解析事例
低流量領域のポンプの性能特性と非定常解析
こんな方におすすめ
- ポンプの性能を把握したい方
- ポンプのトラブルを改善したい方
- ポンプの高効率化を検討したい方
はじめに
ポンプ、コンプレッサー、タービン、ファンといった流体機械はエネルギー産業において不可欠なものであり、その設計には流体解析はかかせません。昨今は環境規制や省エネの観点から、さらなる高効率化や低騒音化が求められております。従来、ポンプやコンプレッサー、ファンなどは流れが安定している設計ポイントでの運転が求められておりましたが、今後は高効率化の観点から流れが不安定になる低流量側まで含めた広範囲の運転が求められます。低流量側ではサージングや旋回失速などが起き、流れが不安定になることが知られております。
ポンプの性能や不安定現象を流体解析で把握!
高効率かつ広範囲の運転領域を実現するためには、まずは低流量側でおきるサージングなどの不安定現象を把握する必要があります。本事例は流体解析を用いてポンプの性能曲線と低流量側の現象を非定常流体解析で再現した事例です。流体解析を行うことでポンプ内部の流速や圧力分布を可視化することができ、ポンプ内部の様子を把握することができ、今後の設計に役立てることができます。
定常流体解析を用いたポンプの性能曲線
ポンプの性能を表す場合、一般に流量と全揚程、動力または効率であらわします。この章では定常解析で得られた結果を示します。図1に定常解析の解析モデルと回転数を示します。解析モデルはインペラとベーンディヒューザーで成り立っております。
Ansys CFXを用いて、定常解析を行い、得られた流量[kg/s]と全揚程(ヘッド[m])の関係、および流量と効率の関係の図2に示します。乱流モデルはSSTを使用しました。図2より、流量が130 kg/s付近が最大効率かつ設計ポイントとなり、低流量側では全揚程が流量に対して増加する右上がり不安定特性がみられます。
図3に低流量側 30 kg/sと高流量側 130 kg/s のインペラ付近の流速ベクトルを示す。高流量側はインペラの形状にそって流体が流れていますが、低流量側はインペラの形状にそっておらず、剥離や渦が生じていることがわかります。これが低流量側で不安定になる原因とで考えられます。このように流体解析を行うことでポンプの性能をあらかじめ把握することができます。
前章ではポンプの定常解析結果を紹介し、ポンプの性能
曲線や低流量の場合、インペラ付近で剥離や渦が発生し、流れが不安定になることを紹介しました。本章では低流量側、高流量側で非定常解析を行い、流れ場や脈動について現象を確認します。非定常解析は乱流モデルとしてLES Dynamic Modelを用いて行いました。図4に渦度の時間変化のアニメーションを示します。
高流量の場合、インペラ付近にはインペラの下流側を除いて特に目立った渦は生じていません。しかし、低流量の場合、インペラ付近に渦が生じており、それが非定常運動をしていることがわかります。これが、低流量側で流れが不安定になる原因と考えられます。
図5に圧力分布を示します。低流量の場合のほうが後流量の場合に比べて強い圧力変動が生じているのがわかります。渦の運動に起因して低流量側で大きな圧力変動が生じていると考えられます。
図6に流出面側の圧力履歴を示します。低流量側では、後流量側に比べて圧力変動の振幅が大きくなることがわかります。このように非定常計算を行うことで、低流量側と後流量側での現象の違いや不安定現象を把握することができます。
終わりに
本事例ではポンプの定常解析による性能評価および低流量側と後流量側における非定常解析を実施した例を紹介しました。定常解析ではポンプの運転領域における高流量側では流れがインペラ付近で剥離しないため安定すること、低流量側ではインペラ付近で流れが剥離するため、不安定になることがわかりました。非定常解析では後流量側では流れが剥離しないため、大規模な渦が発生せず、圧力変動が小さいのに対し、低流量側では流れの剥離で発生した渦が非定常運動し、脈動を発生することを確認することができました。このように定常および非定常の流体解析を行うことでポンプの性能把握や現象を確認することができるため、流体解析はポンプの改良や開発に役立てることができます。また、今までは解析コストと計算マシンスペックの問題から定常解析がメインでしたが、昨今は計算マシンの性能向上により、非定常解析も現実的に可能になってきており、ポンプの不安定現象の解明、その対策および改良に役立つものと考えられます。
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