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解析事例

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複合材の構成材料の物性値を逆解析により同定する手法 2

樹脂や繊維の物性値を複合材の3点曲げ結果からMultiscale.Simと逆解析を用いて同定

はじめに

ガラス繊維や炭素繊維で強化された繊維強化複合材料は、高い比強度および比剛性を持つことから、特に構造物の軽量化に大きく貢献し、様々な分野において利用されています。しかし、これら複合材料は強化剤と樹脂の比率・種類・形状などをコントロールすることによって様々な物性値を持たせることができるために、様々な種類の複合材料が存在し、鋼材のような規格や材料データベースが存在しないのが現状です。また、複合材料やそれに使用されている繊維および樹脂の材料特性は一般に公開されていないことが多く、解析を実施する際の障害となることが多々あります。

 

そこで「最適化手法を用いたリバースエンジニアリング①」では、既知の複合材料の材料物性値を基に、繊維の材料物性値を同定する解析をご紹介させていただきました。しかし、場合によっては実機による複合材料の材料試験が実施できず、複合材料自体の材料物性値が取得できない場合もあります。そこで、本稿では複合材料から成るパイプ(製品レベル)の実機による3点曲げ試験結果から、複合材料に使用されている繊維の材料物性値の同定を実施しました。

解析の目的と概要

本解析では複合材料に使用されている樹脂の材料物性値が既知であり、繊維の材料物性値が未知の場合に、実機のパイプの3点曲げ試験結果からリバースエンジニアリング(逆解析)により繊維の材料物性値を同定することを目的とします。
具体的には、均質化手法を用いたマルチスケール解析ソフトであるMultiscale.Simの線形均質化機能を用いて、繊維のヤング率及びポアソン比を変数として、複合材料の異方性弾性物性値を求めます。次いで、求めた複合材料の物性値を使用してパイプの3点曲げ試験を解析により実施します。この時、実機によるパイプの3点曲げ試験結果より得られた応力ひずみ曲線と、解析より得られた応力ひずみ曲線とが一致するように繊維のヤング率及びポアソン比をAnsys DesignXplorerを用いた最適化計算により同定します。

解析手法

図1 ミクロモデルの形状

図2 3点曲げ試験概要

本解析で用いる複合材料は、ミクロモデルとして図1に示すような繊維の体積含有率50%の一方向強化材料を対象とします。また、パイプの3点曲げ試験(マクロモデル)について図2に示します。複合材料の積層構造としてはパイプ軸方向を0度方向として、[0、45、-45、90、-45、45、0]とします。また、既知である樹脂の材料物性値を表1示します。
なお、本稿では実機によるパイプの3点曲げ試験については実施できなかったため、表2に示す繊維の材料物性値を用いてMultiscale.Simの線形均質化機能を用いて複合材料の物性値を算出し、これを用いてパイプの3点曲げ試験解析を実施してこれを実機によるパイプの3点曲げ試験結果として代用しました。つまり、最適化の結果表2に示す物性値が最適値として計算されれば精度よく最適化ができたと判断できます。
解析設定としては図3に示すようにA、B、Cのシステムを構築します。システムAはMultiscale.Simを使用した線形均質化解析、システムBは3点曲げ解析、システムCはDesignXplorerによる最適化解析です。まず、システムAでは繊維のヤング率およびポアソン比を入力変数としてMultiscale.Sim均質化解析を実施し、複合材料1層の異方性弾性物性値を計算します。次にシステムBではシステムAで求めた複合材料の物性値を使用してパイプの3点曲げ試験を実施します。ここではポストプロセスにおいて圧子の反力を取得し、実機による試験の荷重結果データとの差分E(最適化における評価関数)を計算します。ここでの評価関数は下式を用います。
ここでnは試験のデータ点数、F_iおよびF ̂_iは実機試験および解析の第i番目の荷重結果です。なお、この計算については標準機能では対応しないためコマンド挿入を用いて計算し、出力パラメータとしています。最後にシステムCにおいて最適化の設定を実施します。ここでは直接最適化を実施すると計算回数が多くなり解析コストが増大する可能性があることから応答局面最適化を採用します。上述したように繊維のヤング率およびポアソン比を入力変数、(1)式を評価関数として応答局面を作成し、応答局面から最適値の候補を算出します。

図3 プロジェクト概念図

解析結果

得られた応答局面を図4に示します。横軸が繊維のヤング率[Pa]とポアソン比で、縦軸が(1)式の評価関数値です。図より、ヤング率の感度に比べてポアソン比の感度が非常に低いことが分かります。応答局面最適化の結果としては、ヤング率7.2424e10[Pa]でポアソン比が0.20088となり、表2で示した繊維の材料物性値とほぼ同様の値となっていることが確認でき、最適値が探せたという判断ができます。
今回は物性値が予め分かっていたので、物性値の範囲もある程度絞った状態で実施することができました。実際には、まず広範囲において今回作成したような応答局面を作成し、次に狭い範囲において応答局面最適化もしくは直接最適化を実施するのが良いと考えます。

図4 ヤング率およびポアソン比の応答局面

使用ソフトウェア

Ansys Workbench Mechanical 2020R1
Multiscale.Sim 2020R1

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