します。
先ず、周波数ドメインの解析でマルチパクションのトリガーとなる電磁場の状態を解析するためのデザインを準備します。
次に、真空の領域に対して、存在する電子の状態を、真空の領域に接する材料表面に二次電子放出に関する条件を境界条件で付与し、周波数ドメインの解析結果による電磁場の状態を用いたマルチパクションの解析により入力電力に対する電子の増加の状態を評価、さらに電子が増加してマルチパクションが発生する可能性のある入力電力の閾値を自動で探索して結果を表示します。
解析モデル
図3に解析モデルを示します。
解析モデルは中心導体と外部導体、間に真空層を有する同軸形状のモデルです。
内部導体と外部導体はアルミニウム、その間の空間は真空と定義しています。
解析モデルは中心導体と外部導体、間に真空層を有する同軸形状のモデルです。
内部導体と外部導体はアルミニウム、その間の空間は真空と定義しています。
1.真空領域に対して電子の状態を定義する Multipaction Charge Region を設定します。(図4)
ここでは、粒子の数、電荷量、電荷の質量、電荷の速度などを設定します。
これら全てのパラメータは既定値として設定されています。
粒子の電荷は電子1個の電荷である-1.60217662e-19C、質量は静電荷の質量である9.10938356e-31kgが設定されています。
また、静電荷であるため、[x]、[y]、[z]のParticle velocityは0 m/s に設定されています。
2.真空領域と接する電子が反射する金属導体表面に二次電子放出に関する SEE(:Secondary Electron Emission) Boundaries を設定します。(図5)
これら全てのパラメータは既定値として設定されています。
粒子の電荷は電子1個の電荷である-1.60217662e-19C、質量は静電荷の質量である9.10938356e-31kgが設定されています。
また、静電荷であるため、[x]、[y]、[z]のParticle velocityは0 m/s に設定されています。
2.真空領域と接する電子が反射する金属導体表面に二次電子放出に関する SEE(:Secondary Electron Emission) Boundaries を設定します。(図5)
二次電子放出係数(SEY:Secondary Electron Yield)曲線は、表面に衝突した電子から生成される二次電子の数を示す特性で、エネルギーに対する二次電子の放出率を確認することが出来ます。SEY曲線は、SEE の設定内容から生成されます。
ここで、Alpha Max は SEY曲線の Y軸のMax値で、使用する材料に対する値を定義します。
今回はアルミニウムを使用していますので、2.98を設定しています。
SEYは一次電子の衝突エネルギーに依存し、E1とE2の間のエネルギーEmで最大値(Alpha Max)に達します。
ここで、Alpha Max は SEY曲線の Y軸のMax値で、使用する材料に対する値を定義します。
今回はアルミニウムを使用していますので、2.98を設定しています。
SEYは一次電子の衝突エネルギーに依存し、E1とE2の間のエネルギーEmで最大値(Alpha Max)に達します。
3.解析設定
図6にMultipaction Analysis Setupの設定ウィンドウを示します。
先ず、ソリューション設定と周波数スイープを設定し、次に周波数スイープにマルチパクション解析の設定を追加します。
Solve for lower power threshold にチェックを入れることで、マルチパクションが発生する入力電力の下限閾値を自動で探索します。
Setup Link ではマルチパクション解析で電磁場の状態を参照する周波数ドメインの解析デザインをリンクしています。
図6にMultipaction Analysis Setupの設定ウィンドウを示します。
先ず、ソリューション設定と周波数スイープを設定し、次に周波数スイープにマルチパクション解析の設定を追加します。
Solve for lower power threshold にチェックを入れることで、マルチパクションが発生する入力電力の下限閾値を自動で探索します。
Setup Link ではマルチパクション解析で電磁場の状態を参照する周波数ドメインの解析デザインをリンクしています。
解析条件
周波数1GHzでマルチパクションが発生する入力電力の下限閾値を求めます。
解析結果
図7に解析結果を示します。
それぞれの入力電力で発生する電子増加数の時間推移を示したものです。
電子の増加傾向を示すプロットの結果から、入力電力が 664.062W がマルチパクション発生の下限閾値ということができます。
500W、525W、656.25Wでは電子は減少傾向にあり、マルチパクションは発生しないと判断されます。
それぞれの入力電力で発生する電子増加数の時間推移を示したものです。
電子の増加傾向を示すプロットの結果から、入力電力が 664.062W がマルチパクション発生の下限閾値ということができます。
500W、525W、656.25Wでは電子は減少傾向にあり、マルチパクションは発生しないと判断されます。
この結果のサマリーはProfileのMultipactionタブから確認することもできます。(図8)
この結果からも、664.062Wでマルチパクションが発生することが示されています。
また、メッセージマネージャでマルチパクションに対する最小電力の閾値をご確認いただけます。
この結果からも、664.062Wでマルチパクションが発生することが示されています。
また、メッセージマネージャでマルチパクションに対する最小電力の閾値をご確認いただけます。
次に、時間に対する電子の増加の様子を示したプロットを図9に示します。
この結果から、時間変化に対して電子の増加が顕著な箇所などを確認します。
この結果はアニメーションで時間に対する電子の増加の様子を確認いただくことも可能です。
この結果から、時間変化に対して電子の増加が顕著な箇所などを確認します。
この結果はアニメーションで時間に対する電子の増加の様子を確認いただくことも可能です。
本解析の効果
Ansys HFSSによる真空領域でのマルチパクション解析についてご紹介いたしました。
こちらでご紹介したように、部品交換や修理を行うことが困難な宇宙空間などで使用されるRF/マイクロ波コンポーネントに対して真空領域でのマルチパクション解析を実施することで、ノイズ混入や誤動作によるシステム・エラーの回避につながることを期待しております。
このように、Ansys HFSSで効率的な設計検討にお役立ていただけると考えております。
こちらでご紹介したように、部品交換や修理を行うことが困難な宇宙空間などで使用されるRF/マイクロ波コンポーネントに対して真空領域でのマルチパクション解析を実施することで、ノイズ混入や誤動作によるシステム・エラーの回避につながることを期待しております。
このように、Ansys HFSSで効率的な設計検討にお役立ていただけると考えております。