解析事例
超音波複合振動溶接機の圧電解析
超音波トランスデューサの構造-電場ダイレクト連成解析
資料提供元:株式会社 LINK-US様
こんな方におすすめ
- 超音波トランスデューサの先端の形状を設計される方
- 検討段階での試作・実験を最小限に抑えたい方
超音波トランスデューサはパワーデバイス等の同種、あるいは異種金属間の接合をするためのアプリケーションとして、幅広く利用されています。動作原理は圧電体で超音波振動を発生させ、励振された振動子を接合対象物に押し付けることで接合させます。
一般的に、振動子の振動は圧電体の振動をそのまま振動子に伝えるため、直線的な振動を利用するものが主に利用されています。しかし、直線振動の場合、近接している接合部と干渉する或いは特定の方向に剥離し易いなどの現象が生じることがます。
株式会社LINK-USでは、圧電体によって励振された振動を、先端形状を工夫することによって回転運動に変換し、振動子を直線運動から回転運動に変換するように設計されています。これにより、隣接部への干渉を極力減らし、どの方向からも剥離しにくい接合を実現させています。
図1 一般的な超音波トランスデューサのイメージ
解析の目的・背景
超音波トランスデューサの先端の形状を設計するにあたり、試作品の製作や実験による測定など、多くの費用と時間が必要となります。そこで、Ansysを利用して事前検証することで、検討段階での試作・実験を最小限に抑えることが可能となります。また、実測では難しい駆動時の応力値の測定も解析では容易に行えるため、疲労寿命予測など、検討の幅を広げることも可能です。
解析手法
本解析では、Ansys Workbench
Mechanicalを利用して、圧電周波数応答解析を実施します。圧電解析を行う際、一部コマンドでの処理が必要になりますが、サイバネットシステムが無償提供しているPiezoPro(圧電解析用の拡張キット)を利用することで、標準メニュー(コマンドレス)と同様の操作感で圧電解析を行うことができます。
Ansys ではダイレクト連成解析に対応した連成場要素(Plane223、Solid226/227)が搭載されており、PiezoProでは内部的にこれらの要素を使用して解析を実施しています。
解析モデルと解析条件
解析モデルとメッシュ
解析モデルとメッシュ形状を図3に示します。圧電体によって軸方向に直線振動を発生させますが、先端部分にスリットを入れることで振動子が回転運動するように設計されています。
図3 解析モデルとメッシュ
解析条件
実際の駆動条件を再現できるように解析条件を設定しています。図4(左)に示す通り、圧電体には矢印のように分極を配置して電位を定義しています。また、構造の拘束条件としては図4(右)の赤線部の変位自由度を拘束しています。また、各パーツ間はボンド接触(固着条件)で表現しています。
図4 境界条件
解析結果
入力周波数による先端の変位振幅および位相情報を取得することができます。この情報からExcel等を使用して軌跡図を描くことも可能です。また、スリットを入れたことによる影響として、先端の回転運動を生じさせている振動モードをアニメーションで確認することができます。実測が困難であった現象を解析で確認することにより、多角的に設計へのフィードバックが可能となります。
図5 先端の変位応答とモデル全体の変形図
また、試作・実験とは異なり、解析であれば先端のパーツだけを入れ替えて再計算させることは容易です。図6のように異なる形状による応答の違いを検証することができ、事前に幅広い設計案を検討することが可能となります。
図6 先端スリット形状のパターン
実測が難しい応力分布についても、解析では容易に確認することができます。各ポイントで1周期分の結果を取得し、位相内で最大となる応力値でコンター図を描くことも可能です。あらゆる箇所の最大応力値を確認することでき、疲労評価を行う際にも大変有効な結果情報となります。
図7 相当応力分布