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解析事例

磁場解析と連携したモータ騒音解析

こんな方におすすめ

  • 構造・音響解析を連携したモータの騒音を解析したい。
  • 振動により音がどう伝播していくかを確認したい。

近年、車両の電動化に伴いNVH(Noise騒音・Vibration振動・Harshnessハーシュネス)への要求が厳しくなってきており、モータの騒音についての関心が高まっています。
本解析では、Ansys Maxwellによるモータの磁場解析と、Ansys Mechanicalによる構造・音響解析を連携したモータの騒音解析をご紹介します。

解析の目的・背景

今回の解析では、IPMモータにどのような励振力が働き、どのような振動が発生するかを調べた上で、振動により音がどう伝播していくかを確認します。磁場→構造(振動)→音響と3つの解析を伴いますが、Ansysでは各解析をリンクするだけでデータ転送でき、簡単に解析できます。また、Ansysは音響解析結果を音声(WAVファイル)で出力する機能を備えており、モータ音を耳で聴いて確認することができます。まずは実際に出力した音声をお聞きください(動画1)。これはモータの回転速度が上昇していく過程で発生する騒音を音響解析で計算し音声ファイルに出力したものです。


(動画1)モータ騒音の音声ファイル出力結果

解析手法

Ansys Maxwellで2次元の過渡磁場解析を実施し、ティース表面に働く吸引力を求めます。吸引力はロータの回転に伴い過渡的に変化しますので、解析で得られるのは時系列データとなります。Ansys Maxwellには時系列データを自動的にFFT(高速フーリエ変換)で周波数ドメインに変換する機能が備わっており、構造の周波数応答解析とリンクすると周波数ごとに分解した荷重として引き渡すことができます(図1)。転送した励振力を利用して周波数応答解析(振動解析)を実施します。最後に音響解析(音響周波数応答解析)を実施します。モータ周囲の空間をモデル化し、モータ表面に振動解析で得られた周波数ごとの表面速度を転送し、音の伝わりを解析します。


(図1)解析フロー

磁場解析

Ansys Maxwellを用いて過渡磁場解析を実施します。

磁場解析

解析は2次元で実施しています。周期対称境界を用いて1/4対称モデルとしています。メッシュを(図2)に示します。


(図2)メッシュ図

解析条件

1500rpmで回転するように三相交流の電流を入力しています(図3,4)。複数の回転速度をまとめて計算することも可能ですが、まずは単一の回転速度で計算してみます。


(図3)入力電流

(図4)各コイルの電流の向き

得られた吸引力を後続の振動解析に用いるため、ティース表面に働く吸引力を出力するように設定しておきます(図5)。


(図5)吸引力を後続の解析に引き渡す設定

解析結果

得られた解析結果を以下に示します(動画2,3、図6)。モータは1/4対称モデルで表現していますが、モデル化していない残り3/4の部分も時間差を経て同様の結果となりますので、モータ全体で考えると1回転あたり4回同じ現象が発生します。このモータは1500rpm(=25Hz)で回転するように設定しましたので、電気的には25Hzの4倍、すなわち100Hzで振動していることになります。


(動画2)解析結果:磁束密度


(動画3)解析結果:吸引力密度分布

(図6)誘起電圧とトルク

振動解析(周波数応答解析)

Ansys Maxwellで得られた吸引力を周波数応答解析に荷重として渡し、振動状態を解析します。

解析モデル

ここでは簡単化してステータをハウジングのみ3Dでモデル化しています(図7)。


(図7)振動解析用モデル

解析条件

4つの穴を固定し、ティース表面に磁場解析で得られた吸引力をマッピングして励振します(図8)。
前述のとおり、磁場解析の結果は時系列データですが、Ansys Maxwellは自動的にFFTを実行し周波数ごとに実部・虚部で表される荷重に変換します。なお磁場解析は2次元でしたが、自動的に3次元に拡張しマッピングされます。


(図8)マッピングされた吸引力

解析結果

ハウジング表面のX方向およびZ方向変位振幅を示します(図9)。
100Hz、1100Hzおよび2000Hzで特に大きな振幅が生じていることが確認できます。


(図9)解析結果:振幅(変位)

これらの周波数における変位コンター図を示します(図10)。位相角はいずれも0度、変形は適宜強調表示しています。100Hzは前述のとおりモータの電気的な振動の周波数ですので、ロータの吸引力に応じた変形が生じている様子が観察できます。また、100Hzの整数倍値(200Hz, 300Hz…)でも大きな振動が励起されていることがグラフから読み取れます。1100Hzおよび2000Hzが突出しているのは、構造物がもつ固有振動数とモータの回転により発生する振動が共振しているのが原因です。電気的な解析だけでは共振は発見できませんので、構造物も含めた解析が必要であることがわかります。


(図10)解析結果:振動モード

音響解析

周波数応答解析で得られた物体の表面速度を荷重として引き渡し、周波数応答音響解析を実施します。

解析モデル

音響解析では音が伝わる媒質(空気)のみをモデル化しています。空気は2層にわけてモデル化しています。外側はPML層(完全整合層、Perfect Matching Layer)です。PML層は無限開放領域としての役割を果たすもので、これによりメッシュを作成していない遠距離場の結果も評価できるようになります(図11)。


(図11)音響解析用モデル

解析条件

物体と触れる面に対して、振動解析で得られた物体の表面速度をマッピングします(図12)。また、PML層の外側には音響的にソフトな境界条件(圧力ゼロ)を定義しています。


(図12)表面速度のマッピング結果

解析結果

(動画4)に1100Hzでの音圧レベルを示します。ここではアイソサーフェス(等値面)表示を行っています。このように音響解析により音の強さや伝播する方向を可視化することができます。


(動画4)解析結果:音圧レベルのアイソサーフェス表示

無限境界を定義した音響解析では、メッシュのある/なしに関わらず、任意の位置にマイクを立てて、その位置における音圧レベルなどを表示できます。
(図13)で示した位置における音圧レベルの結果を見てみると、モータの回転周波数(100Hz)よりも、その整数倍(300Hz、400Hz・・・)で高い値が出ており、構造物と共振する1100Hzで最大となっています(図14)。騒音問題を検討するには、モータだけでなく構造物も含めた解析が必要であることがわかります。


(図13)遠距離場マイクの位置

(図14)解析結果:遠距離場マイク位置での音圧レベル

Ansysではさらに、マイク位置で拾った音響解析結果を音声(WAVファイル)で出力する機能を備えており、モータ音を耳で聴いて確認することができます。本解析例で実際に出力した音声を(動画5)でお聞きいただけます。
※音圧レベルが16dbと小さいため、スピーカーのボリュームを大きくしてお聞きください。


(動画5)音声ファイル出力例

考察

構造物の共振が騒音に大きな影響を持っていることから、モータの振動問題や騒音問題はモータの電気的な解析だけでなく、構造物も含めた解析が必要であるといえます。ここでは単一の回転数について解析を行いましたが、Ansysでは複数の回転数で計算することもできます。冒頭の(動画1)でご紹介したモータ騒音解析例は、回転数を157~418RPMまで変化させたときの騒音を解析したものになります。

解析によって得られた効果

モータの磁場解析結果を活用して、磁場解析→振動解析→音響解析という一連の流れを通して、モータの騒音を解析することができます。音響解析結果を音声として出力することで、解析で得られたモータ音を実際に耳で聴いて確認でき、より実感に即した評価ができるようになります。


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